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投稿者 スレッド
webadm
投稿日時: 2014-1-4 18:42
Webmaster
登録日: 2004-11-7
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投稿: 3089
多重極子
次も電気双極子を一般化した多重極子の議論

この議論はかなり数学的な視点に満ちている。こういう味方は相当数学的な知識やテクニックを熟知した人でないとできない。それに19世紀の人間には思いつかない方法も使っている。

最初に以前の電気二重層で登場した電気双極子モーメントの問題点を思い出すことにしよう。あの時は突っ込まなかったが実はええかげんなところがある。

Helmholtzの電気双極子の議論の時には負の点電荷-qと正の点電荷qが位置ベクトルlだけ離れて置いて、その中心点を原点とした座標系で原点から距離rの点から見て位置ベクトルlの大きさが十分無視できる場合に限った議論だった。19世紀の頃には数学的にもこれが限界だし十分だった。

おそらく20世紀に入って一般の原子が複数の電子と陽子から構成されるということが判明してからHelmholtzの電気双極子を一般化した多極子の概念が必要になってきたと思われる。



電気双極子の議論で何が重要だったかというと、電気双極子の作り出す電位が上の式の様に電気双極子モーメントというベクトルpを用いて表されるという点である。同時に電気双極子の議論の問題点は多極子に拡張する際に変位ベクトルlが有限の大きさを持つことによって多極子の中心点(重心)が不明瞭になり座標系の原点を据えることができなくなる点である。

そこで20世紀に入って誰か頭の良い人が、この問題を解決したと思われる。それは電気双極子における変位ベクトルlを0に極限移行することで多極子が常に座標系の一点(原点)にあるように扱えるようにするということにした。ただしそうすると今度は双極子モーメントが電荷量qと変位ベクトルlの積だったから双極子モーメントも変わってしまう。これは都合が悪いので双極子モーメント自身の大きさ(ql)を一定に保つために電荷量qを同時に無限大へ極限移行するという逆転の発想である。

つまりモーメントさえ決まれば電位が決まるので電荷量qはどうでも良いということに気づいたのである。

数学的には多極子を一種の超関数(distribution)として座標系の一点に存在し大きさは限りなく0に近くその電荷量は無限大でありながら有限のモーメント値を持つものとして定義することを意味する。



Schwartzの超関数(distribution)は上のDiracのδ関数のように座標の原点で無限大をとるけれども積分するとHeavisideの階段関数H(t)になるようなおよそ普通の関数の範疇には含まれないが、数学的には関数のように扱うことが可能なものである。Schwartzがそれまで曖昧だった超関数の概念を数学的に定式化したことで以降誰でも超関数を大手を振って使えるようになったのである。多極子の議論もその後の話しだと思われる。

もちろん実際の原子とかは陽子に近づけば近づくほどその周りの電子の層とは相当の距離が離れているのだが、実際に他の粒子が衝突するぐらい近づくケースについては当時の物理学の世界では当面考えなくてよかったのでそれで済んだ。つまり原子を点として見なしても実験結果と理論値の乖離が十分小さければよかったのである。当然ながら粒子同士が衝突するとそうした古典物理学理論では説明できない現象が発生するので辻褄が合うように新しく考え直すという方向(素粒子理論)に進んだわけである。

さて多極子の理論を構成する基本的なアイデアは判ったが、今度は技術的(数学的なテクニック)の問題が残る。電荷量はもはやどうでも良いので忘れてしまっても良いが、変位ベクトルは大きさが無限小になったとはいえ向きはそれぞれ独立に持つ必要が依然としてある。

電気双極子の時にはそれが作り出す電位が変位ベクトルlの単位接ベクトルl/|l|と電気双極子の中心から観測点Pへ向けた距離ベクトルの内積で表されていたので、それは依然として無くならない。つまり変位ベクトルの大きさを0に極限移行しても向きは保つことにする。そうすれば電気双極子の結果は多極子に一般化しても保たれることになる。

どこまで都合が良い理論なんだ( ´∀`)

手元にSchwartzの著書の邦訳「超函数の理論」原書第3版 岩室 聡 石垣春男 鈴木 文夫 訳 岩波書店があるが、久々に開いてみたら双極子が最初の頃にちゃんと出てきていた(´Д`;)

Schwartzは近代的な位相空間を導入することで超関数を定式化したのね。そういえば位相空間論を知らなくて読み進めることが出来ずにほっておいたのだった。そろそろ読み始めようかな。おもちゃ箱に加える必要があるかもしれない。Schwartzの定式化が気に入らなかった数学者の佐藤幹夫は独自にもっと簡明な定式化として佐藤の超関数(hyperfuncion)を提案した。

