フラット表示 | 前のトピック | 次のトピック |
投稿者 | スレッド |
---|---|
webadm | 投稿日時: 2013-12-9 13:58 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3089 |
電気双極子による電界 次は電気双極子(electric dipole)に関する理論を扱う。
電気双極子とは、極めて近い距離δを隔てて同じ電荷量だが互いに極性の異なる点電荷が置かれているものを指す。 ちょうど2つの点電荷から同じ距離にある点の集合は電位ポテンシャル0の等電位面ということになる。それ以外の空間の任意の点はなんらかしらの電位ポテンシャルを持つことになる。また一方で、電気双極子が電界の中に置かれた場合、2つの点電荷が対で拘束されている場合それぞれの電荷が受ける力は正反対方向であるため回転を始めることになると予想される。 Maxwellの著書には電気双極子という概念は登場しない。代わりに電気影像法というのに同じ様な状況が考察されているが、基本的に異なるものと思われる。 おそらく電気双極子の概念はMaxwell以後に付け加えられたもので、Maxwellが言及した他の概念よりも優先して学習すべきものとして定着したものと思われる。 おそらくそれは19世紀末から始まった物理学上での水素原子モデルおよびその分子モデルの議論と関係が深いと思われるがここではそれには触れない。 さて電気双極子の言葉の定義まではよいね。 しかしそれから先の定式化については著者も含めどの本もまったくといって同じ記述でどっかの手本をなぞっているだけでつまらない。 最初にこの定式化を行ったのが誰かも書かれていない。全然納得できないのである。 独自に検索で調べたところ、どうやら事の原典は19世紀のH.Herzの論文¨fte electrischer Schwingungen, behandelt nach der Maxwell'schen Theorie”にあるらしい。だいたい予想は当たっていたことになる。 Herzは有名な実験によって世界で初めて電気振動を作り出して、電磁波の存在を裏付けたことで知られる。 Herzの論文では極座標系による上の電気双極子が作り出す電界が登場する。 実際の空間は球座標となるが、電気振動を扱う場合には極座標平面で十分であるためである。 Herzの論文の目的は、電気双極子が回転することによって、周囲の電界と磁界が回転に応じて変化し、更にそのまた外界の電界と磁界を変化させる電磁波を生じるということを示すことにあった。その議論は電磁気学の後半に扱う変化する電界と磁界の議論になるのでここでは触れない。 さて由来が判ったところで議論をなぞってみることにしよう。 次に電気双極子モーメント(electric dipole moment)という聞き慣れない物理量が登場する。それは2つの電荷の位置の変位ベクトルδに電荷量qを乗じたベクトル 変位ベクトルδの向きは電荷の低い方から高い方への向きを正とする。 ところで二電荷の中点から距離rだけ離れた点Pの電位は、それぞれの電荷の中心からの距離における電位の重ね合わせだから だめだわかんね(´Д`;) 極座標でそれぞれの点電荷からPへの距離を表すと これを代入すると ここで点Pは2電荷間の距離δに比べて十分遠い距離にあるとすれば|r|>>|δ|が成り立つので以下の近似が成り立つ 同様に各項を二項定理で近似展開すると ということになる。 従ってこれを代入すると点Pの電位は ということで見事に電気双極子モーメントで表されることになる。 最後の式の変形は上の図での以下の関係を用いている これは内積の概念を知っていれば容易に導けるはず。ただし逆は難しいかも。cosθが出てきたらベクトルの内積が存在すると思えばいいのかも。 なんだやればできるじゃないか( ´∀`) 本を見るとどれも=を使って定式化しているので、左辺と右辺は同値であると錯覚してしまうが、数学的な近似というテクニックが隠されていたのだった。隠すのはよくないと思うぞ。この式を鵜呑みにして超厳密な測定装置とか作ったら目もあてられない。 さて点Pの電位ポテンシャルが導くことが出来たら、次はそれの勾配ベクトル場である電界を導くことができる。 極座標形式での一次微分の公式を思い出せない場合には、それを先に導く必要がある。 どうすんだこれ(´Д`;) まずもって電位ポテンシャルが極座標で表されているので、勾配ベクトルも極座標表記ということになる。 (2013/12/14) いろいろ検索してみたが、まったく同一内容の結論をコピーしているものは多数みつかったが、導出方法を提示しているところは見あたらなかった。 どの電磁気学の本も数式を多用しているが、かといって数学書のように厳密に記号の定義が記述されているのは皆無といってよい。暗黙の前提でどの著者も同じ記号を定義を書かずに使用している。それが難解な要因のひとつでもある。もうひとつは導出に必要な数学的なテクニックやその導出過程は紙面を削減するために徹底的に割愛されている。書いてあったとしても結論の一歩手前までである。 そこで各人がひとつひとつ定義をし直して導出を行う必要がある。 どこまで厳密にすべきかは問題だが、とりあえず数式上に現れてくる記号だけは定義しようということにする。 まずは距離ベクトルrを定義する。太文字で書くと暗黙の了解でベクトルという規則に従う。 これは直交座標系での距離ベクトルrの定義である。 