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投稿者 スレッド
webadm
投稿日時: 2017-5-8 0:06
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3086
Re: ピアノ教本
ふう、なんとかトレモロの壁を乗り越えて仕上がりに向かっている感じがする今日この頃。

この年になると仕事の疲れが溜まるのが速く、疲れがとれるのが長くかかるよね。怪我や傷も治るに時間がかかるよね。

ピアノの練習も習熟に時間がかかるので、焦らず諦めずに毎日積み重ねる感じ、粘るしかないよね。

ことピアノに関しては一夜漬けとか集中特訓とかでの成果は期待できないので貴重な時間と月日を重ねるしかないよね。

さて、前回の続きでこれまで読んだ本をご紹介しまちゅ。

ピアノ演奏法の基本「美しい音を弾くために大切なこと」 中山靖子 著



帯に書いてあるように、戦前から日本で指導にあたって、ロシアには戻らず戦中・戦後と日本にとどまって骨を埋めたクロイツァー氏に師事し、その後海外留学でギーセキング、テーンベルクに師事した著者の演奏方法や練習の心得を自身が教える生徒向けに編纂した「中山靖子の勉強帳」をベースに、抜粋して単行本として出版したもの。

中級、上級またその上を目指す生徒やピアノの先生が想定読者になります。

ピアノを独学で始めた大人にも導入段階や基礎の練習で必要な事柄が先生向けに書かれているので、読んで役立つと思います。

基本のタッチやテクニックに関してもひとつひとつ指導の要点が書かれているので、かなりわかりやすいです。

驚いたのは、30年も前から小学校高学年の生徒やその親向けに配布していた「ピアノを学ぶ生徒の心得」の内容。「大学生になる頃までに身についておるべき事柄、及びそれらを達成するために御家庭に御協力をお願いする事柄」という一文で始まる内容でした。

以前にも書いたけど「人間として正しく生きること」を優先するようにピアノを練習することで生じる可能性のある無用のトラブルや困難を避けることができるように本人や親御さん向けのガイドという感じがします。

女の子なら当時こうした指導に従って育ったなら、当時としては理想のお嫁さんとして良い縁談にも困らないかもね。結婚しても自立心を失わずに良妻賢母として尊敬され慕われるのは確か。

本書の最後の章は「ピアノ演奏の伝統について」と題して、「私の師事した先生たち」という内容で著者のピアノ研鑽の経歴を時代順に紹介しながら、如何にして著者が様々な時代様式に対する演奏の伝統を学んでいったかについてまとめられています。それはまた師事した師匠のその後の消息についても触れることになり、師弟の関係が如何に人間的であり、得がたいものであるかについて感じさせられました。

独学している限りにおいては、決して得ることができないのが、師弟の人間関係だったり、そうした血脈のつながりだったりする。

比較的薄い本なのでボリュームが足らないように見えるけど、内容は決して薄くはないです。また余分なことは書かれていなく、良くまとめられているという印象を受けました。

次に紹介するのは最初海外で出版されているピアノ演奏法に関する書籍を調べている時に出会った本。日本でも日本語版があるか調べたらあった、でも絶版らしく中古本での購入になりました。

"Approach to Pianism ピアニズムへのアプローチ 音楽的なピアノ演奏法" 大西愛子 著



著者はカルフォルニア州立大で教鞭をとり、その頃に生徒向けに書いた本が、最初に見つけた海外で出版された英語の本「Approach to Pianism」が原題で、その後日本でも日本語版が出版されたのが本書ということに。

内容的には基礎を終えて更に上を目指す中級や上級の生徒およびその指導者向け。

もちろん必要な基礎的な演奏テクニックに関しても他書にはない斬新な視点での具体的な演奏方法に関する詳しい説明やガイドが記載されており、ピアノ練習を始めた大人なら読んでおいて損はない内容。

