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webadm | 投稿日時: 2010-1-10 20:46 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3068 |
【6】正実関数、インピーダンス関数、アドミッタンス関数 以下に示す関数が正実関数かどうか判定し、そうであればインピーダンス関数(Z(s))およびアドミッタンス関数(Y(s))として回路合成せよという問題。
正実関数はs=σ+jωの有理関数でRe(s)≧0の時Re(Z(s))≧0で、s平面の右半面では正則(極を持たない)という性質をもつ。それ以外に厳密には、 ・虚軸上でRe(Z(s))≧0 ・虚軸上の零点は一位で、微係数が正 ・虚軸上の極は一意で、その留数が正の実数 という条件を満たしている必要がある。 s平面の右半面では正則(極を持たない)という判定は本によってはHurwitzという名前を挙げてその多項式の安定判定(t→∞で過渡項がすべて0になるので系は安定する意味)を紹介しているものがある。A. Hurwitzは戦前のドイツの数学者で複素関数論(特に楕円関数)の著書で有名である。今だにドイツでは増刷されて読まれている。戦前にドイツで出版されたHuriwitzの楕円関数に関する著書も収められた複素解析の古本が何故か手元に一冊あるが、果たしてHurwitz判定がどこに記されているか未だ発見できない。もしかしたら別の論文なのかもしれない。 Hurwitzの判定法は、有理関数の分母の多項式の根がすべてs平面の虚軸を含む左半面にある場合、その多項式はHurwitz多項式と呼びその微分方程式の解は安定であるというものである。これは右半面に極を持たないのと同値である。また分母の多項式がHurwitz多項式であったとしてもRe(s)≧0でRe(Z(s))≧0を満たすとは限らない(分子の多項式に依存する)ので、あくまで正実関数であればその分母の多項式はHurwitz安定条件を満たすという意味である。 これは一見すると極がs^2=-1にあるので、すべて虚軸上にのみ存在しそれ以外では正則であるので正実関数の条件を満たす様にみえるが。分母の次数と分子の次数の差が1を超えている点で怪しい。最初からひっかけ問題である。 これを更に部分分数展開すると やはり極が虚軸上にあっても、留数が正の実数ではないので正実関数ではない。 これも極は負の実数なので右半面で正則である条件は満たすが、分子の多項式に負の定数項が出てくる時点で受動素子回路としてはあり得ない。 Maximaを使って部分分数に展開すると 見事に負の留数を持つことが判明しアウト。 今度は分子も分母も定数はすべて正の実数であるようにして出直してきたみたいに見えるが、部分分数展開してみると ということで極は左半面だが留数が正の実数でないのと、それ以外の項にも負の定数(負性抵抗)があるので受動素子回路として合成できないためアウト。 これはまともそうだ。Maximaで部分分数に展開すると s=0にのみ極を持ち留数も正の実数(1/2)であることから正実関数である。これをインピーダンス関数、アドミッタンス関数として回路合成すると ということになる。 一見すると負の留数を伴っているように見えるので即アウトと宣告したくなるが、極は負の実軸上にあるので必ずしも留数が正の実数である必要は無い。 この式を多項式に展開すると 割とまともな関数である。零点と極がいずれも負の実軸上にのみ存在する。 しかしFoster展開しようとすると負の項が出てしまう。 それではCauer展開をやってみよう。 著者の解とはまるっきり違うがこれも解である。2つの回路は互いに双対であるのが見てとれる。Foster展開は一意的に回路が決まらないという事実を知って驚いた。Cauer展開は式が決まれば回路は一対一で決まる。自分で数理的に裏付けたわけではないがなんとなくそう予想する。 これもまともそうである。 Maximaで部分分数展開してみると 留数もすべて正の実数なのでよしと。これはそのままFoster展開で合成でき ということになる。 これもまともそうに見えるがMaximaで部分分数展開すると 重根を持つ上にまたしても負の留数を持つ。極が負の実軸上なので問題ないのだがFoster展開ではそのまま合成できない。 悔しいことにCauer展開を試みるも途中で負の定数項が現れて失敗している。ということは先のCauer展開に関する予想は外れたということを意味する、(;つД`)どちらもリアクタンス関数に限定しての話だったし。というのも問題の関数はリアクタンス関数ではないということは負の実軸上に極を持つことから損失のある回路であることから自明だった。 それではどういう回路がこうした関数を持つのかということを考える必要がある。