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webadm
投稿日時: 2009-1-15 21:12
Webmaster
登録日: 2004-11-7
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投稿: 3093
解析学の古書2冊
電気回路解析には数学がツールとして使用される。

交流回路理論で既に複素数や複素指数関数にベクトル、行列や行列式がツールとして使われている。

学生の時には工学とは別に一般教養としてそれらの数学を教わったのだが用語を除いてはまったく忘却の彼方である事実は否めない。

これらは数学が工学的な問題とはまったく無縁のものとして教えられているので仕方がない。IQがかなり高い人でないかぎり、そうしたやり方で数学が身に付くということはあり得ない。

しかしひとたび実社会で技術者の卵として工学的な問題に直面するとその理解と解析、解決は定性的な視点だけでは何も始まらない。定量的かつ理論的な裏付けができないと確信のもてる答えはだせない。そこで助けになるのが数学である。

電気回路理論の後半では時間軸上の視点だけでなく、周波数軸上の視点で回路の性質を解析する必要が出てくる。それぞれ時間領域(Time Domain)、周波数領域(Frequency Domain)と呼ぶ。

どちらも直交座標上で連続的に変化する関数として扱うことができるので、それらの性質を知るための数学の領域である解析学がツールとして用いられる。

解析学の本は国内でもあまた沢山あるが、先輩諸氏が推奨する本に必ず出てくるのが岩波書店から現在も軽装版として増刷されている「解析概論」高木貞治著である。



オークションで古い正装版の改訂第三版を手にいれた。改訂の前書きによるとこの改訂を前にして著者が亡くなってしまい、編集者と出版社が生前に著者から依頼された改訂の趣旨に従って改訂し出版したとある。著者が改訂前に亡くなった本は他にもいくつかある。それらは著者略歴にxxxx年 逝去 と書いてあったりして唖然とする。

これとは別に偶然にももっと古い時代に英国のケンブリッジ大学出版部から大学での教科書として出版されていた「A COURSE OF MODERN ANALYSIS」Whittaker および Watson共著を手にいれた。初版が1903年で今も増刷されている物理数学のバイブル書的な存在らしい。



先の「解析概論」とも数の概念から入るのは解析学の本として共通であるが、それ以降の編成については大きく異なる特徴があることを発見した。おそらく解析学というのを体系的に説明する際の視点やとらえ方が両者でことなるためであることは容易に察しがつく。

Modern Analysisは目次を見ると数の概念と解析関数論の2部編成でシンプルに見える。微分、積分では線形微分方程式と積分方程式のみしか取り上げていない。しかしこれで十分だったりする。



しかしページ数をみると500ページを超える大書である。

一方解析概論の方は目次が数ページに渡り、総ページ数も500ページ近いが、カバーする範囲が数の概念と解析関数だけでに止まらず微分や積分に関してもカバーしているが、ひとつひとつは深入りせずに広く浅くという感じである。

工学に関係の深いフーリエ級数についてどのように扱われているか両者を比較してみるとそれが如実にわかる。



解析概論でのフーリエ級数の扱いは極めて美しく理論のみを紹介するに止まっている。数学的な美しさを重視し重箱の隅をつつくことは避けたというような趣旨が欄外に記されているので、あえて細々とした細論は省いたと思える。



一方Modern Analysisの方と言えば、びっしり数式の間が解説で埋め尽くされている。小さな字だが、フーリエーが最初にフーリエ級数を用いた経緯や、その後の他の数学者による理論的な発展の経緯が出典も含めて歴史的経緯を正確に伝えることを怠っていない。



解析概論では扱われていないが、フーリエ級数を説明する電気回路理論の本や信号処理では必ず出てくるギブス現象についてもModern Analysisではちゃんと触れている。フーリエ級数は不連続的な信号部分ではオーバーシュートやアンダーシュートなどの誤差が避けられない。これを最初に見いだしたのがギブスである。このことは短時間の範囲に区切って周波数解析して圧縮するオーディオ圧縮処理で、矩形区間で信号を区切ってしまうと両端で信号が不連続になりギブス現象が発生する問題がある。これを避けるために区間の両端で信号が不連続点が生じないような窓関数によるフィルタリングを行う必要がある。

Modern Analysisはヨーロッパで書かれた、ヨーロッパの数学史を伝えながら同時にそれらを体系的に整理して教える意図をもった書であると言える。実はこうした本が読みたかったのだ。

解析概論は、ヨーロッパの数学史などはどうでもよく、純粋に数学的な理論体系を東洋からの視点でゼロから整理しなおす試みで書かれたものだと私には見える。従って参考文献や出典は一切無く、読者は更に深く学ぼうとしてもそのヒントはまったく得られない。これはその後の日本の専門書に多くみられる参考文献や出典をまったく載せない事例のお手本のようである。

これなどは、ヨーロッパ人がよく口にする「我々ヨーロッパ人は皆昔からつながっているのよ」ということばに象徴される文化と伝統の血脈の最たるものである。

日本人はそういう意味では島国でヨーロッパとの血のつながりもなく孤立してきた。従ってヨーロッパに留学して伝統とのつながりを得た数少ない人以外はまったくつながりが無いのだから、経緯などは知るよしもなく、知識的な面を体系的に独自に再構築するしか道はなかったわけである。

そうした面ではヨーロッパの先駆者の名前を定理や理論に名前が残っていない限り取り上げないという日本人の姿勢ははなはだ恩知らずと言われてもしかたがない。なにせ今まで伝えてこなかったし、調べもしなかったわけだから。調べるすべもなかったとも言える。

そういう意味でちょっと日本人の書いた本だけを読むのは危険かと思い始めた次第である。

そもそも用語が日本の中でのみ通用するものでしか表していない時点で、ほとんど同様の内容を記した海外の書と読み比べることが困難である。なにせ用語の対応がまったく付かないからである。

どちらかというと私にはModern Analysisの方が素直にストレートに読み進むことができた。自分の知りたい順に書かれているという感じがする。特に難解だと言われる物理数学についても自然に入っていけるように感じられた。

それに対して解析概論は、純粋な数学的観点から、工学の問題を扱う上で必要な細論はすべて切り捨てられていて、工学的にはありがたみのない数学的に見事な細論だけ漏れなく網羅しているといった感じがする。数学者の卵には良いのかもしれないが、工学者にとっては時間の無駄のように思える。

有る意味日本の数学界はまだ鎖国を続けていると言ったほうが良いのかもしれない。

P.S

「解析学概論」に出典や参考文献が一切無いのはそれが理由かどうかは解らないが、大戦中の東京大空襲の戦火で図書館の蔵書が完全に失われてしまった大学とかでは出典目録を確認しようにも参考文献一覧を作成しようにも文献そのものが失われてしまっているので困難であったことは想像に難くない。戦後そうした大学では海外の大学の有志により複数所蔵してる貴重な蔵書の一冊を分けてもらうなどして図書館の蔵書を充実させていったのであるが、それでも失われてしまったものは大きい。なににもまして、出版物にそれらの出典が記載できないのだから、それを学ぶものも出典を知らずに誰かに教えなければならないという連鎖が今も続いている点は、戦争の残した大きな傷跡かもしれない。
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題名 投稿者 日時
 » 解析学の古書2冊 webadm 2009-1-15 21:12

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