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投稿者 スレッド
webadm
投稿日時: 2013-11-25 0:14
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3089
電界の強さと電位
電界という用語がここで登場する。欧州のあちこちで同じ概念が考えられていたが、国によってその諸説がまちまちである。

英国ではFaradayが数学によらない直感的な電気力線(electric line of force)という仮想の線が電荷から四方八方に伸びて負の電荷は正の電荷の方へ、正の電荷は負の電荷の方へ向かうように線がつながっているという仮説で電荷の間で働く力を矛盾なく説明できないかと考えていた。

Faradayには数学の知識が無かったので後にそのアイデアにインスパイアされて数学的に定式化したのはMaxwellだった。電気力線や磁気力線の概念は電界と磁界という勾配ベクトル場として定式化され、それに関連する様々な法則も説明できるようにした。

一方ドイツではそれとは別にOhmとKirchhoffが電気に関する重要な法則を発見していたこともあり、それを応用したアプローチが行われていた。

ドイツで教えられている電界測定の実験では、薄鋼板上に離れた2つの端子を設置してそこに直流電圧を印可した状態で、別に容易した電圧計の測定端子の一方を鋼板上の任意の点に接続し、もう片方の測定端子を電圧が等しい鋼板上の位置を探す。電圧が等しい点が見つかったらその測定端子の位置を記録する。これは電圧を印可した2つの端子から四方八方に電流が流れて鋼板の電気抵抗に応じた電圧勾配が生じそれによって電位差が無い等電位線が存在するはずである。それ鋼板上の2点間の電圧測定で見つけるのである。



そうやって等電圧な点を紙の上にプロットし、それらを線で結ぶと等電圧線が浮かびあがる。



FaradayやMaxwellが考えていた電気力線とは、上の等電圧線に対して法線方向に電圧の高い方から低い方へ向かう勾配ベクトルの軌跡(積分曲線)だったわけである。



Maxwellの歴史的な著者である、"AN ELEMENTARY TREATISE ON ELECTRICITY"にも同じ用な図がある。こちらはFaradayの電気力線のアイデアに関して触れている文章の後に登場する。



こちらは巻末にあるいくつかの等ポテンシャル線及び電気力線図のひとつで、同じ極性で大きさの異なる2電荷がある場合のもの。2つの電荷は互いに反発しあうのでそれぞれの電荷から伸びる電気力線は互いに引き合うことはない。

まったく違う場所で同じ概念を正反対の方向から探っていた歴史的偶然性がここにある。

さて問題はこの等電圧線にしてもそれと垂直に交わる電気力線にしても数式で表さないと満足にプロットもできない。実のところどちらも微分方程式の解の集合なので微分方程式を解かないと描けないということになる。

ここからが数学の腕の見せ所ということになる。実際に電気回路理論では最後に学んだ分布定数回路の過渡現象解析でちらっと見え隠れしたStokesの定理とかを当たり前の様に駆使する必要がある。なので一連のそうしたベクトル解析の基礎を先に学ぶ流儀と知っていることを前提とする流儀がある。ベクトル解析の理論は多変数関数の解析学をまだ数学者が定式化出来ない頃から工学や物理学の理論の基礎固めに必須だったため応用数学として独自に発展して純粋数学とは長い間亀裂が出来た状態だった。なのでその頃のベクトル解析を学んでも後で今風のベクトル解析を再度学び直す必要がある。戦前の古い本は要注意である。20世紀後半にようやくベクトル解析も純粋数学との辻褄合わせが出来るようになって見通しが良くなった。それを学んだ方が良いだろうと思う。得に純粋数学の微分形式に基づいた考えが理解の早道である。とは言え、

さて電界の定式化へ向けたアプローチにはドイツ流と英国流とがあって、それは互いにアプローチが直交している。互いに譲ることはしない。

ドイツ流は上の実験結果を根拠に電流密度や電荷密度等の物理量の概念を導入し数学を駆使して最終的にMaxwellの方程式につないでいく。

英国流は初めにMaxwellの理論ありきで、初めに電界ありきでそこに点電荷が置かれた場合に働く力(Coulombの法則)の公式を導出する。つまりほとんどの電磁気に関する物理法則はMaxwellの方程式から導出できることを理解することが電磁気学を学ぶことの意見である。

もちろんドイツで英国流の教科書も出版されているし、逆も真なりで、日本でも数々の電磁気学の教科書が出版されているが、それぞれの著者がどちらの流儀に沿っているかは調べてみると面白いかもしれない。