具体的な練習曲の例を挙げて音楽的に弾く場合の著者なりの方法をひととおり解説しているのが圧巻。

取り上げられている曲はショパン、バッハ、モーツアルト、ワルツ、エチュード、ノクターン、ベートーベンのピアノソナタ、シューマン、ブラームス、ドビッシーと中級から上級以上の曲ばかり。

これらの曲の演奏を目指す場合にも読んでおいて損になることはないと思われる。

もちろん表題にあるようにこれはあくまでも著者自身のアプローチであって、そうした弾き方しか無いというわけでもなく、人それぞれの解釈があって当然で、それを見いだすのは演奏者自身ということに。

本書の最後には、「エクササイズ」としてピアノを弾くなら覚えておいて損は無い指のストレッチ体操の仕方が紹介されている。中でもオクターブが届かないとか悩みの多い日本人向けに、指の間を拡げるストレッチ方法が紹介されています。

今まで親指以外の中手骨の間は靱帯で繋がっているので拡がらないと思っていたのですが、中手骨の間が1ミリでも拡がれば、指先の幅は更に拡大するので大きな違いになるということを知り驚愕。

大人になってからだと年月はかかるけど、毎日故障しない程度に指の付け根の間をストレッチして少しでも拡がるようにすれば良い結果が得られると思います。

また、日本人の悩みの種のマムシ指に関しても矯正方法が紹介されています。

第7章の「曲の学び方」ではユニークなアナリーゼと暗譜の確かめ方の方法が示されています。

最後の第8章「基礎ー教える立場から」

ピアノ指導者の観点からの基礎的な注意点や見逃しがちな点、なおざりにされがちな面について書かれています。

普通のピアノ演奏法の本では書かれていないような上級向けのテンポルバートや、高度だけど自然で音楽性を更に追求する秘訣とかも書かれており、初級者はたやすく真似をしてはいけないなと思うところもあります。

実際に同じアプローチで演奏している現役のコンサートピアニストが居ることも確かで、以下のYoutube動画で確かめることができます。



上のYoutube動画のコメント欄で炎上しているのは、本書で紹介されている楽譜上では同じタイミングで演奏するのが常識的なところで左手が右手よりちょっとタイミングが先行して弾いているアプローチ、そうしたアプローチに批判的な人が居る一方で音楽的にはあり得ると肯定する人とか賛否が分かれるところでもあります。私は自然で音楽性を損なわず高める効果があるので成功だと思いますが。

こうした演奏を目指すには必読の書かも。

代わって紹介するのは、現在は絶版で中古本で入手となった

"ピアノ・ノート「演奏家と聴き手のために」" チャールズ・ローゼン 著 朝倉和子 訳



知識人向けの本を出版しているという印象のある、みすず書房の本で音楽出版社から出た本ではないというところが味噌。

著者はバロックから近現代の曲をすべてカバーする数少ないピアニストの一人。そうしたピアノ演奏の第一人者が誤解を恐れずに自らの体験したエピソードや含蓄を共感できる人向けに書いたもの。

なのでピアノを教えるとかいうのではなく、身近らの経験で議論の種になりそうなエピソードをひとつひとつ取り上げて紹介している内容。

まじめなピアノ教育本ではおよそ誤解を招くので取り上げられない話題もぽんぽん登場して、素人的にも読んでいて飽きない。

第一章では以前も紹介した本で衝撃を受けた、親指の指くぐりに関する名ピアニスト Lipatti のエピソード。著者の親指は隣の人差し指の第二関節に届かない程短いため、指くぐりではずっと困難を感じていたとのこと。また手が小さいことで良く知られた名ピアニスト Hofmann のエピソードやその他別の手の悩み(指が太いとか手が大きすぎるとか)を持つ歴代名ピアニストが居ることを揚げて、ピアニスト向きの理想的な手など存在しないということを述べている。読者にとっては一種の安心材料だろう。

