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webadm
投稿日時: 2006-12-20 11:01
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3088
Hakaruという子
子供の頃に近所にHakaruという少し年上の男の子がいた。彼のお婆さんは小さな雑貨屋を経営していた。彼の母親は彼が小さい頃から既に居ない。

近所なだけに小学校に入る前の私は一時期彼と彼の遊び仲間に接して行動を共にしていた。

とはいえむこうは既に小学生、こちらはまだ幼児。言われるままに手足として扱われるだけだった。それでも近所には彼らしか子供は当時居なかった。

今でも憶えているのは小銭を渡されて彼のお婆さんの店で駄菓子を買ってくる使いをいつもさせられていたことだった。駄菓子は彼や彼の仲間が食べるだけで私にはおこぼれは無い。

さすがに私も自分の置かれている立場がわかって来て言葉にはできなかったが行動にそれが出てしまった。ある日彼からいつものように水飴を買ってこいと小銭を渡された。私はお婆さんの店で水飴を買うと、走って届けにいく途中に何を思ったか自分でそれを食べてしまい袋を捨てて戻って行った。当然水飴を買って帰ってきたと思ったら手ぶら、お金も持っていない様子に驚いてどうしたと問われる。私は見え透いた嘘を応えた「売ってなかった」と。

私にとってはかなりの反逆行為だったがそのおかげで以降買い物をさせられることは無くなった。さすがに幼児だということで仕置きとかはなかったが。

その後も仕方なく顔を合わせるたびに彼らと行動を共にすることが何度かあった。当時は悪ガキ集団ではなく、ある日は夕方から仲間の一人が始めた配達のアルバイトの仕事をみんなでついて行って手伝ったりした。私はただ一生懸命彼らの後を遅い足でついていくのが精一杯だった。

ある日彼が子供が持つようなものではない空気銃を手にして見せびらかしていた。しかし重いのでもてあまし気味だったのか、少し遠出して他の連中と別の遊びに行こうという事でその場に残るように指示された私の手にその銃を預けた。これがある事件を起こした。

私は子供が持ってはいけないものを持たされたことで不安になり、どっかに隠そうと家に帰った。その後遊びから戻ってきた彼らは私が居ないのに慌てて家まで押しかけて母に問いただした。

すぐに私は隠した銃を帰して事態は収拾したが、それ以来彼らは私が仲間にはできないと悟ったに違いない。顔を合わせても声をかけられることもなく、こちらも側に寄ることもなくなった。

彼らの行動は子供の範囲をその後も逸脱しつづけ、小学校では不良少年の代名詞にもなった。中学校に進んだ後も暴走は誰も止められなかった。後で聞いた話では、地元の暴力団組員になったらしい。

誰でも生まれながらにして悪ガキや不良な人は居ない。私は彼と一緒に行動をしていた時期のある記憶から彼の不運な始まりを直感していた。

彼に母親が居ないと書いたが、年老いた父親は居た。何らかの理由で彼がまだ幼い頃に彼は実の母親を失った。そしてすぐに父親は行きつけの飲み屋のママと再婚した。義理の母親は彼に冷たかった。まだ母親の愛を沢山必要な時期に母を奪われ、そして鬼のようなママ母と暮らさなければならなくなった。

彼に義理の母親が居るのを知ったのは、彼の家で皆で遊んで居たときにママ母が外から帰って来て彼をいきなり叱りつけた時だった。彼は悔しさと悲しみが一緒くたになったような声でママ母に当たりちらしその目には涙が流れていた。

誰にでも彼の身の上に起きた不運が降りかかる可能性はあった。ただそうならなかっただけだった。彼の問題行動の根元には母親の愛の欠乏があったことは明らかだ。そしてそれはもう一生与えられることは無いのである。

彼はそのことに気づかないまま長い年月が過ぎてしまった。おそらく今も心の奥底では止めどもない母親の愛への渇望が火のように燃えさかっていて死ぬまで消えることがないであろう。彼がそのことに気づいてその呪縛を自ら解き放つことをしない限り。

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題名 投稿者 日時
 » Hakaruという子 webadm 2006-12-20 11:01

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