電気回路理論で登場する数式は分布定数回路の過渡現象解析を除けば全て時間を変数とする一変数関数であったが、電磁気学ではいきなり最低でも3次元、それに時間軸が加わると4次元となり3変数もしくは4変数の関数を扱うことになる。なので座標系も2変数までなら直交座標でいけたが、3変数や4変数になると、問題によっては別の座標系を使った方が都合が良い場合が多々ある。最終的に直交座標へ座標変換すれば良いわけだが、たぶん一回やれば懲りるぐらい大変だ。しかし理解する上では一生に一回はやっておいた方がよい。

電磁気学で使う座標系には直交座標の他に極座標、球座標、円柱座標、双極座標、円環座標、等がある。それ以外にも物理学で扱う座標とかも登場するかもしれない。それらの間の座標変換が理解できることも要求される。

易しい直交平面座標が出てくるのは最初だけと心得ておいた方が良いかもしれない。

ところで著者はいきなり微分を使って電界の定式化を始めてしまうので、初心者はまずここで躓いて、次のページを開く前に本を閉じてしまうだろう。

著者のアプローチは、先の等電圧線が描かれた図を地図の等高線と同様に、低い位置からより高い位置へ一定の質量を移動するのに要する仕事は経路によらず高さの差で決まるという法則を使っている。

これはある種のエネルギー保存則、数学的にはStokesの定理の応用である。

なんのことを言っているのかわからなくなった。

ドイツの理論電気学の本をひもとくともう少し古い時代の思考過程が示されていて、数学に疎い者でもついていけそうである。

Faradayが考えたように2つの電荷の間に働く力は、2つの電荷の間を結んでいる電気力線の数に比例すると仮定する。

先の鋼板上の電界測定モデルで、2つの電荷に働く力は鋼板上を流れる電流の総量、すなわち電気力線の総数に比例するはずである。

そこで鋼板の断面の面素dAを貫く電気力線の数を線密度Gとして以下の様に定義する



また1Aの電流が1cm平方の面積を貫くことは10^6本の電気力線が同じ面を貫くのに相当すると定義する。

また面積がAの閉曲面を貫く総電流がIであれば電気力線の密度Gは



ということになる。

次に電気力線が面素dAを角度α傾いて貫くときにdAの法線方向に流れる電流は



ということになる。

これは三次元空間のベクトルの射影を考える必要があるので図で描くと



ということになる。

従って任意の閉曲面を貫く総電流Iは、積分することによって



ということになる。


ところで上の|Gn|はGと面素dAの法線ベクトルとの内積であるから、以下の様に書き直すことが出来る。



上の式での・はベクトルのスカラー積(内積)の意味である。dUは面素dAの面積を大きさとして持つ法線ベクトル。

さて電気力線と電界がどういう関係にあるかはここからだから。

ここで先の鋼板上の実験で、鋼板中を流れる電流の経路が電気力線と一致することは予想できる。

そこで先の等電位線の図を地図の等高線にみたてて、高さの高い方から低い方へ向かう勾配の向きでの高低差の変化を考えるように、電位差を考えることにする。



電位φ(海抜高)の等電位線(等高線)からdφだけ低い電位(φ-dφ)方向へ貫く電気力線(勾配曲線)の大きさ|E|は



ということになる。

もうここまで来れば大丈夫だよね。Eはスカラー場φの勾配ベクトルなんだ



gradはgradientの略で勾配の意味。勾配はスカラー場の一次微分のことでφがx,y,zの3座標変数の関数であれば、gradを使わずに同じことを表すと



と言う意味に。

gradだと長いので、Hamiltonが最初に演算子記法として使った∇で表すと



と簡単に記述できる。i,j,kはHamiltonの四元数に由来する3つの直行座標軸方向の単位ベクトル。∇は一次微分演算子なのでHamiltonian(H)とも呼ばれる。ポテンシャル関数φはそのため0次微分形とも称される。0次微分形に一次微分演算子を作用させると一次微分形が得られるというわけ。

これでもまだ著者の解説を理解することは無理だ。

微少な電位差のある等電位線を斜めαの角度で横切る場合を考える



図に加わったのは点a,bと、その間を結ぶ任意の曲線abがポテンシャルφと微少なポテンシャルdφだけ異なる等電位線を法線方向から見てαだけ傾いて横切るとし、横切る際の微少な経路ds。