今まで学んだ一端子対回路では極が重根を持つことはなかった。重根を持つことの物理的な意味は、一つの回路の極が直列もしくは並列に接続された別の回路の極と一致しているということでしかあり得ない。すなわち2つ以上の一端子対回路が直列もしくは並列に接続される場合に一方の極が他方の極を隠すということになる。今回のケースでは負の実軸上に重複した極があるので、同じ時定数を持つ2つの一端子対回路が並列もしくは直列接続されていると考えるべきである。 同一の極を持つ2つの異なる一端子対回路のインピーダンス関数Z1(s),Z2(s)のそれぞれの分子の多項式をN1(s),N2(s)とし、共通の分母の多項式をD(s)とすると、直列に接続された場合の合成関数は ということになり、そのまま共通する極を受け継ぐことになるが重根にはならない。 一方並列に接続した場合には という具合に元の極も受け継ぐが、それ以外にも新たな極を持つことになる。逆に並列に接続されたインピーダンスが共通の零点を持つ場合には零点は重根になる可能性を持っている。 そうすると4つの相異なる一端子対回路を二組並列にそしてそれらを直列に接続した場合の合成インピーダンス関数を考えると 題意にあるような単一極(重根)を持つには これを代入すると 従って を満たすD1,D2,D3,D4,N1,N2,N3,N4を求めればいんだが、どうすんだこれ。無数の解が考えられるんだけど、その中で回路的に実現可能なのは限られているはず。それぞれの多項式はすべて整式で係数は正の実数でなければならない。わかんね(;´Д`) これは一体どういう回路の問題かというのを考えてみると。 最初左にあるように並列回路が2つ直列に接続された形が思い浮かぶけど、すぐに右の格子状回路の出力端が短絡された二端子対回路だということに気づく。一端子対回路はN端子対回路の1ポートを除いて他の端子対を短絡した回路であるので、二端子対回路の出力ポートを短絡すれば、一端子対回路になるわけである。こうした格子状回路はLattice Networkと呼ばれ、次ぎに学ぶ二端子回路理論に登場する。 しかし二端子対回路の出力端をショートした状態での入力端の駆動点インピーダンスの式からどうやってそれを構成するすべての一端子対回路を解くことが出来るのだろううか。 著者の解ではどうやって求めたか謎だがインピーダンスの式を2つの部分分数に分離して、それぞれ展開している。どう分割するかを決める方法を知らない限り、この回答は式が変わった瞬間に役に立たなくなる。分割してからの式の展開はどうでもよい。どのようにやって2つに分割するかが問題である。 ここで次ぎに学ぶ二端子対回路理論に先駆ける命題にぶつかることになる。二端子対回路をブラックボックスとして、それを2つの端子対の駆動点インピーダンスから内部の構成を知ることができるのか?という命題である。結論的に言えば、それはできないということが言えよう。しかし内部をブラックボックスにしたままでも二端子対回路の振る舞いを決定する方程式を得ることは出来る。それが後に学ぶ4つの二端子対パラメータと呼ばれる要素で構成される様々な行列である。 今回の問題では出力端をショートした時の情報しか無いので、それらのパラメータを決定するにも出力端をオープンした時の情報を必要とする。いずれにせよ情報が半分足らないのである。最初の解析では8つの未知数に対して方程式は半分の4つしか立てられない。Lattice Networkだと仮定した場合でも4つの未知数に対して方程式は2つしか得られていない。これでは解けない。未知数の数分だけ独立した方程式が無ければ未知数をすべて解くことはできないように、二端子対回路パラメータは高々4つに限定されることになる。4つ判れば入力と出力の関係は決定されるので、それ以上内部の構造を知る必要が無くなるということになる。逆に言えばパラメータさえ判ってしまえば内部の詳細回路が異なっていても回路的にはすべて等価であるということである。しかしこのことは回路設計の観点からすればパラメータが決定してもそこから回路を自動合成する代数的な公式は存在しないという驚愕の事実を突きつけられる。回路設計はパラメータを満たす具体的な回路網を考えるという逆問題であるが、損失のある回路ではそのための代数公式は存在しないということである。任意の追加制約を与える創意工夫によってのみ要件を満たす回路が得られるということになる。なんだ回路設計ってそういうことだったのか(´∀` ) ではLattice Networkであると仮定して、無理矢理解くにはどうすればいいか。最初の分母と分子の多項式に分解して解析した関係式を良く見ると、 という関係が成り立ち、2つの分子の式をどう決めるかが課題として残ることになる。N1(s)N2(s),N3(s)N4(s)を2つの未知数としても独立した方程式は1つしか無いのでやはり解けない。 