Schwartzの超関数の理論の序文を読むと発端はHeavisideの演算子法やDiracのδ関数などの演算子もしくは作用素を用いる計算や、それとは無関係な双極子、二重層などのポテンシャル理論がおよそ数学的厳密性欠くのに実験と辻褄の合う正しい計算結果を与える事実にあったようだ。これは読まずには居られないだろう。後で読む(´Д`;)

Schwartzは学生向けにもっと易しい著書で超関数の使い方を解説している。邦訳があって「物理数学の方法」吉田耕作 渡辺二郎 訳 岩波書店で手元にもあり、以前より所々拾い読みしている。しかし超関数のところは読んでなかった、大失敗。後で読む(´Д`;)

訳者後書きによるとGelfandの第一巻も超関数の入門書として名著らしい。

電気双極子の場合をおさらいしてみると



ということになる。

つまり以下の様に表すことも出来る



ここで∂/∂lは変位ベクトル方向の微分演算子である。

これは2^n多重極子が作り出す電位のn=1の場合のケースということになる。

またn=0の単極子(単電荷)の作り出す電位は以下の様に定義することにする



ということになる。

n=0の単極子とn=1の双極子の場合から一般的な2^n多重極子のモーメントとそれが作り出す電位は



と定義することが出来る。

さてn=0とn=1については前に得た結論と同じ結果をもたらすことは確かめることができるが、n=2の4重極子(quadrupole)の場合はどんなるだろう。

定義によれば、n=2の4重極子は、n=1のモーメント-pとその逆向きのpを持つ2つの双極子をベクトルl1だけ変位させて置いたものと考えることができる。この場合、双極子の2つの単極子(単電荷)の変位ベクトルl0l1は必ずしも線型独立である必要はない。見かけ上の点電荷は2^n個存在するように見える。

図で描くと



ということになる。

著者の図だと多重極子の定義とは違った解釈に読み取れるのでその点を補足訂正してある。電荷ではなくモーメントに視点を置く必要がある。

定義によって4重極子(quadrupole)のモーメントとそれが作り出す電位は



ということになる。

l0l1が直交座標x,y平面の座標軸にそれぞれ並行な例では





ということになる。

直線上にぺしゃんこに潰した(もしくは上の並行四辺形に並んだものを平面に接する方向から眺めた)4重極子に関しては



ということになる。

どうやら平面極座標では2^n多重極子の作る電位はn=0,1,2に関して



ということになる。Ynは今のところθの関数だということぐらいしか判っていない。一般のnに関してどうなるかを帰納的に調べてみる必要がある。

nが2以下の場合には二次元平面極座標だけ考えればよかったが、nが3以上になるとそうはいかなくなる。円筒もしくは球座標を考える必要が出てくる。



上図の8重極子(octopole)について考えてみる必要がある。

8重極子は八重極子(octupole)とも呼ばれるが、それだとまるで八重極子て誰よ?とか八重極子たん?とか擬人化されかねないので敢えてここでは8重極子と書く。

なんの話しだったっけ、ああ8重極子ね。

図を見ても判るように、定義に従って8重極子は負のモーメントを持つ4重極子と同じ大きさで正のモーメントを持つ4重極子を変位ベクトルl2だけ移動して配置したもので、以下のモーメントを持つことになる。



8重極子モーメントの向きはl2で決まることになる。

つまり双極子は単極子(単電荷)を双極子状に並べたもの。4重極子は双極子2つを双極子状に並べたもの、8重極子は4重極子を双極子状に並べたもの、・・・2^n多重極子は2つの2^(n-1)多重極子を双曲子状に並べたものということで、単極子を除けば例外なく双極子と同じ規則に従うということになる。



2つのお人形さんが少し大きなお人形さんの中に納まってて、そのお人形さんが2体もっと大きなお人形さんの中に納まってて・・・という一つのお人形さんに上下2体のお人形さんが納まっているマトリョーシカお人形みたいなものなのね。

なんだ簡単じゃないか( ´∀`)

8重極子の作り出す電位ポテンシャルはl0,l1,l2が互いにx,y,z軸方向の直交ベクトルであるとすると



どうも直交座標系だとよく判らないので以下の極座標系の視点で見てみると





ということになる。

従って2^n多重極子の電位の一般式は以下の様に修正される



nが増すごとにモーメントは大きくなるものの、電位ポテンシャルは距離rの(n+1)乗に反比例するので極めて近い距離にしか影響を及ぼさない傾向を強めていくことになる。