2つの等電位線の微少間隔dnと曲線abが横切る際の微少経路dsとの間には



従って2つの等電位線の間の微少な電位差dφは



ということになる。

また曲線abとの接線方向の勾配ベクトルGsの大きさは



ということになる。

これを先のdφの式に代入すると



ということになる。

Gsは曲線ab上の勾配ベクトル成分なので、点aと点bの電位差Uabは曲線に沿って線積分すればよく



ということになる。勾配ベクトルがポテンシャルの大きな方から小さな方への向きを正とすると、積分の方向は逆になり



ということになる。

また、曲線ab上の任意の点のdsに並行な微少接ベクトルdξを考えると、微少な電位差dφは勾配ベクトルEと接ベクトルdξの内積となるので



ということになる。

従って点a,b間の電位差Uabは曲線abに沿って微少な電位差を線積分すればよく



Eは電位ポテンシャル場の勾配ベクトル場であるので



ということになる。勾配ベクトルの向きはポテンシャルの大きい方から小さい方への向きを正としている点に注意。

とどのつまり、2点a,b間の電位差はそれぞれの点に置ける電位ポテンシャルの差で決まり、経路にはよらないということになる。

これはちょうど位置ポテンシャルと相似で、ある質量の点をある高さから別の高さに移動するために必要な仕事は経路によらず、出発点と到着点における位置ポテンシャルの差に比例するのと同じ。

さて先の鋼板上での電位測定実験に基づいた考察をまだ続ける必要がある。

鋼板は電気抵抗を持つため、電流が流れると電位差が生じる。鋼板の微少間隔dnの微少断面dAを持つ微少体積素の抵抗値Rは



ここでχは鋼板の導電率である。

これを用いて、微少な電位差dφは



ということになる。

従って



ということになる。

従って最初に登場した電気力線密度Gは



ということになる。

逆に鋼板の電気抵抗率をρとすると、



という関係になる。

すなわちFaradayの予想した電気力線(もしくは電気流力線)という概念は数学的には電位勾配ベクトル場と等価であるということが明らかになる。

さてこの後ドイツの教科書では勾配ベクトル場のその他の性質が解説されているが、それは後でもいいので先に著者の解説に追いつくことにしよう。

最初の電気力線密度の概念をCoulombの実験を想定して、薄鋼板で行った特殊な空間の議論を三次元の自由空間に拡張して考える。

例えば立方体の鋼材内の離れた二点に直流電圧を印可することができて、一定の電流が流れているものとする。

とすれば薄鋼板の時と同様に立方体内に電位差が生じ、等電位面が現れるはずである。

電圧を加えた点からは四方八方に電流が流れ出す(もしくは流れ込む)はずであるから、その点からの距離r離れた球面上を貫く電気力線の密度は



ということになる。

4πr^2は半径rの球体の表面積である。

従って勾配ベクトルEは鋼材の導電率χと電気力線密度Gから



ということになる。

段々見覚えのある形になってきた。

従って給電点の表面までの距離r0の電位と給電点からrだけ離れた点Pの間の電位差U0pは



ということになる。

従って、給電点からr0だけ離れた給電端子表面の電位U0は



ということになる。

ところで何故給電点そのものの電位を使わないのかというと、給電点からの距離が0になってしまうので、電気力線密度が無限大になってしまうからである。なのでr0≠0の電気力線密度を基準に考える必要がある。そこが電気力線モデルの難点でもある。

鋼材内での電気抵抗率Rは



ということになる。

またr0での電位U0を基準にすると距離rの点Pとの電位差U0Pは



ということになる。

また電位差U0Pは電位ポテンシャルφの差でもあるので



従って距離r離れた点の電位ポテンシャルは



ということになる。

今度は給電端子が半径r1の空洞球体の場合を考える。導体内ではその給電端子に電流Iが供給され、周囲へ総電流Iが流れ出しているものとする。給電端子表面の電位ポテンシャルをU0とすると、給電点からr2だけ離れた球体表面の電位ポテンシャルφ1との間で以下が成り立つ