第二章ではピアニストと聴音の話で、ラフマニノフが汽船で演奏先に向かう間に「音の出ない模擬鍵盤」を使って練習していたというエピソードを枕に、ピアニストは自分の出す音を聞くことも鍵盤を見ることもなく演奏が出来るという出だしで、ピアニストしか知らないその良い点と悪い点の具体的な事例を挙げての奥深く興味深い話が続く。

そうやって内容を紹介したいところだが、ネタバレになってしまっても申し訳ないので、是非とも手にとってお読みください。内容は保証します。

ピアノ演奏が公開の場での一度限りのイベントだった時代から、録音技術が発明されて、レコードやCDそしてインターネットの動画とかで誰でも繰り返し同じ演奏を聴くことができるようになった現代ならではのピアニストのエピソードも興味深い。

現代ではデジタル信号処理技術が高度に発達しているので、録音した複数の音源(テイク)を切り貼りして最終音源に仕上げるということも常套手段らしいことを知る。それを最初にやったのがグールドだということも。

後半はそうしたプロのピアニストを巡る裏話というかエピソードで満載。

最後のポストリュードでは現代のピアニストならではのピアノの未来に関する憂慮を吐いている。クラッシック音楽を商業的に凌駕してしまったそれ以外の音楽ではピアノは中心的な役割を演じていないという事実。拡声器で音量を増大するロックなどでは屋外での演奏では生ピアノは用いられず、ギターがそれに代わってしまっている。若者はピアノではなくギターに興味を持つ。ピアノの居場所はだんだんと狭くなっていくのだろうか。

面白い。

次に読んだのが、ちょっと毛色が違うけど、古い時代の鍵盤奏法の定本。

"正しいクラヴィーア奏法 第一部" カール・フィリップス・エマニュエル・バッハ 著 東山清一 訳

かなり新しい本に見えるけど、同じ訳者の旧訳本が存在し、これは新たにファクシミリ原本から翻訳し直した新訳とのこと。



ベートーベンの生きた時代にドイツでは唯一の権威ある鍵盤楽器奏法の定本だということは著者名からして明らか。

著者は大バッハを父親とする次男。当時の鍵盤楽器として普及していたのが、今日のピアノが登場してから古楽器として忘れ去られいて近代になって見直され復元もしくは新たに設計製作されるようになったクラヴィコードと本書ではフリューゲルと聞き慣れない名前で呼ばれている、今日ハープシコード、チェンバロ、クラヴサンなどの名称で呼ばれる古楽器である。



当時ピアノを購入する際に下取りに出された古いクラヴィコードは焼却されていたが、名品が出てくるとこっそり倉庫に移して修復していたらしい。確かに良い音色のするものは同じものを作ろうと思っても材料とか製作者が得られなくなっては無理。

クラヴィコードにはフレット式とノンフレット式があって、前者はちょうどギターみたいにひとつの弦で異なる音階を受け持つようにしたもので、楽器自身はより小型になるけど、隣接する音は同時に鳴らないという制限が伴う。後者は鍵盤毎に独立した弦が張ってあるので、その制約は無いけど、鍵盤の数だけ弦が張ってあるので楽器自体が大きくなる。いずれも発音の仕組みは鍵盤を押すと、鍵盤の先にあるタンジェントと呼ばれる真鍮の板が弦を下から突き上げて弦を鳴らずので、ギターで言うハンマリングオンで弦を慣らすような感じで弦を指や爪で弾くのと比べると音量は小さい。弦は常時フェルト布で振動を抑えるようになっているので、鍵盤を押してタンジェントが付き上がった弦以外は共振しない。鍵盤を元に戻すと鳴っていた弦もフェイルト布が効いてミュートされる仕組み。

今では日本でも個人で製造されているらしい。これぐらいの大きさなら自宅に置けるね、買ってしまいそうで怖い。検索すると実際に購入して自分で組み立てた人の日誌が出てくる。調律も自分でやらないといけないぽい(現代ではスマホのアプリで便利なチューナーがあるのでギターとかと同じ要領で調律すればいい)。

