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webadm
投稿日時: 2011-8-6 9:22
Webmaster
登録日: 2004-11-7
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投稿: 3089
対称定K形フィルタ
次は理論のときにおさらいした対称T字およびπ形の定K形フィルタに関する解析問題。

下図に示す対称T形および対称π形フィルタの影像パラメータおよび減衰定数、位相定数を求めて、通過域、減衰域を示し、影像インピーダンスを遮断周波数を用いて表せ。ただし、Z1,Z2はいずれも純リアクタンスでZ1Z2=R^2の関係が成立するものとする。



今度は著者ともValkenburgとも違うやりかたでアプローチしてみよう。



対称定K形フィルタの伝送行列をFとした場合、その行列に関してゼロでない固有値λ、固有ベクトルxが存在すると仮定すると



ということになる。従って対称定K形フィルタの伝送行列の固有値から影像伝達定数が得られたことになる。一方影像インピーダンスZiは上で解いた固有値を元の固有値固有ベクトル方程式に代入して固有ベクトルの成分に関して解けば

\begin{eqnarray}<br />\left(F-\lambda\,E\right)x&=&\begin{bmatrix}A-\lambda & B\cr C & D-\lambda\end{bmatrix}\begin{bmatrix}Z_i\cr 1\end{bmatrix}\\<br />&=&\begin{bmatrix}\left(A-\lambda\right)Z_i+B\cr C\,Z_i+\left(D-\lambda\right)\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}0\cr 0\end{bmatrix}\\<br />Z_i&=&\frac{B}{\lambda-A}=\frac{\lambda-D}{C}\\<br />&=&\frac{B}{\cancel{A}\pm\sqrt{B\,C}-\cancel{A}}=\pm\sqrt{\frac{B}{C}}\\<br />&=&\frac{\cancel{A}\pm\sqrt{B\,C}-\cancel{D}}{C}=\pm\sqrt{\frac{B}{C}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。これで行列の固有ベクトルから影像インピーダンスを導くことができるのを確認できた。

あとは具体的な回路の4端子定数を求めて上記の式に代入し影像伝達定数から減衰定数と位相定数を解析すればよいことになる

対称T字形の伝送行列は



従って影像パラメータはそれぞれ



ここでZ1はリアクタンスであるので、複素平面の虚軸上の値のみをとる。従ってZ1^2は0から-∞の値をとることになる。影像インピーダンスZiは実数と純虚数の範囲をとり、その境界点が遮断周波数ということになる。



一般的な定K形フィルタを考えると低域/高域通過フィルタの他に帯域通過/阻止フィルタも含まれる。前者の場合は、Z1は容量性リアクタンスか誘導性リアクタンスのどちらかかしか取らないのでZ1^2/4R^2=-1を満たす点は1つだが、後者はZ1が容量性リアクタンスを取る領域と誘導性リアクタンスをとる領域の場合でそれぞれにZ1^2/4R^2=-1を満たす点が存在することに注意を払わなければならない。それと減衰域で影像インピーダンスは純虚数になるが、複素べき根関数は多価関数なので二乗根の場合正負両方に分岐が生じる。減衰域での影像インピーダンスをプロットした例が参考書では少ないのはこのためだ。

定K形低域フィルタの場合、Z1=jωL、Z2=-j/ωCとすると遮断周波数ω0は



ということになる。題意の通りに影像インピーダンスを遮断周波数を用いて表すにはZ1^2/4R^2を遮断周波数を用いて表す必要がある



高域フィルタの場合Z1=-j/ωC,Z2=jωLとして同様に計算すると





ということになる。表現的には同一だが、Ωのが低域と高域でとで互いに逆数の関係になっている点に注意。

帯域通過フィルタの場合、Z1=jωL1-j/ωC1、Z2=1/(jωC2-j/ωL2)とすると



従って影像インピーダンスは



ということになる。これは著者が理論の際に示している表現と等価である。ω2をうまく消去したのね。自分でやってみないとわからない。

同様にして帯域阻止フィルタの場合Z1=1/(jωC1-j/ωL1)、Z2=jωL2-j/ωC2とすると



同様に影像インピーダンスは



ということになる。従って低域フィルタと高域フィルタの関係と同様に帯域通過と帯域阻止のΩは逆数の関係になる。

減衰定数αと位相定数βは少しやっかいだ。標準化された角周波数Ωを使って書き直すと

(2011/8/25)
だいぶここから先で詰まってしまっていた理由が判明してきた。何度も著者や先人のアプローチをなぞって終わりにしようかと誘惑にかられたが、理由がわかれば光が見えてきたも同然。