従って、給電端子表面の電位ポテンシャルU0は



ということになる。

これは以下の様にも解釈することが出来る



すなわち、断面積が4πχr1r2で長さr2-r1の円筒の導体に電流Iが流れた際の電位差と等価である。

導体内にもう一点の電流Iが流れ込む端子を設けた場合には、その端子点からの距離rの点の電位ポテンシャルは



電流の方向が先ほどの給電点とは逆になるので極性が逆になっている。

従って給電点からの距離r1、流出点からの距離r2にある導体内の点Pの電位ポテンシャルは重ね合わせの理によって



と表すことができる。



ここで電位ポテンシャルが等しい等電位線上では



が成り立つので、等電位線上ではr1,r2の関係が以下の条件を満たす必要がある



ここでkは算術数列でk=0,1,2,3,...である。

ここまで判ると等電位線が描けそうだが、直交平面上にプロットするには座標変換する必要があり、思った程簡単ではない。

また同様に距離lだけ隔てた2つの給電点から周囲に電流Iが今度はそれぞれ流れ出している場合には、任意の点Pの電位ポテンシャルは重ね合わせの理によって



ということになる。

さてドイツの教科書に沿って長々と導体内の電位分布に関して議論してきたが、その方が易しいし、事実ドイツの教科書では初等の直流回路でOhmの法則とKirchhoffの法則を教えると、すぐに導体内の電位に関して教えることになっている。真空中の議論はその後で登場する。なにせ真空中は電流が流れないことになっているから、最初にそこからやると間違いなく躓く。導体内なら電流が流れて抵抗があるから場所によって電位差が生じるのはすぐに理解できる。

著者の場合は、電界についての議論を吹っ飛ばしていきなり電界内に点電荷を置いた場合に働く力と、点電荷を移動するのに伴う仕事の議論を始めている。

少なくとも上の導体内の静電場の議論のように、真空中に置かれた1Cの点電荷から距離rにおける電気力線の距密度Gと電位勾配の大きさは



ということになる。ここでε0は真空中の誘電率である。

これだと導体内の議論と対称性があって憶え易い。

従って、1 Coulombの点電荷から距離rの点に別のQ Coulombの点電荷を置いた場合にそこに働く力は



ということになる。

これでようやく著者の解説に間に合うことになる。

点電荷Qが作る電場E内で1Cの点電荷を距離rの位置に置いた時に働く力Fに逆らって微少な距離drを移動する時の仕事は



従って1Cの点電荷を点aから点bまで移動するのに要する仕事はaとbを結ぶ任意の曲線上で線積分すればよく



ということになる。

このことから、電界内で点電荷をaから移動してbへその後aへまた戻すような閉曲線上を移動した場合、仕事は0となる



これはStokesの定理を利用して



と導くことができる。

このことから電位勾配ベクトル場に関して



という関係が常に成り立つ。

これは電位勾配ベクトル場では決して渦が生じないということである。これは電気力線は決して互いに交わらないというFaradayのアイデアが正しかったことを裏付ける。

gradが登場した時はたいしたことなかったが、rotが出てきて更にgradに作用するということになってここで挫折して本を閉じる読者が大半に登ると予想される。ここはベクトル解析のあんちょこでも知っていない限り素通りすらできないところだ。

(2013/11/30)
実のところ著者がrotをこんなに早い時点でしかも説明無しに出してきていることにかなり動揺している。ドイツの教科書では数百ページある本の後半になってやっと出てくる概念だからだ。それにStokesの定理も用いるのは簡単だが、その証明は微分形式を学べば簡単だが、微分形式を用いないでとなると数学者でも訝るぐらいに面倒である。なので大学ではrotの詳しい数学的な解説は省略して結果だけ利用することが多い。昔の古い本だとここのところが現代的ではないけれども19世紀的な方法で解説している。それを現代的になぞることを試みてみよう。

ベクトル場rot Eを座標軸毎の成分に分割すると



ここまではよし。

面積ベクトルを図で表すと



ということになる。面積ベクトルの向き付けに一定の規則を設ける必要がある。それは面要素dydz,dzdx,dxdyをネジの頭だとしてそれを回転させた場合に、ネジが進む方向を正とするのである。面要素の記号もこの回転する向きに合わせて付けてあり、dydzはdyをdzに重なる方向に回転させるとネジはx軸の正の方向に進むようにしてある。

ここまではよいよね。

rot Eの成分はそれぞれの面要素上で電位勾配Eを線積分したものと考えることができる。



これでrot Eの成分はそれぞれの単位ベクトルを法線ベクトルとする面要素の境界線上で電位勾配Eを積分したものと等しいことになる。面要素の境界線上に沿った積分とは



従って



ということになる。

ちなみにrotはドイツ仕込み、英国仕込みだとMaxwellが著書で用いていたcurlを伝統的に使用する。前者は数理的な視点、後者は直感的な視点からの命名と思われる。

この辺で電界の強さと電位について終わりにしよう。

著者の1ページ半にはこんだけの内容が隠されていたということになる。電磁気学恐るべし。判っている人に言わせればMaxwellの方程式だけ1ページにならべて、これが全てという人も居る。いずれにせよ電磁気学は現実での経験と矛盾しない整然とした理論を構築できるかの実験的な科学なので物理学と同じである。数学的に突き詰めようとしても根拠が実世界での実験結果や経験なので、新しい実験や測定によって結果が変わることだって将来あり得る。そういう性質のものには純粋数学者は背を向けるのが普通。なので未来永劫この世界は数学は辻褄合わせのための技巧として用いられるのみである。そういう意味ではFaradayが持っていなくてMaxwellが持っていたものはそうした数学的な技巧の知識であったと言えるかもしれない。

