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webadm | 投稿日時: 2016-4-20 13:01 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
テンソルの参考書 電磁気学をマスターするつもりが、途中からテンソルの方に興味が湧いてそちらの本も少しばかり買い込んだ。
ほとんどは昨年に購入したもので、一部は海外からの取り寄せになって、今年になってから届いた。 一番最初に読んだのが裳華房「テンソル解析」田代嘉宏 著、写真にあるように表紙には復刊とあり、注文するとオンデマンドで印刷されて送られてくる。 内容的にも初版が出版されたのも決して古くはないが、諸事情で一度絶版になったようだが内容に関する評価が高く、復刊の要望が高かったのかも。 テンソルを知りたい初学者に読みやすく章立てしてあり、今のところ誤植や誤記の類いは見当たらない。 良くまとまった良書という印象である。 毎日通勤途中で読んでいたので、少しビニールカバーがくたびれてしまっている。 前半は需要の多い正規直交座標系に限定した直交テンソルに関して解説されている。 直交系のテンソル代数と直交系のテンソル解析だけ知りたいという人がほとんどだろうから、それに応えたものだと思われる。 後半はしっかりと一般の座標系でのテンソル代数とテンソル解析が論じられている。しっかりマスターしたい人にも十分に役にたつ。 自分数学で独学しているうちに、だいぶテンソル代数の部分は理解できるようになったが、まだテンソル解析の方までは理解が進まない。 やはり自分数学で再発見するやり方でないとだめな性格かもしれない。 日本語で書かれたテンソルの本ということではお勧めのひとつである。 次に紹介するのはヤフオクでたまたま仕入れた数学の古本の分冊集の中に含まれていたテンソル代数に関する専門書。 少し古くなるものの、そんなには古いものではなく、フィールズ賞を受賞した小平邦彦の総監修のもと、日本の数学界の重鎮の方々が編集担当として、次代を担う若い数学者が執筆した基礎数学書シリーズの一冊である。 岩波書店が岩波講座 基礎数学シリーズとして配本していたものである。その一冊にテンソルに関するものがある。 線形代数 iv 「テンソル空間と外積代数」横沼健雄 著(編集担当 岩堀長慶)である。 こちらは数学専攻者向けの本で、数学者が書いた数学者の卵向けのテンソルの本という感じ。 最初何を書いてあるのか一部を除いては判らなかった(線形代数を学んでいなかったら全部判らなかったに違いない)。 主にテンソル代数とそれに続く近代の後継理論(外積代数、Lie代数)という章立てであるので、物理や工学専攻でテンソルを学びたい人向けではない。何しろテンソル解析についてはテンソル代数の範疇ではないということで除外されている。 それでも物理や工学専攻者のために書かれたテンソル入門書では割愛されているテンソル積や交代積から始まるので、知って置くと視野が広がると思われる。 テンソルの縮約や縮合も判りにくいが、テンソルの言葉(添え字記法)を使うと、なんだ簡単じゃないか( ´∀`)と思えてくるのが不思議だ。 テンソル記法(添え字記法)は慣れるまで大変だけど、一度慣れてしまうと見通しが良くなる。 それと著者はテンソル本では常識となっているEinsteinの総和規則(Einsteinの考案したΣを省略する記法)を初学者が誤解を招く恐れがあるので使用しない方針を貫いている。これは省略記法に慣れないと、本質を見失うことが初学者には多い危険性があるので好ましい選択である。Σを省略しなくても、読む側がそれを省略して読めばいいわけである。 次にお勧めなのが、前書の編集担当だった岩堀長慶先生の有名な本。 裳華房「ベクトル解析 ー力学の理解のためにー」岩堀長慶 著 森さんも出版前にその元ネタである講義ノートを読んだとどこかに書いてあったのを読んだ記憶がある。 それだけに一度は読まないといけないだろうと購入した。 ベクトル解析だけなら、他にもっとページ数の少ない薄い本がいっぱいあるが、この本は総ページ数が400ページ近くある、国内の専門書でも珍しい本である。 序文からして、時代の要請を受けてベクトル解析に精通した物理学者、工学者を沢山世に送り出すことを手助けすべく書かれている。 この本の主題はベクトル解析なのだが、テンソル代数もベクトル代数と同等に扱われている。 