一方でフリューゲルは語源が鳥の「翼」から来ていて、ちょうどチェンバロやハープシコードの形状が鳥の翼のような形状をしていることからそう呼ばれたらしい。検索してもそのことについては一切ひっかからないというのも驚くべきことだが。横浜フリューゲルズとかはひっかるが、語源は一緒だね。



厳密にはカップリング機構の有り無しとか鍵盤が一段か2段かとか、フリューゲルでもいろいろ違いがあるらしいけどね。

チェンバロを現代に復活させたのはピアニストのワンダ・ランドフスカで、結婚して夫から聞いた古楽器に興味を持ち、プレイエル社に特注して作らせてからピアノからチェンバロ演奏家になったらしい。



訳者の前書きには、この新訳の出た経緯や、かのベートーベンがチェルニーを弟子入りさせる際に父親にこの本を買い求めてチェルニーに持ってこさせるように指示した逸話がチェルニーの自伝から引用されている。

そうかチェルニーもこの本とベートーベンから運指法や装飾音の演奏方法を学んだのだということが確定した。

実はチェルニー自身は練習曲だけではなく、自ら編纂したピアノ演奏法の教本も作品番号付きで出版していることを後で知ることに。日本語訳も重要な巻については出ているので、既に取り寄せて読んで紹介する予定である。

ということはベートーベン自身も本書から多くの示唆を受けたに違いないし、チェルニーに師事した弟子もその流れを受け継いでいるに違いない。

そうするとチェルニーがリストに教えた運指法というのも、チェルニーがベートーベンとこの本から学んだものに基づいているということになる。

後でフランスのロマン派時代のリストとショパンの双方に師事した希有なロシア人が書き残したドキュメンタリー的な本があることを知り、その日本語訳も入手して既に読み終えている。これも後ほど紹介することに。

当時は楽器の奏法に関する教書はフルートとバイオリンに関してはあったものの、鍵盤楽器に関してはバッハのこの本が唯一。その後新しいものが登場するまではバッハのこの本が定本だった。

本の内容は教科書というものではなく、原題にあるように試論という意味合いが強く、現代的に言えば研究論文みたいな雰囲気がする。

それでも出だしから当世の鍵盤楽器奏者事情や教育事情の批判から始まってやおら面白く読み進めることができる。鍵盤楽器の普及が急速に進んで、インチキ演奏家やインチキ教師がはびこったことがうかがえる。

そうした状況を憂慮した著者が正統な運指法や装飾音の用い方や演奏方法に関してお手本を示す内容になっている。

当時の印刷技術の制約から、本文と楽譜を同じページに入れることができなかったので、原書では参考譜は別冊付録の形だったらしいが、今日ではそんな制約は無いので、本文中に参考譜面が納められている。ただし多数の練習曲(ソナチネ)はページ数の関係から収録されていない。

運指方法に関しては、当時採用されていたいくつかのアプローチがすべて紹介されて、最も一般的と思われるものを著者が推奨する形をとっている。また運指を決めるためのルール等も紹介されているのが特徴。

これを読んで、今日では練習曲に運指番号が記入されているのが生徒にとっては当たり前みたいなことになっているが、当時も今も運指は演奏者自身が最終的には考えて調整するのが正統というのが伝わってくる。

これを機に普段から運指方法に関しては念入りに点検することにしよう。

バッハが一般的として推奨している運指例の中には、今日では見かけない親指以外の指くぐりや指越えの事例が出てきて驚愕した。特に3の指で4の指を越えるとか、普通あり得ないし、どうやって弾くんだそれ(´Д`;)

しかし別の本で読んだのだけど、ショパンはその当時既に誰も使わなくなった運指方法を復活させた人らしい。確かに独特のレガート奏法の中に考えもしない弾き方があるのは知っている。