ここで休憩がてらでmaximaで上の8重極子の電位ポテンシャルをプロットしてみよう

plot3d (abs(sin(theta)^2*cos(phi)*sin(phi)*cos(theta)),[theta, 0, %pi],[phi, 0, 2*%pi],[transform_xy,spherical_to_xyz], [grid,100,100]);



見事なアレイ型の8つの腕が見えてくる。

この図は学生時代に化学の講義で黒板に描かれていた記憶がある、アレイ型の腕というのその時初めて聞いた。

平面状の4重極子の場合は

plot3d (abs(sin(theta)^2*cos(phi)*sin(phi)), [theta, 0, %pi],[phi, 0, 2*%pi],[transform_xy,spherical_to_xyz],[grid,100,100]);



4つのアレイ状の腕が伸びているのが見える。

同じ様に直線状の4重極子の電位ポテンシャルをプロットしてみると

plot3d (abs(2*cos(theta)^2-sin(theta)^2), [theta, 0, %pi],[phi, 0, 2*%pi],[transform_xy, spherical_to_xyz], [grid,100,100]);



双極子の場合は

plot3d (abs(cos(theta)), [theta, 0, %pi],[phi, 0, 2*%pi],[transform_xy, spherical_to_xyz],[grid,100,100]);



ということになる。

さて休憩はここまでにして、著者は結論だけ示してその導出に関しては演習問題としている。なのでここでは同じ結果だけを記憶するに留め、導出に関しては演習問題で取り組むことにしよう。既にここまで著者の演習問題ネタをばらしてしまったものもあるが、それはそれで良しとしよう。この最後の結論だけはちょっとじっくり考える必要がある。

一般の2^n多重極子の電位ポテンシャルは以下の形になる。



ここでPn^mは陪Legendre関数でanm,bnmは変位の方向によって定まる定数である。

P.S

やはり数ある電磁気学のテキストして本書は異例である。通常は分子化学とか物性学で必要とされるこれらの多極子論をいきなり最初の数ページ目で、それもまだ電磁気学の前座の段階で登場させるのは根性の無い学生にとっては過酷な試練となる可能性が高い。最初の4ページ目でこれが登場すると、さすがに電気大好き学生でも尻尾を巻いて退散してしまうかもしれない。それはそれである種の試金石なのかもしれない。と今は思う。幸運にも学生時代は電気専攻ではなかったので、電磁気学を学ぶ機会はなかった。その代わりといえばなんだが、材料力学では反吐がでる程計算問題をさせられた。以前どこかで書いたけど、米国のソニーの研究所で会ったドイツ人の研究者は学生時代のtraumaとして電磁気学の演習を挙げていた、来る日も来る日も"真空中に無限に伸びた線路に..."という下りの問題を目にするたびに反吐が出そうになって鬱になったとか。

計算機やパソコンの無かった時代の人は、電位ポテンシャルの式を見てもどんな分布になるかは想像しようもなかったと思われる。今ではMaximaのようにフリーで使える数式ソフトがあるので、先に詳解したようなグラフが簡単にプロットできる。学生時代もパソコンはまだ登場しなくてミニコンの時代だったから、グラフをプロットするというのはコンピューターでやらせるにはプログラム作ったりプロッターでプロット用紙の巻紙を無駄にしたりと大変コストが高くつくので普通はやらない(できない)相談だった。今では分子化学の本に書いてあるような先の電位ポテンシャルの図が簡単にしかも短時間でプロットできる。良い時代である。それをテコにして理解を早めるしかない。

ここから先の演習問題と著者の解答例を眺めていくだけで、卒倒しそうな内容がいくらでもある。そういうのを突破してやっと認められるのだなと思うしかない。99%は定義と規則なんだけどね。1%の発想を発見するのを楽しみに。


P.S

一次元上の四重極子の電位の式に誤りがあったのを訂正した。nが2以上になると軸対称性でない座標軸が出てくるのだが、三次元空間上にスカラー場をプロットするというのは座標軸が足らないので困ったことになる。同様に電界もある次元になるとプロットするのは座標軸が足らなくなるので我々の目に見える形では困難になる。四次元空間やそれ以上の空間が必要になってくる。これに時間軸が加わると更にやっかいなことになるのは想像に難くない。
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題名 投稿者 日時
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