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webadm | 投稿日時: 2015-4-29 20:10 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3086 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め さて内積と外積とか実は光と影みたいな関係であることが判明したところで次なる謎が待ち構えている。
それは有向面積とか面積ベクトルとか、符号付き面積と呼ばれる概念であるが、そもそも面積に正と負の値があると言われた時点で混乱する。 小学生の時にそんなことは教わらなかったよね。 現実社会では面積というのは正の値しかないし。もし負の面積とやらがあったら、所有する土地の面積を合算で減らすことができて、固定資産税をチャラにできることになる。しかしそんなことは誰もできない。 これもどうやらHamiltonの四元数で考えた方がよくね? 例によってスカラー項は0で同一平面上にあるベクトル項だけの2つの異なる四元数Qa,Qbの積を考える。 ということになる。 すなわち同一平面上にある二つの四元数(もしくは同一平面に平行な二つのベクトル)の積はその平面と垂直な法線上にある四元数(もしくは法線と平行なベクトル)を生み出すことになる。 もちろん二次元ベクトルが存在する平面空間には平面以外の次元は存在しないので、平面に垂直なベクトルというのは定義できない。 そこでベクトル項の係数だけ着眼して、元の平面上の2つのベクトルから構成される平行四辺形の面積は2つのベクトルの成分値によっては正負どちらの値も取り得るので符号付き面積とか、有向面積という名前で呼ぶしかないわけである。 先の同一平面上の四元数のかけ算の順序を逆にすると ベクトル項の符号が反転する。つまり複素数で言う共役複素数のような共役四元数というようなものが出てくる。スカラー項の値は複素数の共役複素数の実数部と同様に同じで共役複素数間では変わらない。 今日のベクトル解析では以下の様に同一平面上にある2つのベクトルa,bの積の順序を変えるとベクトル項の符号が変わるから、並行四辺形の面積の符号が変わることを意味する。 これは普通のベクトル積の定義そのものであるが、これから以下の結論が得られる つまり面積に相当するベクトル項の係数に正負があるということになる。 大抵のベクトル解析の入門書では有向面積とかに関しての議論で、およそ数学的とは思えない幾何学的な説明の仕方で逃げているものがほとんどである。 例えば片方のベクトルを時計方向か版時計方向かどちらか少ない回転角度で回転して重なった時に時計方向だったら負で反時計方向だったら正とするとか。 もっともらしいのが、Flemingの右手の法則に習って右手系を正として左手系を負とするとか。 幾何学的には確かに図形の裏と表があるように、並行四辺形の場合も裏から見た並行四辺形と表から見た並行四辺形は、二辺の長さが違う場合には、同一平面上ではぴったりとは重ならない。重なるのはどちらか片方を裏返す必要があることから、面積に正負(裏表)が存在するというのは直感的には理解できる。 どうしてもベクトル解析の初歩を学ぶのは歴史的にも数学系ではなく物理系や工学系であるから代数には不慣れで、代数的に理解するということは期待できないのでそういう説明が伝統的になったのかもしれない。今日では線形代数をベクトル解析に先だって学ぶのが普通だから代数的な説明があってしかるべきだと思われる。こうしたところにも伝統の頸城から逃れ出ていない教育の一面がある。 代数的に考えた場合にはどちらを正にしても結果としては変わらないというのがわかる。それだと二通りの流儀ができて困るから統一的にどちらかを採択する必要がある。 どうすんだそれ(;´Д`) 考えてみるとベクトルを定義する空間そのものが有向でないと話が成り立たないことに気付いたりする。 二次元ベクトル空間では、二種類の向きの異なる空間が存在する。 幾何学的にはちょうど紙の裏と表みたいなもの。 どちらか片方の平面を裏返して重ねると一致するというもの。 ただしどちらの平面上でも先のベクトル積の定義は成り立つ。 裏と表の違いはひとつの座標軸の奥行きがちょうど鏡に映したように逆向きになる点である。 つまり上の平面の左側にY軸と平行になるように垂直に鏡を置くと鏡の中に写って見えるのがちょうど下の平面になる。その逆もまた真なり。 このどちらかを正の向きを持つ平面とし、もう一つを負の向きを持つ平面としなければならないことになる。 実のところ二次平面上でこの種の議論をしても徒労に終わる。 上の2つの平面空間ではベクトルa,bが張る平行四辺形(もしくは三角形でもよい)の面積は同値であるからである。 同じ面積を持つのに唯一違うのは、上の平面では原点に立ってベクトルaの指す方向に向いた場合、ベクトルbは左手に見えるが、下の平面ではちょうどその逆で、ベクトルbは右手に見える。 なので二次元平面でa×bの有向面積の符号を定める時の規則として、aの方向に沿って進む時にbが左手に見える場合を正とすると定めているわけである。そしてその規則が成り立つ平面を右手系と呼び、他方を左手系と呼ぶことになっている。左手系では右手系と逆にbが右手に見える場合が正になる。 何度も言うように代数的にはどちらを正にして構わないのだが、両方の座標系が入れ替わり立ち替わり現れると混乱するのでどちらか一方だけを登場させるように決める必要があったわけである。 これも実は二次元空間では説明が苦しくて、三次元空間で議論しないと混乱する。何故なら先の説明でaに沿って進んだ時にbが左手に見えるのに何故右手系とするのかという素朴な疑問が生じるからである。 今度は三次元空間で同じ議論をしなければならないが、知恵熱が出てきたのでまた次の機会にしよう(;´Д`) P.S 互いに鏡に映したような持つ同じ組成で2つの異なる分子構造が実験室や自然界に存在する話は前にもしたよね。鏡像異性体というやつ。 これも前に書いたけど、学生の頃に化学の実験で解熱剤として知られるアスピリンを合成した際に、教授が「飲んだりしないように不純物が含まれているから」というように警告していたのが記憶に残っている。 何も工夫もせずに化学合成を行うと、同じ組成だが鏡像異方性によって異なる生理活性を持つ二種類の分子が均等の確率で生成される。片方は意図した通りの効能があるが、鏡に映したような構造のもう他方は意図した効能が無かったり害毒だったりする。 日本でも昔大変な被害をもたらしたサリドマイド事件も、原因はサリドマイドの合成時に効能がある方とは別の鏡像異性体が高い催奇性を持つことからサリドマイドを服用した妊婦から手足の指が未発達な奇形児が生まれるという被害が続出したことにより発覚した。 サリドマイドは良くも悪くも鏡像異性体に関して研究者は注意を払うようになったきっかけを生んでいる。それによって異なる二つの異性体の片方だけを選択的に合成する不斉合成技術の開発が急務となり、先日理研を止めた野衣さんはかつてその先駆的な研究でノーベル化学賞を受賞した人である。 |
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題名 | 投稿者 | 日時 |
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自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-2-3 12:47 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-3-16 10:45 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-3-17 9:57 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-4-15 21:41 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-4-21 10:25 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-4-26 21:43 |
» Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-4-29 20:10 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-5-5 5:33 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-5-12 18:15 |
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Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2015-12-19 21:03 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2016-1-4 22:15 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2016-1-10 22:07 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2016-1-16 17:45 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2016-4-6 12:47 |
Re: 自分の数学を持つことの勧め | webadm | 2016-7-26 20:20 |
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