そんな感じで全調のスケールに関しても運指方法が詳しく議論されている。今日でも何通りか流儀が存在するのは知っているけど、そのどれか練習すればいいかと思っていたけど、やはりちゃんと根拠を自分で納得してやったほうがいいに決まっている。

ただ全調その調子で議論を読むのは少々疲れた(´Д`;)

後半はたぶん今日でもバロックや古典の曲に取り組む人は必読の装飾音の演奏方法に関する議論。

大バッファの時代の譜面を見ると、五線譜の上あたりに、ゴニョゴニョと這う虫みたいなジグザグ線が書いてある。それが装飾音記号であるが、演奏方法は原譜には記載されていないので、予め知っておく必要がある。

トリルもしくはトリラー、トレモロ、プラルトリラー、ターン、モルデント、最初に見てもなんのことか区別もつかないよね。

それらに関して詳しく具体的な曲を例に挙げて正統な弾き方が紹介されている。

たぶんに著者は演奏家や教師で、ある程度前知識があって、正統な根拠なくそれらを用いているという読者を想定しているのだろう。

初心者にとっては、最初にこれはこうとまとめがあってほしいところだけど、それは他書にゆだねるということだろう。

それでも読み進めれば、それらの違いや目的が明確になり、かつ具体例で良い例や悪い例(これが区別付きにくいので間違って覚えそう)を挙げて議論しているのがわかる。

だいぶ最後まで読むのに疲れるけど、バッハの時代の作品に取り組む際にまた読み直すことにしよう。

既に第二巻も買ってあるのだが、そちらは即興演奏とかかなりアーティスティックな部分に関する本なので他に読む本が無くなったら読んで紹介する予定。

次に紹介する本は、先ほど話題に出したロマン派時代のパリでリストとショパンの双方に師事したロシア人が書き残したノンフィクションドキュメンタリータッチの短編本

"改訂版 パリのヴィルトォーゾたち ショパンとリストの時代" ヴィルヘルム・フォン・レンツ 著 中野真帆子 訳



本書は改訂版とあるので、その前に初版本があったことを意味する。

薄い本だけど、内容は衝撃的なほど新しい。というかリストやショパンらが現れる映画の1シーンの中に居合わせたみたいなリアルな感覚を覚える。

本編はあくまで原書の翻訳と後書きにとどめ、訳註は付録として別に閉じてある。

今までだれもこんなにリアルにリストやショパンを描写できた人が居ただろうか。

まったくもって貴重で奇遇な本である。


リストとショパン、どちらも希有の天才音楽家で、独特の個性と繊細でひときわ鋭い感覚を持ち合わせていたのが否応なしに伝わってくる。

リストに生まれて初めてレッスンを与えたのが著者だと言わしめているところも興味深い。それにしては教え方がうまい。

著者がめげずにリストが重い鍵盤仕様で特注させたピアノと知らずに出だしを弾ききったところで、それまでソファーに横になっていたリストが起き上がって近寄って来て興味を示しレッスンを受けることが出来るきっかけとなったのがウェーバーの「舞踏への勧誘」という曲。



動画でも説明されているように、中村紘子さんがCMで演奏していたらしい、確かに中盤のところは記憶に残っていた。


著者がショパンの前で最初に弾いたのがリストから予め教わっていたワルツ Op.7-1という曲。



リストの紹介だったので、ショパンにリストの作戦が見抜かれてしまった場面も面白い。

ショパンは沢山の貴族の令嬢にピアノを教えていた。その中で曲を献呈した美人の一人でデュプレ嬢を見送る場面がある。献呈された曲が Noctune Op.48の1番と2番である。