様々なケースが考えられる。 とすると すなわち しかしこれだと何も状況は改善せず 途中で負の係数が出現するので受動素子回路としては実現できない。もともとリアクタンス回路ではないことが判っているので、Foster展開もCauer展開もできなくて当たり前である。上の式は単に最初に部分分数展開を試みた際の式を2で割っただけに過ぎないので負の係数が出てくること自体は変わらない。 従って という制約が加わることになる。 また同様の理由から という制約も加わる。 今躓いている問題をs=10として自然数に関する問題に言い換えると を満たすような自然数N1,N2,N3,N4,D1,D2,D3,D4の組み合わせは何か? ということと似ている。Ramanujanなら即座に答えたかもしれない。どうすんだこれ(;´Д`) まずはこれが数学的に何なのかを知らないといけない。 まったく知らなかったのだが、これは不定方程式、もしくはディオファントス方程式(Diophantine equation)というらしい。整数係数と複数変数のべき乗の積の総和で表された独立方程式が変数の数よりも少ないもの。 ドイツの数学者Hilbertが数学上の重要な未解決問題のひとつにディオファントス方程式の一般解法を上げたことで知られている。その後数学者によって一般解法は存在しないという否定的な証明がされて解決したらしい。つまりどんな問題にも適用できる万能な公式というのが無いということ。つまり解があるかどうか判定する万能な方法は無いし、解があることが判っていても、ただ一つだけ存在するのか、複数存在するのかも問題によってケースバイケースということになる。 ディオファントス方程式には簡単そうで360年の間多くの数学者を奈落の底に陥れてきたフェルマーの最終定理も含まれる。 「3以上の自然数nについて、となる0でない自然数(x,y,z)の組み合わせは存在しない」 フェルマーは古代ギリシャの数学者ディオファントスが書いた数学書である「Arithmetica」のラテン語訳本を読みながら得たいくつもの発想を本の余白に書き残していたが、最後まで未解決だったのがフェルマーの最終定理と呼ばれていた。1995年にA. Wilesによって証明された論文が出版され、フェルマー・ワイルズの定理と認められて長い歴史にピリオドを打った。 8変数の不定方程式問題にまともに挑むと深みに入りそうなんだが(;´Д`) 解の元が整数体に限定した上の簡略化した問題であれば、NP完全問題なのでそれぞれの変数に1から順番に以下の条件を満たす有限の組み合わせをすべて代入してみて方程式を満たす組を見つける計算機プログラムを書いて終了するまでぶん回せば解は得られるが、本来の解とは違う無数の解も含まれてしまう。 本来の問題は解が正の実数を係数とする多項式であるので、代数多様体上の有理点を求める問題に拡大して解く必要がある。もうこれはまだ数学では未解決の分野で今も研究されているところである。素人が入り込むのは道が遠すぎる。 一応著者の解答から解はあることは確かなんだけどね。それ以外に解があるかどうかを調べようとすると戻ってこれない気がしてならない。賢明な読者の課題としよう(´∀` ) 著者はどうやって求めたかは謎だが という解を得ている。 この解に基づいて展開すると ということになる。途中の部分分数展開で負の留数が現れるが定数項と合わせて再展開すると消える。 従って回路は ということになる。 この問題は回路網理論が数学の代数理論とつながっていることを初めて気づかせてくれる。これを機会に従来ちんぷんかんぷんだった抽象代数理論に踏み込むきっかけを与えてくれた。先の不定方程式の問題はまさに代数理論そのものである。数値を代入してしまえば、最終的には数なのだけども、記号式の表現では数ではないので代数学的には変数と呼ばず不定元というらしい。その方が確かに適切である。これを機会に買い貯めてある代数学の入門書を読むことにしよう。 (nは正または負の整数) なんだこれは。これも有理形関数である。nが正の場合には分子の次数が分母の次数よりn大きく、分母の多項式は単位元(1)となる。逆にnが負の場合には、分母の次数が分子の次数よりn大きく、分子の多項式は単位元(1)と係数の積で表される定数となる。n=0の場合には、分子と分母の次数は等しく0となり、関数は定数となる。 また正実関数であるためには分子の分母の次数の差が1以下でなければならないので、|n|>1の場合には正実関数とならない。従って nが1の場合 nが0の場合 nが-1の場合 ということになる。回路図で表すと ということになる。 最後に出たな双曲線関数。双曲線関数は昔直流回路の演習問題で有限の抵抗ラダー回路とかでいきなり登場して酷い目にあったのが記憶に新しい。物理的にどんな意味を持つかはさしあたり置いておいて、正実関数であるかどうか確かめることにしよう。 