極座標では以下の様になる 電位は上記の距離ベクトルrを変数とする実関数である。 pは先に出てきた電気双極子モーメントで ということになる。 qは電気双極子の2つの点電荷がそれぞれもつ電荷量で実数、ベクトルδは2つの点電荷を電荷の低い方から高い方へ結ぶ距離ベクトルである。 ここでやっと電気双極子の2点の電荷の中点を原点とした極座標平面を考え、原点から距離ベクトルrの点Pに関する電位とその勾配ベクトルである電界を導くというのが問題である。 著者はいきなり平面極座標での∇の公式を用いているが、そもそも電磁気学の本で平面極座標を扱う本は少ない。ほとんどの場合が3次元直交座標で済んでしまうので、大抵のベクトル解析も3次元直交座標系だけ扱っている。それ以外の座標系を扱うと電磁気学の公式が美しくなくなってしまうのが第一の理由だが、それ以前に∇などの微分演算子を導出するのが面倒というのがある。それでも場合によっては座標系を変えた方が式が美しくなるというメリットがある。電気双極子の場合はHerzが最初にそうしたというのが理由かもしれない。 手元にある別の参考書で、今も本屋に並んでいる定評のあるドナルド・A・マックォーリーの初歩から学ぶ数学大全[3] ベクトル解析(講談社)に平面極座標の∇の導出方法が丁寧に4ページも割いて解説されていた。4ページというのは異例かもしれない。 それを読むと、一筋縄ではいかず、いくつかの数学的なお膳立てをして、それを用いて導出できるらしい。 最初に曲線座標系という概念を導入する。これは手元の「共立 数学公式改訂増補」の147pにある"3 曲線座標系におけるベクトル"を参考にしている。意外にも幾何学の部にベクトルとテンソルの解説があり、編集年代が古いにもかかわらず極めて少ないページ数で良くまとまっている。共変ベクトルと反変ベクトルの成分の添え字の記法が近代的なEinsteinの方法に従っているのも注目すべくところだ。 これはちょうどどちらも曲線を描く等電位線と電気力線が直交するような座標系が含まれる。直交するので直交曲線座標系と言われる。 曲線座標系では、ちょうど平面極座標のように座標が別の座標の関数として表すことができ,その関数は一価連続関数で必要なだけ繰り返し微分でき、以下の条件を満たす。 平面極座標はこの条件を満足する 行列式の各列は接線ベクトルを表す これを図で表すと ということになる。 er,eθの接ベクトルの内積は であるため、互いに直交していることが判る。 次にer,eθを正規化した基底ベクトルer',eθ'を考えると ということになる。 よく考えれば、座標変換が行われても ・同一点におけるスカラーポテンシャル量は不変 ・同一点における勾配ベクトルの大きさは不変 という事実こ今更気づく。 座標変換で変わるのは ・同一点における勾配ベクトルの向き ということになる。 ということはこの座標変換は点P近傍の正方領域をベクトルの大きさは変わらず向きだけが変わる正方領域への線型写像であると考えることができる。 上の図で以下の関係が成り立つ 従って平面極座標系での勾配ベクトルの成分は ということになる。 電界の強さは勾配ベクトルの大きさであるからして ということになる。 直交曲線座標への変換議論は途中を吹っ飛ばして結論を急いだ感があるが、詳細な検証は読者の課題としよう( ´∀`) どんだけ数学の知識が必要なんだと。 直交曲線座標に関して判りやすかったと思われる参考書をひとつ上げておく 共立出版「詳解物理応用数学演習」後藤憲一、山本邦夫、神吉健 共著 電磁気学の本には書いてない、極座標系でのgrad,div,rotの公式が書いてある。公式だけじゃなく、その導出に必要な基礎数学的な解説もされているところが純粋数学書と違って良いところ。純粋数学書ではChevalleyの名著「Theory of Lie Groups : 1」の後半でCartanの微分形式を構成するところでもっと一般的な強い定式化として同じ議論が出てくる。 おもちゃ箱の一つ加えないといけないかもしれない。 P.S もっと簡潔な電気双極子モーメントの導入方法は沢山あると思われるが、近似に関して言及しない限りいかに少ない語数や式で言明できたとしても初学者には理解不能だと思われる。それらはいずれももっと面倒な導入手続きを経て得られた結果から逆に辿って近道を見いだしただけのことで、所詮もってまわった導出でしかない。 |
フラット表示 | 前のトピック | 次のトピック |
題名 | 投稿者 | 日時 |
---|---|---|
真空中の電荷分布による静電界 | webadm | 2009-10-21 11:57 |
Re: 静電界I:真空中の静電界 | webadm | 2013-11-18 4:56 |
Coulombの法則 | webadm | 2013-11-18 5:45 |
電界の強さと電位 | webadm | 2013-11-25 0:14 |
点電荷による電界 | webadm | 2013-12-1 17:04 |
連続的電荷分布による電界 | webadm | 2013-12-2 2:10 |
» 電気双極子による電界 | webadm | 2013-12-9 13:58 |
電気二重層による電界 | webadm | 2013-12-30 13:35 |
多重極子 | webadm | 2014-1-4 18:42 |
多重極展開 | webadm | 2014-1-8 0:13 |
投稿するにはまず登録を | |