先に導出した影像伝達定数(θ)式は他の参考書では扱われていないユニークなものである。これは良く見ると



ということでacosh(A)=θ=ln(A±√A^2-1)ということだった。これは数学公式集とかには必ず載っているが、±のところが一般には+になっている点が異なる。大抵の参考書の公式は実数関数としての逆双曲線余弦関数であるので結果も実数でしかも1より大きくなければならないということになるためだ。ここのところはほとんどの公式集では説明が省略されている。高木貞治の「解析概論」では実数関数だがcoshの逆関数の導出手順が説明されている(54. 指数関数と三角関数との関係 対数と逆三角関数)。手元にある工学者向けの複素解析の指南書「現代工学のための複素関数の微分と積分」では数学の複素解析本では華麗にスルーしている変な複素関数や式が例題として出てくるし、突然前触れもなく双曲線関数の逆関数の式が出てくる。そこには先に求めたのと同じ表現が出てきている。

引用:

(h)複素双曲線関数
[定義1.10] w=cosh zの逆関数を複素逆双曲線関数といい、cosh^-1 zまたはarccosh zと書く。cosh^-1 zは次のように複素対数関数で表される:



複素対数関数は無限多価関数であるから、cosh^-1も無限多価関数となる。
他の複素逆双曲線関数は次のようになる:



「現代工学のための複素関数の微分と積分」"1.4 初等複素関数"より


これはまさしく高木貞治の「解析概論」にある通り、複素対数関数の主値(principal values)のみをとる対数関数をLogと頭文字を大文字としている。±の部分は多価関数である二乗根関数の値そのものであるので、そのままになっている。ところがやっかいの種である。どちらも解としてあると他方は矛盾する結果をもたらす。このあたりの議論はめったに本では見かけないが、検索すると実は数値計算の分野では良く知られている問題であることがわかる。数値計算ではすべての関数は一価関数でないと都合が悪い。そこでFortranやその他今日ありとあらゆる言語や数値計算プログラミングの世界では複素関数もすべて一価関数としてライブラリ化されている。その際に問題となるのがどのような分岐選択(branch cuts)をするかという点。それによってはシステムが異なると同じ結果が得られないことになる。嵌ったのはまさにここである。実は複素逆関数だけで一冊の本が出ているぐらい込み入って間違いを犯しやすいのだった。そこに嵌って抜けられなかった。

Reasoning about the elementary functions of complex analysis

以下の式は連続な実数や複素数領域ではどれも等価だが、離散的な実数値や複素数を取る浮動小数点表示の計算機で計算するときにはある条件では意図しない異常な値を返すことになる



最後の式はKahan氏によって提案されているものでひとつ前の式にある特異点z=-1を解消しその近傍でオーバーフローを引き起こし誤った結果をもたらすのを回避している。数値計算屋さんなら誰しも知っていることかもしれないが素人には区別がつかない。

The complex inverse trigonometric and hyperbolic functions

なんの話だっけ。ああ、分岐選択の話ね。さてどうやって±を+にすればいいんだっけ。

検索で良く見つかるのはどれも実数関数としてのものであるがそのトリックが複素関数でも使える



ということになる。つまり受動素子から成る二端子対回路の影像減衰定数は常に正で負になることは無い(回路に流入する電力より流出する電力が多くなるわけがない)からという理由で負号は排除できたということになる。一般的には依然としてcoshの複素逆関数の主値は二価であるが計算機プログラム(Maxima等)では一価関数で正の値のみ返すという具合。本当かどうかは読者の判断に委ねよう( ´∀`)