また座標系も正規直交系だけに限定する入門書がほとんどだが、この本は一般の斜交座標系についても論じており、正規直交系だけだと欺されているような気分だが、もっと一般的な座標系で正規直交系を眺めることでしっかりとした理解が出来るというのもうれしい。 さて他にもテンソルを扱っている電磁気学や剛体力学の本を購入して読んではみたものの、やはり帯に短したすきに長しといった感が否めず、お勧めというものが上記以外は無かった。それでも近年出版された本は若い学者先生が最新の視点を紹介しているので、それはそれで新鮮であり興味深かったのは確か。 ここからは海外に注文してあった、昨年かそこらに出版されたばかりの新しい本(一部初版が相当古く、英語翻訳版がやっと昨年出版されたというものがある)。 お勧めの一番のものは、Johns Hopkins University Press "Tensor Calculus for Physics - A Concise Guide" Dwight E. Neuenschwander 著。 注文時点で既に学生向けのpaperback版も出ていたが、著者にリスペクトすべくハードカバー本を購入した。 普通のテンソル入門書かと思ったが、直ぐにそうではないことに気付いた。 これは異色の本である。 特に若い学生向けである。 おそらく日本語訳もどこかの出版社で既に着手されているのではないかと想像する。少し若ければ自分で翻訳し始めていたかもしれない。それだけ面白そうな本である。 序文を読むと、かつて著者が学生時代に経験したテンソルに躓いている学生向けに書かれていることがわかる。これさえ解ればという時に限って全然解らないものがあるのであるが、テンソルはその典型的な概念だろう。 著者も序文で書いてあるように、この本はコンサイスガイドと副題であるように、薄い本ではない。 最新の物理学の理解に必須だから、最新の分子化学理論の理解に必須だから、という理由でテンソルに向き合ったものの、完敗している人にはうってつけの本だろう。 それだけに最初の章から、いきなり偏微分記号(∂)とかばしばし出てくるし、Einsteinが提示した特種相対性理論の式も出てくる。 そして次第に著者の目指す先が一般相対性理論、量子力学理論にあることが明らかになってくる。 狭義のテンソル代数の範疇には含まれない擬テンソルと言われるテンソル密度に関しても前半に議論されることになる。 物理・工学向けのテンソル本でも、テンソル代数の締めくくりに、ちらっと出てくる程度だが、この本では、キーとなるテンソルの概念は前半に全て登場してくる。 最初の章は面白く読み進めて書かれてある式も既に自分で再発見したものばかりなのだが、第二章から急に難しく感じる。 著者が矢継ぎ早に重要なテンソルの概念をオールキャストで登場させてくるので、まだそれの理解がままならないとついていけない感じがする。 もう年だからだろうか。 若い人ならどんどん読み進めるかもしれない。 それでもこの本はどのページからでも好きに読み始めることができる数少ない本である。 時々前出の式を参照するのに戻ることはあっても、式と同じぐらい文章も多いので、それを読んでいるだけでも新しい発見がある。 それとこの本の章末にある演習問題の形は他の本とは異なっている。 もちろん最後に演習問題として設問がいくつかあるが、その前に、議論課題(Discussion Questions)というのがあり、およそ模範解答というものは存在しないだろうと思われる、各自で自問自答することを余儀なくされる設問が設けられている。 これは面白い。 こいうのが大事なんだよなと思う。 paperback版は安いので、是非手にとって読まれることをお勧めする。日本語訳がいつ出るかは保証の限りではないので。数学専攻向けの本ではないので、英文も至って平易(ただしInternational向けに書かれたものではないのでNativeでないとニュアンスがわからない表現も多い)。 次に紹介する海外本は、昨年で100周年を迎えたEinsteinの一般相対性理論を記念すべく1924年にロシア語版のみが出版されていた有名な本の初めての英文訳 MINKOWSKI Insitute Press "FOUNDATIONS OF THE THEORY OF RELATIVITY Volume 1: Tensor Calculus" V.K.Frederiks A.A.Friedmann である。 Tensorで出版物を検索していたら、これが出てきたので新しい本かと思ったら、相当に古い古典本の英訳復刊本であることが判明。 