s=σ+jωに置き換えると三角関数、指数関数、双曲線関数の間の関係より 従って の時 ということになり正実関数である。特異点がs平面上の虚軸上か左半面にのみ存在することからも条件を満たす。 問題はこの駆動点イミタンス関数が物理的にどういう回路かという点である。 とすると駆動点インピーダンスの式は ということになり、これは奇関数でωの値によって容量性か誘導性リアクタンスのいずれかとなり、また に極を持ち に零点を持つ。 インピーダンスの絶対値をωでプロットしてみると という典型的なリアクタンス回路の周波数特性を持っている。 インピーダンス関数として見ると、直流的にはオープン回路。交流的にはLC並列回路に似ている。アドミッタンス関数として見ると、直流的には短絡回路、交流的にはLC直列回路に似ている。 まるでなぞなぞである。 著者の解答は予め答えを知っている者の解答であって、本当に解いた結果ではない。まるで明日の天皇賞の勝ち馬を予想しろという問いに対して、明日の結果を知っている人が正解を書いているようなものでナンセンスである。ゼロ知識から結論を導くべきではないだろうか? ω=0としてσ≠0の場合をみてみよう。 ということになり、σ=0に極を持ち、σ=∞で定抵抗回路となる。(一部訂正 2010/3/1) σ=0は直流回路の定常状態だが。σ=∞は実験室では作りだせないが定抵抗回路になるという点は面白い。 この関数が物理的にどんな回路を構成するかは、今までのやり方だと部分分数に展開する必要がある。しかし式が整式ではなく双曲線関数だと展開ができない。従って、一端双曲線関数を級数に展開してみてはどうだろうか? (2010/3/3訂正) 先に解析した通り、この関数の極は 零点は ということになる。 試しに50次まで展開してインピーダンスの絶対値をωでプロットしてみると 同じだということがわかる。 従って、 同様にアドミッタンス関数として見ると ということになる。 回路図に表すと ということになる。ふう大変だったよママン(ノ∀`) インピーダンス関数としてみると、キャパシタC0、それに極に対応した共振点を持つイLC並列接続が直列につながっているとみなすことができる。直流(ω=0)と反共振点(ω=π,2π,3π,...)ではインピーダンスは無限大になることがわかる。それ以外の周波数では有限な値をとり、直列共振点(ω=π/2,3π/2,5π/2,...)は関数の零点で定抵抗回路となることがわかる。 アドミッタンス関数としてみた場合、インダクタンスL0、それに無数のLC直列回路が並列に接続されているとみなすことができる。双対的に直流(ω=0)と共振点(ω=π,2π,3π,...)でアドミッタンスが無限大の短絡状態となり、それ以外の周波数では有限な値をとり、反共振点(ω=π/2,3π/2,5π/2,...)は関数の零点でアドミッタンス0の定抵抗回路となることがわかる。 これも解のひとつだが、無限個のLC回路が一点集中して存在する回路というのは現実的ではない。次数を有限にして低い角周波数領域で近似な動作をする回路を実現するのには使えるかもしれない。しかしキャパシタンスやインダクタンスの定数をどうするかが課題として残る。 留数計算にロピタルの定理を使うことで定数の値がようやく明らかになった。それによって以下の事実が明らかになる。 回路の総インダクタンスは有限値だということ。それとω=0の時の回路の総キャパシタンスも有限値だということ。これは回路規模が有界であることを意味する。ここでζ(2)はRiemannのζ関数である。 上記はFoster展開によるものだが、Cauer展開するとどうなるだろう? coth(s)を連分数展開すればいいわけだが、部分分数展開はまだしも連分数展開となると今ではそもそも学校では教わることもないのでそのものズバリを見つけることは難しい。三角関数のtan(x)の連分数展開ならば数学史の中で出てくる。近代になってブルバキの数学的文化大革命で古典的なものとして再構成された数学原論体系から外された。なので現代に至っても19世紀の姿のまま残されている分野である。 Cauerが連分数に出会ったのは、連分数の解析理論の父と呼ばれるオランダの数学者Stieltjesの著書であった。Stieltjesは学生時代に授業そっちのけで大数学者GaussやJacobiの著書を読むのに没頭してしまい落第を繰り返して卒業できず、天文台の助手として職を得てそこで数学者Hermiteと運命的に出会うことによって数学者になった面白い人である。 話をもとに戻そう。 Stieltjesが図書館で読みふけったGaussの論文集にGauss's continued fractionを見いだしたに違いない。Gaussは以下のような展開式を示したものの収束に関する厳密な証明は提供しなかった。ちゃんと証明されるのは20世紀に入ってすぐ浮世絵の収集家でも知られる数学者Vleckによってである。 