1番はショパン弾きの定番らしいけど、2番を弾く人は少ないか、弾いても高い評価を得ている人は少ないと言うべきか。確かに音楽的に美しく弾くのが難しい曲な感じがする。



Youtubeではルービンシュタインがダントツでこちらのアラウの演奏がそれに次ぐ感じ。キーシンの演奏動画もあったが、遠くのカメラから撮影しているので音が良く聞こえない、残念。

著者がショパンにレッスンを受けるようになった頃に後に夭折した天才少年フィルチもレッスンを受けていた。リストはその少年が演奏活動をし始めたら自分は店仕舞いすると言う程だからすごい。著者が実際にレッスンに居合わせており、ショパン自身が言っているようにショパンより演奏がうまかったらしい。

著者がショパンから一生弾けないでしょうと断言された、物憂げなワルツという曲がどんな曲なのか知りたいが、作品番号は書かれていない。

検索したらいくつかそれに関するサイトがヒットしました。既に絶版になった本書の原本を資料のひとつに構成された「弟子からみたショパン」というフランスの本の日本語訳版があったそうです(絶版)。その中にレンツの著書から引用したショパンの台詞がそのまま載っていて良く知られているそうです。

ショパン:ワルツ 第3番 イ短調 作品34-2「華麗なる円舞曲」



Youtubeには沢山アップロードされていますが、ショパンが言ったように弾けている人は少ない感じ。難しい曲だなと思います。

改訂版と改訂前の初版があるらしいですが、著者が手にしていたのは初版で、ショパン自らが直筆で改訂版の異稿を書き込んだという話。他の弟子にも同じように書き込んだらしいので、その後の出版はその改訂が反映されたものとなっているようです。勉強になるね。

著者が目撃したロシアの陸軍省の大臣の娘、チェル二シェフ王妃もショパンの弟子で、ショパンはプレリュード op.45 を献呈したとある。



次に登場する曲は、ショパンが着替えに隣の小部屋に行っている間に著者が挑発をかねて弾き始めたベートーベンのソナタ作品26。



ショパンはこれを聴いてワイシャツ姿のまま飛び出してきて美しいと褒めた。

このベートーベンについて著者と語ったショパンは、誰もがその人しか出来ない演奏スタイルというのがあるということを知っているし尊重していたことを伝えている。

著者がロマン派時代の前にベートーベンが先駆けしていたとショパンに教えた、ベートーベンの弦楽四重奏曲第11番。中でも第三楽章のスケルツォがショパンのマズルカやファンタジーにあるものを先取りしていたらしい。



第三楽章だけの動画は無いので、上のは全楽章のもの。

著者がパリでのショパンの評価を高めたと言っている、マズルカ作品50を聞いてみよう。



アンナ・フェドローバの演奏動画があった。どこかで聞き覚えがある曲だ。

次に著者がショパンのマズルカにある展開を先取りしたものとして、ウェーバーのソナタハ長調を挙げている。作品番号は記されていないが、ソナタ1番がハ長調だった。



動画ではないが、キーシンの1996年の公演の録音があった。映像が無くてもすばらしい演奏なのは聞くだけで明らか。

著者が次ぎに挙げたのが、ショパンのノクターン作品9-2で、良く知られたポピュラーな曲。ノクターンを生み出したジョン・フィールドの作風から、ショパンが芸術へと発展させた記念碑的な曲。卓越したピアニストでもあった当時のプレイエル夫人に献呈された。



この曲には個人的に思い出があり、若い頃に最初の国産32bitマイコンを展示会に出す際のデモシステム開発の一担当だった時に、企画した先輩社員のM主任がリットーミュージックから紹介された会社にMIDIの曲データ製作を依頼した。会社といっても音大出と思われる若いご夫婦の会社で作曲と演奏は奥さんがデータ打ち込みと編集は旦那さんだと思われるが、できあがった曲の一つにこのノクターンが入っていた。

普通に楽譜からMIDIに打ち込んだだけでは音楽的に聞こえないので、おそらく奥さんがMIDIキーボードで演奏したのをキャプチャして旦那さんが編集したのだと思われる。