P.S

最初の章なのにベクトル解析の大部分がここで出現するのには参った。一応予習はしてあったのだが、いざやってみるとどうにも腑に落ちない点がはっきりしてくる。ベクトル解析派と純粋数学派のいいとこ取りをしようと思ってもどうにも矛盾が出てくる。具体的にはrot E = 0というのが出てくるのだが、これは二次微分形を導出した結果として出てくるのであって、それ単独では得られない。そのあたりが納得がいかないところ。なのでどうせなら最終的な結果(Maxwellの方程式)から始めるという流儀もわからなくもない。でもLandau & Lifshitz本とかには∫E・ds=0ではなく、右辺に電場以外の項が書いてあったりする。物理学では違うのだな、電磁気学では静電場が登場するときには電場以外は考えないことにするという暗黙の了解があったりするのかもしれない。いくら純粋数学者が異論となえたとしても、ベクトル解析屋の以下の定式化が憶え易い。



i,j,kはそれぞれ単位面積ベクトルである(少なくともrot Eがベクトル場である限りにおいて)。古い電磁気学の教科書には大抵この形式が載っている。今日はめったに見ない代わりに本によっていずれも異なった定式化をしている。というのもMaxwell自身が電磁気理論に言明した際に簡明な定式化を与えなかったことに原因がある。今のベクトルの微分形で定式化したのはその後のHevisideやHerzなどのベクトル解析屋だった。当時はまだ純粋数学者は一変数関数の解析学をなんとか完成させようとしていて、多変数関数の解析学は未だに未完成である。

上とまったく同じ結果を以下の様に記載している本もある



これだけ憶えておけばよいと教える大学もある。確かにこれより一般的な場合(n次元の場合に同じ記述が可能か?)とか考えなければそれで済む。どちらも行列式の中に単位ベクトルi,j,kが成分ではなくベクトルのまま出てきているのは線型代数を学んだ後では大いに違和感を感じるのは私だけだろうか?。こうしてみると、これは一種の規則であり技巧であることがはっきりしてくる。これらは大いなる辻褄合わせに過ぎない。

ここで取り上げたMaxwellの著者である"AN ELEMENTARY TREATISE ON ELECTRICITY"にもいくつか版があり、それらは改版中にMaxwellが他界してしまったため後に残された人が編集したものである。2分冊での章立ても増えている。Maxwellの初版は時代にそぐわない判り難い数式が使われていたので、その時々の代表的な形式に書き換えられている。それでも序文や電気力線に関する議論等は初版の熱気がそのまま保たれている。

それと数式を記述する際にベクトルを太字にしてスカラー量と区別しようとするのだが、レンダリングされた画像を見るとスカラー量も太字に見えたりしてなにがなんだか判らなくなってしまう。Maxwellはベクトルを使わずにそれらを座標軸成分毎に式を書いたので誤記はあっても誤読の心配はなかった。しかし憶えにくいことは確かだ。実のところこのあたりは出版業界の技術的な進歩を待たねばならないところで、数学者もそれぞれ苦心して簡明かつ誤読の少ないようにそれぞれ工夫して原稿を書いたりしていた。今日これほど数式の表現に多様性があって標準がないのはそうした事情による。

当初は微分形式を使った解説を試みたのだが、実際にやってみたら良く判っていなかったことが判明して、古典的なベクトル解析をなぞっただけになってしまった。機会があれば微分形式と時空間で電磁気学を定式化してみたいものである。最新の微分形式を用いれば元々20もあったMaxwellの方程式がたった2つに凝縮されることになる。これもまた数学的な技巧に過ぎないのではあるが。簡単になるし使えるものは使ったほうがよい。
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題名 投稿者 日時
   真空中の電荷分布による静電界 webadm 2009-10-21 11:57
     Re: 静電界I:真空中の静電界 webadm 2013-11-18 4:56
     Coulombの法則 webadm 2013-11-18 5:45
   » 電界の強さと電位 webadm 2013-11-25 0:14
     点電荷による電界 webadm 2013-12-1 17:04
     連続的電荷分布による電界 webadm 2013-12-2 2:10
     電気双極子による電界 webadm 2013-12-9 13:58
     電気二重層による電界 webadm 2013-12-30 13:35
     多重極子 webadm 2014-1-4 18:42
     多重極展開 webadm 2014-1-8 0:13

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