さていよいよこれでT字形回路の周波数特性を解析することになる。影像インピーダンスの解析の時と同様に標準化された角周波数Ωを用いて書き直すと





ということになる。よく見るとαのLn表現は2acosh(Ω)と同値であることがわかる。同様にβのatan表現はasin(Ω)と同値である、それを確かめるのは読者の課題としよう( ´∀`)

(2011/9/4)
解析接続される3つの定義区間が境界点となる遮断周波数でオーバーラップしてなかったので訂正。区間D1,D2,D3でそれぞれ正則な複素関数f1,f2,f3が解析接続される場合、D1∩D2(≠φ)なる区間でf1=f2、D2∩D3(≠φ)なる区間でf2=f3でなければならない。


引用:



「詳解 電気回路演習(下)」p126(問題【12】解)より


それにしても著者の解(i)はどう見ても間違いだろうというところが見受けられる。αが負を値を取るように示されている。これは絶対おかしいだろう。βが-πとなった時点でsin(β/2)は-1なのでcosh(α/2)は正の値をとらないといけない。しかも各区間が解析接続されてないし(;´Д`)

これで標準化された角周波数Ωですべての対称T字定K形フィルタの周波数特性が得られることになる。

さてこれでやっと対称T形が終わった。あと対称π形が残っている(吐血)

といっても既に対称回路の伝送行列に関する影像インピーダンス及び影像伝達定数は共通なので対称π形の定Kフィルタ回路の4端子定数のうち開放電圧減衰係数(A)さえ判ればあとは同様に事は進むと思われるのでさっさと終わらせてしまおう。

右の回路の伝送行列を導くと



従って開放電圧減衰係数(A)はT字回路と同じなので影像伝達定数は共通ということになり、標準化された角周波数Ωで統一的に表されることになる。

対称π形回路の影像インピーダンスは4端子定数BとCより



ということになる。これはT字回路の場合とは零点と極がちょうど逆の関係にあることを意味する。

更に詳しい解析は読者に委ねよう( ´∀`)

P.S

著者やValkenburg他多くの書では王道的なアプローチとして影像伝達定数の式を導いた際に



という関係があることに着目し、双曲線関数の諸公式を利用して



という関係式を得て、Ωに対するθの実数部(α)と虚数部(β)の挙動を解析する方法をとっている。

かつて直流回路で有限抵抗ラダー回路の解析の解で双曲線関数が登場して以来、双曲線関数は宿敵になっているので、なるべく対決を避けるために、あえて双曲線関数を使わないアプローチをとってみたが、裏街道を通って都を目指すようなもので思い返せば茨の道だった(ノД`)

結局は王道を通っても裏街道を通っても同じ結論に辿りつくのだが、王道を歩んできたはずの著者ですら最後にとんでもない間違いを犯して全部を無駄にしてしまっている。裏街道はもっと多難で、方向を誤る難所がいくつもあることがわかった。結果的に複素双曲線関数が複素対数関数に包含される以下の意味を理解した。

引用:

変数を実数に限ってもarc sin, arc cos, arc tanの多意性がlogの多意性の下に統一される。
実変数に関する三角関数、双曲線関数は複素変数に関する指数関数の一断面にほかならないから、それらの逆関数がすべて対数関数に包含されるのである。この認識は大切である。
上記の関係は形式上はすでに十八世紀(Euler)において知られていたのであるが、その根本的の意味は十九世紀以後、複素変数が徹底的に考察された後に初めて明らかになって、そこから驚愕すべき単純化が可能になったのである。初等関数といえども、複素変数にまで次元を拡張しなくては完全に統制されないのである。この間の消息は第5章で述べるであろう。

高木貞治「解析概論」第4章 p198より


複素双曲線関数を用いた解析を避けて、むしろ難しい複素対数関数を用いた解析は振り返るとこちらが正道だろうという気がしてならない。双曲線関数を用いた解析は複素対数関数を使って最終的な答えを得てみたら逆双曲線関数や逆三角関数だったということで、もっと近道があるに違いないと戻って探して見つけた(それこそもってあまった)方法という気がしてならない。それでも著者やValkenburgですら道を誤る。かなり神経を使うのは確かで、何度も投げだそうと考えた。これは我々が複素関数に慣れていないという現れでもある。慣れてしまうと、「解析概論」や「現代工学のための複素関数の微分と積分」にあるようなトリックを理解することができる。

もってあまったような複素対数関数を使った定K形フィルタの解析は他では見あたらないので、オリジナル性が高いものと自負している(touch wood!)

