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投稿者 スレッド
webadm
投稿日時: 2013-12-30 13:35
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3089
電気二重層による電界
次は前の電気双極子が曲面上にびっしり並んだような電気二重層の議論。

古い電磁気学の本にはこの話題は登場しない。これも近年重要となった蓄電池など分子化学の理論理解に不可欠だから優先的に教えるように加えられたものだと思われる。

電気二重層とは以下の図の様に、非常に薄い(十分遠い距離から見てそうみなせるだけの厚みしかない)板の表面に正電荷、他面に負電荷が電荷分布密度σで分布するとき、この板を電気二重層(electric doublet)という。



これはちょうど無限小の電気双極子が板状にびっしり並んだものと等価であるから、前の電気双極子の理論がそのまま使えそうである。著者は最初から天下り的に点Pにおける電位の式を立体角ωという新しい物理量を使って定式化しているが、ところで立体角というのは何だ?

どうやら立体角というのは以下の様に定義されるものらしい



原点Oから距離rだけ離れた点Pに面要素dSがあって、その法線方向がO-Pの接線方向に対してθだけ傾いている場合、



をOからその面要素dSを見込む立体角と定義する。

これを電気双極子の時と同じように距離ベクトルrと面要素の法線方向を向き大きさが面要素に等しい面積ベクトルdSを使って表すと



ということになる。

著者は最初の図で電気二重層の厚みにtを用いて、その後で無限小の面要素や立体角ではδを用いるなど紛らわしい点があるので、著者とは異なる表記に改めた。それにどうも立体角で検索しても名だたる技術系企業の解説ページには説明図に基本的な誤りがあり参考にならないことを注意しておく。

読み手にそれぞれ勝手に新用語の定義を想像させて読み進めさせた後に後出しで著者の定義を与えてそれを読者の想像した定義と同一視するように強いるのはよくない書き方だと思うので著者とは記述の順序を変えている。そもそも同じ議論のお膳立てを節に分ける必要があるのかと。

とどのつまり、電気双極子の時にもそうだったように、電気双極子モーメントの中点から見て垂直方向は電界0の等電界面になるので、その方向は立体角も0と、それ以外の方向では電界は0ではなくなり、モーメントの接線方向が最も電界が強くなる。これはダイポールアンテナの指向性特性と一致する。

さて問題の電気二重層面から離れた点Pにおける電位をどうやって求めるかだ。電気双極子の様に無限小の電気双極子がびっしり並んで薄い面を構成していると考えれば、それぞれの無限小の電気双極子が点Pに与える電位の重ね合わせになると思われる。しかし立体角の導入によってその必要はないらしい。

先の立体角は電磁気学に限らず独立に定義される国際単位であるが、どうにもまともな解説が「物理のかぎしっぽ」ぐらいしか見あたらないのが情けない。

著者が次ぎに記述する式も導出方法が怪しい。

これも古い電磁気学の本では数ページ割いて解説されているのだが、いきなり錐面の立体角というのはいただけない。

最初ももっと簡単な円板状に分布した電荷に関して立体角の概念を考察してみよう。



点zから円板上の半径rで幅drの黒い帯を見込む立体角は



ということになる。

従って点zから円板全体を見込む立体角は



ということになる。

導出の仕方は著者のとは異なるが同じ結果が得られた。

要するに曲面の形はどうであれ境界が同じであれば境界内はどんな曲面でも(穴が空いていては困るが)立体角は同じということになる。

球の中心から半球面を見込んだ立体角は上の結果からα=π/2なのでω=2πとなる。
従って球の中心から球面全体を見込んだ立体角はその2倍の4πということになる。

次に与えられた立体角ωの面が電気二重層だった場合に、電位はどうなるか。

手元にある電磁気学のテキストではどれも上の問いに関して結論だけ示して導出方法を示しているものは皆無である。古いAbraham著の理論電気学の本には同じ意味の議論が延々と数ページに渡って続いているのだが、そこには電界(勾配ベクトル)の結果はあっても電位の関係式は出てこない。

とりあえず独自に前の電気双極子の結果を使って導出してみよう。

上の円盤モデルで、薄い円盤が無限小の電気双極子がびっしり固まってできているとみなして無限小幅drの円環が作る電位ポテンシャルは点zでは



ということになる。

これで著者が天下り的に提示している結論が得られた。

ここでτは電気二重層の強度とか、古いAbraham本では単位面積当たりの生成量と書いてある。後者の方がFaradayぽい。泉から電気力線が湧き出す量といった感じ。

Abraham本には電気双極子というのが出てこないが代わりに複泉という同じ電荷量で極性の異なる点泉(点電荷)が2つ隣接して並んでいる場合を扱っている。そこでは電気双極子モーメントは"複泉または双極子の能率"と書かれている。しかし今日天下りに示されるような電気双極子の作る電位ポテンシャルの式はついに最後まで現れない。Coulombの公式でなじみのある分母に4πが現れる式が登場するのは本格的な電磁気学の章に入ってからずっと後になる。昔はこの手の議論もベクトル解析に関する前座の章の前に出てくるので重要な概念であることには代わりないが今日よりだいぶ前座が長く、真打ちが登場するのが遅かったようだ。今日では前座なくていきなり真打ち登場ということになっているだけかもしれない。

さて著者は立体角に関してもうひとつのトピックスを提示している。それは電気二重層の表と裏で電位はどうなるかといったもの。著者は湾曲した電気双極子曲面の表と裏で立体角がそれぞれωと4π-ωとみなせるような表裏一体の2点を示しているが、これは先の円盤状の電気二重層面でも同じである。

電気二重層の表側に十分近い点から表面を見込む立体角は2πに限りなく近い、逆に裏面に十分近い点も立体角が2πに限りなく近くとることができる。この場合、立体角の正負を正の電荷を帯びた側を見込む方(表)を正にとり、負の電荷を帯びた側を見込む方(裏)を負にとるという規則にすると、表と裏の立体角の差は4πということになる。

これによって電気二重層の表側を見込む点では電位は正で、裏を見込む点では電位は負になる。

この議論も古い時代のAbraham本ではもっと念入りな議論によって同じ結論を出しているのが興味深い。実のところ立体角がこの後登場するのは電磁気学では後半に一回限りで、電磁気学と近い関係にある放射を扱うような光学で頻繁に用いられるので最初の講義で出しておかないと残りの講義をさぼる学生がいても平気なように組まれているのかもしれない。昔はベクトル解析を教えるのは電磁気学の前座の講義だったのかもしれない。今日ではどんなんだろう。もはやその記憶にない。

著者はもうひとつ同じ議論の続きで、表と裏の電位の差を結果だけ示して終わっている。

これも自分で導出しないと納得がいかない。

同じ電気二重層曲面を表と裏でそれぞれ立体角ω、-(4π-ω)で見込む2点(P,P')の電位とその差は



ということになる。

歴史的には電気二重層の理論はHelmholtzによるものでHertzはHelmholtzの指導の下で電気力学を研究し電磁波の発見を成し遂げた。Helmholtzの電気双極子がHertzの論文に生かされているのはそのためである。学術研究の世界では実質的でも仮想的でも師弟関係は重要である。
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題名 投稿者 日時
   真空中の電荷分布による静電界 webadm 2009-10-21 11:57
     Re: 静電界I:真空中の静電界 webadm 2013-11-18 4:56
     Coulombの法則 webadm 2013-11-18 5:45
     電界の強さと電位 webadm 2013-11-25 0:14
     点電荷による電界 webadm 2013-12-1 17:04
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