2回目の展示会ではこのために特別に編曲した「おもちゃ箱ひっくり返しちゃった」という良く知られている「猫踏んじゃった」のテーマをベースにテレビやお茶の間で良く聞くメロディーをレミックスした楽しく愉快な変奏曲が提供されました。初日に期待を込めてご夫妻が様子を見に来たところ音量がぎりぎり聞こえる程度に押さえていることに激怒して帰ってしまいました。仕事を依頼したM主任が後で宥めるのが大変だったようです。当時は電子部品の展示会はパネルと説明員が居るだけの静寂な展示が常で、音を鳴らすなんていうのは前例が無かったのです。展示会最終日は大きな音で鳴らしたそうです( ´∀`)

同じく開発を担当していた先輩S主任は音楽愛好家で知られていて、ギターも弾くしキーボードも弾く、家に食事に招かれた時にヤマハのエレクトーンが部屋にあったのを覚えている。それでどこからか手に入れたのかそのノクターンの楽譜を持ってきて、自動演奏用のサンプリングシンセサイザーで練習を始めた。しかしこの曲は易しく聞こえるけど、弾くのは難しいだろうと予測していた。その後弾けるようになったかは謎。

開発中に企画担当のM主任の車で工場へ送ってもらう際にM主任の趣味が当時流行りだしていたDTMだったことが明らかに、しかも車中で流れていた曲はM主任の作曲だということも判明(まだCDが無かった時代なので、カセットテープ録音)、同乗した奥さんからの評価は低いみたいだったけど、確かにどんな曲だったかも記憶にない。それで今回の開発企画はM主任の趣味と実益を兼ねていたのだと確信。

その後S主任も私も転職して何年かして再開した時にS主任がエッセー集を出版していてその中のエピソードの一つに上のデモシステムの時の事が書かれていると教えてくれました。私も登場しているらしいです。

さてショパンはこの曲が嫌いだったと著者が言わせている。それは本当だろう。著者はこの時に貴重なショパン直筆の異稿を書いてもらっている。

著者はジョルジュ・サンドと初めて会う場で、再びウェーバーの「舞踏への勧誘」を弾いている。

当時ショパンを囲っていたジョルジュ・サンドとも著者は真っ向勝負している場面が面白い。当時のパリの社交界の流儀というのが良く伝わってくる。

リストは「かわいそうなショパン」とジョルジュ・サンドに囲われの身になっている姿を哀れんでいたが、著者はその哀れな一面を目の当たりに見ることになる。

その後著者が目撃したマイアベーアとショパンの論争に出てくるレッスン曲が、マズルカ作品33-3 ハ長調である。



しかし確かにwikipediaではこの曲になっているが、著者が書いているように悲しい雰囲気はまるでない。

3番はショパンにしては珍しいハ長調だけど、弾きにくいのか異稿が存在するのか、ロ長調のものも良く見かける。そちらはもっと明るい。

どちらかというと著者がマズルカの墓碑銘と呼んでいるのは、良く弾かれている4番じゃないかと思われる。



掲載されている譜面は3番のものなので、論争が起きたのは3番には違いない。

次に登場するエピソードは、ショパンやジョルジュ・サンドが後継者として期待していた、グートマンという弟子の話。著者やフィルチ少年はそれを認めることが出来なかった。ショパンの大いなる勘違いだった話。ショパンが弟子のグートマンに献呈した曲が、スケルツォ第3番作品39。



かなり和音が力強い曲という印象。Youtubeにはプロからアマチュアまでいろんな人のがアップロードされているけど、どれひとつとして同じ演奏というのが無いね。難しいのかな、それだけに一度取り組むとやみつきになるのかも。