結局は行き着くところ双曲線関数が待ち受けているということは、我々の住む宇宙は双曲線関数と密接なつながりがあるということを意味しているのだろうか? これも読者の永遠の課題としよう( ´∀`)

P.S

ここまでの演習問題ではいやと言うほど数学の複素関数解析で必ず教わる解析接続、多価関数について実践的に学ばされる結果となった。数学書を読んだり学生の時に講義を受けたときには具体例が無いためまったく実感がなかったが、ここにきて古典フィルタ理論でその理解が試されるとは予想もしなかった。

すでにいくつかの演習問題のところで後で高木貞治の「解析概論」や寺沢寛一の「数学概論」を読み返して数学的な視点を得て見直すべきところは訂正した。

おもしろいことに「解析概論」と「数学概論」の複素解析の部分を読み比べてみると、両者はその立ち位置がまったく異なっていることに気づかされる。

「解析概論」は数学者である高木貞治が書いたものであるから、数学者の卵もしくは数学の教養を得ようとする学生に向けられていることがわかる。特徴的なのは、第5章の"63. 解析的延長"と題された解析接続に関する記述が数ページに渡るほど熱の入れようなのに対して、「数学概論」は数学者でない寺沢寛一が自然科学を学ぼうとする学生や社会人向けに書かれたものなので、解析接続についてはどこの本にも見られるように1ページ程度にあっさりと触れているだけである。

「解析概論」の解析接続に関する記述は、証明のやり方やWeierstrass批判にまで突っ込んでいる最も高木貞治らしさが出ている部分のひとつでもある。これは是非とも読んで欲しいところではある。苦労して定K形フィルタの影像伝達定数の解析をやってみたら、これがまさに解析関数の解析延長(解析接続)そのものだったというのが読んで合点した次第。今は体に染みいるように書いてあることが良く理解できる。

引用:

局所的に与えられたf(z)のすべての可能なる解析的延長を総括して、それによってひとつの関数が定められるとみて、Weierstrassがそれを単性解析関数(monogene analytische Funktion)と名づけた。このような拡張は任意の規約による形式的な拡張とはまったく違う。すなわち拡張された広範囲の各部局において、関数が種々の様式によって表されることがあっても、それらの間には本質的の関係があって、一部局における関数の一つの砕片から、全局における関数が自然に確定するのである。それを強調するために単性といったのであろうが、しかし解析関数はすべて単性だから、形容詞‘単性’は実は不用である。

高木貞治「解析概論」第5章 63.解析的延長 p239より


一方「数学概論」の同じテーマの扱いも「解析概論」に負けずおとらずである。前者は後者が深く踏み込んでいない部分について多くのページを割いている。同じ第5章にある"5-8 多価関数の岐点"では多価性について数学者は決してしない具体例を挙げて解説している。年代的には後者は前者よりもずっと前に書かれているので、当然ながら敬意を払って記述範囲の棲み分けをしたと思われる。「解析概論」では明確には区別されていない代数的岐点、対数的岐点や、まったく登場しないRiemann面も異例の詳しさで説明されている。ちょうど「解析概論」で現代的に見ると残念な部分を補完しているように見える。

古典フィルタ理論を学ぶ時には「解析概論」や「数学概論」を一度読み直してみる良い機会かもしれない。いや必読に違いない。

手元には複素解析本の原典とも言うべきCOURANTが編纂した複数の複素解析書とHURWITZの楕円関数論の本を合本した分厚い古本がある。時々それを眺めるのだが(ドイツ語なので良く読めない)それには「解析概論」や「数学概論」に出てくるトピックス(元ネタ)が詳しく述べられているのが見てとれる。
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