一瞬迷ったけど、Tensor本自体が出版数が少ないので、買うなら今のうちと決心。 結果的にその判断は正しかった。これは紛れもない、その後出版されたTensor本の元ネタ本であることが内容から明らかとなった。 Einsteinの一般相対性理論の発表は物理学界だけではなく、数学界にも広く衝撃波をもたらした。 それは一般相対性理論がテンソルの言葉(添え字記法)を使って書かれていたというのが大きい。 にわかにテンソルに関する需要が高まって、それに関する解説書を書くことが数学者に要請されたということである。 Friedmannの名前はどこかで聞いたことがあるような気もするし、無い気もする。けれども歴史に足跡をのこした人であることは確かである。 右の写真がFriedmannである、どこか病人のような顔にみえるが、どうやら病弱だったらしい。 Einsteinの相対性理論が発表後にそれに基づいて独自に膨張する宇宙の解を見いだし、後にHubbleが観測でそれを裏付けたことで有名、また流体力学の専門で、気球にも度々乗っていたらしい。 最後に7.5kmという高度記録更新を達成して地上に戻った直後に体調を崩し倒れ、その月に亡くなったという。 7.5kmというとエベレストの頂上に近い高さだから、十分な吸気マスク装備でないかぎり、高山病に冒されても仕方がないと今なら言える。 前半がテンソル代数、後半がテンソル解析で、最後の方にクリストッフェル記号も登場する。また一番最後の章は、テンソル解析の積分理論として所謂テンソル密度の議論がされていて参考になる。 書かれた時代は古いが内容的には近年書かれたものと本質的には違いがない。近年のものは多少とも記法や新しいもので統一されているというだけかもしれない。 ということで古い参考書としてはこれかもしれない。 あと、まだ入手していないが、Einsteinの一般相対性理論の解説書としていち早く出版された、英国のEdingtonの著書も今なお増刷されてて入手可能であるというのは驚きである。今では多少評価は下がっているのかもしれないが(今では誰もEdingtonのεとか言わずに、Levi-Civita記号とか、その出典である書の共著者も加えて、Ricci-Levi-Civita記号と呼ぶ人も居る)ぜひとも手元に置いておきたい本かもしれない。 (2015/4/22) 写真を撮っておきながら、最後に新しい参考書として最もよくまとまっている本を紹介するのを忘れてしもうた(´Д`;) Springer "Tensor Analysys and Elementary Diffrential Geometory for Physicists and Engineers" Hung Nguyen-Schäfer, Jan Philip Schmidt 著 普通は序文の前に、両親とか家族へ捧げるという類いの文言が書いてあるのだが、この本は違った 日本語訳するならさしずめ 引用:
といったニュアンスだろうか。 この本はベクトルを伝統的な表記法ではなく、最初から最後までDirac の発案した Bra-Ket 記法を採用している点で独特である。 確かにその方が場所も取らずに実数から複素数、無限次元まで一般化できるので優れている。 大抵はこういうアイデアを思いつくのは最近では物理学者である。 それ以外にもほとんどのテンソルに関する基本的な概念が前半に登場し、蘊蓄抜きで数式と明快な図解が主で、英文が読めなくても数式と図だけでも理解が進む。 数学的な証明は省略されているが、結果はどれも正しいものばかりだから安心できる。 最近はこれを持ち歩いて今まで自分数学で再発見した知識を確認するのに読んでいる。自分数学では通り過ぎてしまった議論とかについても結果が示されているので、後で戻って自分で導出することを試してもよい。 一昨年に出版された新刊なので、印刷が綺麗で読みやすい。依然として添え字が小さいので老眼には良く判別が付かないことが多い。 特に i と jが判別し難いんだよね。 最近では更に視力が衰えて、添え字が付いているのかどうかも判別が怪しくなってきている。 かといってルーペを取り出すのは恥ずかしい。 これと同じ図は、先のFriedmannの著書で既に使われている。こうした点は伝統的に譲れない解説方法なのかもしれない。 |
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