Gaussに先立つこと18世紀に既にLambertが実数関数だがtanの連分数展開を円周率が無理数であることを証明するために用いている。解析接続によるtanとtanhの関係から一方から他方の式が得られるのは明らかである。 ここでcoth(s)=1/tanh(s)であるのを利用すれば連分数展開結果が容易に得られそうである。 回路図に表すと 想像だにしなかった回路が浮かび上がる。 アドミッタンス関数とした場合の連分数展開は 回路図にすると 上記の回路を有限段数で近似して低周波領域でプロットしてみると零点と極の値が元の式からプロットしたものと一致することが確かめることができる。結果は前出のプロットと同じなので割愛する。読者自身で確かめてみることをお勧めする。 しかしどうやったらゼロ知識ベースで著者の解にたどり着くのか不安になってきた。数学も工学もある方向から掘り下げれば簡単にたどり着く結論も、違う方向からだとどうやっても辿り付けない壁というものがある(馬鹿の壁とも言う)。日本独自の分布定数回路理論も元々はThomson(Kelvin卿)の海底ケーブル線路モデル(RC分布定数回路)にインスパイアされたHeavisideの電信方程式(Telegrapher's Equation)が無ければ生まれなかった。Maxwellの電磁気理論で突破しようとすると分厚い壁がある。それと同じでリアクタンス回路理論をどうこねくり回しても分布定数回路理論にはたどり着けないのかもしれない。 数学史を探らなくても最初に導いた有理多項式を最も次数の低い項から繰り出して連分数展開することによって同じ結果が得られる 既にリアクタンス関数のCauer展開の理論で学んだ通り、次数の最も高い項から繰り出して行くともうひとつの形(Z(s)とY(s)それぞれに対する逆回路)が得られるはずである。しかし以前に学んだ時は有限次数の多項式であったが、今回は無限次数の多項式となり最高次の項というのが定まらないという問題がある。この点はさすがにどの参考書でも扱っていない。 nを十分大きな値とすると、以下の様なLCラダー回路で構成される。 無限ラダー回路だとn→∞ですべてのキャパシタンスが最終的に0になってしまうことになる。これは明らかに矛盾する。どっか間違えたのかも。 もうこの問題はこのくらいにしよう(´д` ) L3の式の展開は読者の課題としよう。 いずれ分布定数回路が出てきたときにまだ憶えていたら蒸し返すということに。 この問題これにて一端ピリオド。 P.S coth(s)の部分分数展開の誤りを我流のやり方で正したものの、留数に相当する係数式に無限乗積表記が残ってしまってさて収束するのかどうか、収束するなら値は何になるのかと課題が残ってしまった。解析学をおさらいせねばならぬとWHITTAKER & WATSON著"MODERN ANALYSIS"にある"THE EXPANSION OF FUNCTIONS IN INFINITE SERIES"章を精読してみたら驚愕の事実が発覚。なんと例題としてcothの部分分数展開式がずばり出ていた。 これを見て我流でも間違ってはいなかったけれども詰めが甘かったなと反省しきり。しかしどうやったらこの結果が得られるかは自分で証明してみなさいということなので答えは載っていない。いくつか方法はあることは以前から想像はついている(留数定理を使う方法とか)が面倒なのでやってなかったのだ。この展開式によると留数はすべて1(複素共役根に展開した場合)ということになる。ううむ、自分で考えてみよう。 ようやく上記の問いには我流で答えることができたものの新たな疑問が生まれる。「それではインダクタンスやキャパシタンスは何で定まるか?」この問いに電気回路理論は答えてくれない。電気回路理論ははじめに抵抗、インダクタンス、キャパシタンスありきである。それに答えるのは電磁気理論ということになる。この問題の最後の設問(9)は電気回路理論と電磁気理論との間のミッシングリンクへ招待してくれるものだということが判る。これらの2つの理論の間の辻褄を合わせるのに19世紀から様々な努力がなされてきたわけである。そう簡単に理解できてたまるか。 ドイツの数学者Hilbertはかつて代数体と整数論を研究しようとしていた高木貞治に「それでは代数関数は何で定まるか?」と試したそうである。高木が答えを言う前に「それはRiemann面で定まる」と自答したという話が発端となる面白いエピソードが「近代数学史談」に興味深く書かれている。上の問いはその話からインスパイアされたものであることは言うまでもない。 (部分分数への展開の誤りを訂正 2010/3/1) (留数の計算方法を変更 2010/3/13) |
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