これらは少なからず演奏を学ぼうとする者や教える立場の者にとっても貴重な話だろう。

誰かこの本を元にドキュメンタリー映画とか作らないのだろうか?迫真の演技が求められるのは確かだけど、観てみたいものだ。

この本の原書が出版された19世紀から100年以上たった20世紀末にフランスで翻訳され、訳者が留学中に与えられた研究課題の題材として最初に出会ったと前書きで書かれている。

まるで100年間も歴史のタイムカプセルにしまい込まれていた当時の出来事が現代になって開かれて光を得た感じだ。

著者はショパンを囲っていた当時の流行作家のジョルジュ・サンドの作品は時代が変われば忘れ去られるだろうが、リストとショパンの残した作品は時代が変わっても価値は失われず語り継がれていく言い切っている。それは今でも正しい。

まだまだ連休中に読む予定で購入してご紹介しきれない本がいくつかあるのですが、次回に紹介できれば幸いです。

んじゃまた。
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題名 投稿者 日時
   ピアノ教本 webadm 2016-9-19 5:59
     Re: ピアノ教本 webadm 2016-10-23 22:12
       Re: ピアノ教本 webadm 2016-10-30 8:03
         Re: ピアノ教本 webadm 2016-11-4 6:55
           Re: ピアノ教本 webadm 2016-11-13 11:39
             Re: ピアノ教本 webadm 2016-12-5 2:35
               Re: ピアノ教本 webadm 2016-12-11 23:58
                 Re: ピアノ教本 webadm 2016-12-24 1:25
                   Re: ピアノ教本 webadm 2016-12-25 22:23
                     Re: ピアノ教本 webadm 2017-1-3 4:45
                       Re: ピアノ教本 webadm 2017-1-22 3:37
                         Re: ピアノ教本 webadm 2017-1-30 9:19
                           Re: ピアノ教本 webadm 2017-2-6 5:06
                             Re: ピアノ教本 webadm 2017-2-12 4:19
                               Re: ピアノ教本 webadm 2017-2-19 0:49
                                 Re: ピアノ教本 webadm 2017-3-21 3:37
                                   Re: ピアノ教本 webadm 2017-4-17 21:54
                                   » Re: ピアノ教本 webadm 2017-5-8 0:06
                                       Re: ピアノ教本 webadm 2017-5-28 21:31
                                         Re: ピアノ教本 webadm 2017-7-2 21:55
                                           Re: ピアノ教本 webadm 2017-8-13 11:11
                                             Re: ピアノ教本 webadm 2017-9-20 12:33
                                               Re: ピアノ教本 webadm 2017-12-2 22:07
                                                 Re: ピアノ教本 webadm 2018-1-12 11:12
                                                   Re: ピアノ教本 webadm 2018-1-29 5:48
                                                     Re: ピアノ教本 webadm 2018-5-5 2:28
                                                       Re: ピアノ教本 webadm 2018-9-9 20:31
                                                         Re: ピアノ教本 webadm 2018-9-30 22:06
                                                           Re: ピアノ教本 webadm 2018-10-7 14:58
                                                             Re: ピアノ教本 webadm 2018-12-23 22:37
                                                               Re: ピアノ教本 webadm 2019-2-20 10:29
                                                                 Re: ピアノ教本 webadm 2019-4-14 23:51
                                                                   Re: ピアノ教本 webadm 2019-4-21 7:29
                                                                     Re: ピアノ教本 webadm 2019-4-29 12:39
                                                                       Re: ピアノ教本 webadm 2019-5-4 5:01
                                                                         Re: ピアノ教本 webadm 2019-5-4 23:11
                                                                           Re: ピアノ教本 webadm 2019-5-16 12:44
                                                                             Re: ピアノ教本 webadm 2019-5-26 19:33
                                                                               Re: ピアノ教本 webadm 2019-7-5 10:32
                                                                                 バイエル卒業(´∀` ) webadm 2019-8-5 0:50
       Introducing Pianoprima EXERCISES webadm 2020-8-11 6:27

 
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