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webadm
投稿日時: 2011-9-22 13:23
Webmaster
登録日: 2004-11-7
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投稿: 3082
過渡現象
上巻の交流回路理論からフィルタ理論までは主に周波数領域での回路解析が中心だったが、今度は一転して時間領域での回路解析に足を踏み入れることになる。

複素周波数が登場してからはインピーダンスの式にもっぱら複素周波数sをjωの代わりに用いてきたのは、前者の方が式を整理する際に他の係数や変数と同様に記号として扱うことができ、複素数としての例外を当面考えなくて済むという便利さがあった。

複素周波数はs=α+jωであり、実数部は時間領域での振幅の指数関数的変化を表し、虚数部は周波数軸上の座標を示すので、α=0とおけばs=jωとなり、周期をもった定常状態の繰り返し応答だけを扱うことになる。これは今まで扱ってきたやり方である。s=0(α=0かつω=0)は上巻で最初に学んだ直流解析となる。

今度からは繰り返し性のないα≠0(ω=0なら直流、ω≠0なら交流)の場合を扱うことになる。

いろいろな本を見比べると、大抵は上巻でインダクタンスとキャパシタンスが最初に登場した時のように数学の微分積分を使って回路方程式を表していたように、いきなり数学の微分積分の前提知識があることを前提としたスタイルになっている。実はこれがおそらくは若い学生にとって試練となるだろう。それが伝統的な教授法となっているような気がする。

歴史的には微分積分の概念が確立するのに非常に長い年月を要しているが、数学で微分積分を教えるときも、工学でそれを利用するときも、歴史的な順序に従ってではなく、いきなり結論から切り出すことが当たり前になっている。そうすることによって講義時間の大部分を微分積分の概念を理解するのに費やされることが避けられるからだ。それらの理解はもっぱら受講者に委ねられている。

手元のドイツの理論電気学の古本も最初の持ち主は日本人でこれで勉強しようと試みたようで、最初の部分には熱心に万年筆や赤鉛筆で細かな書き込みがしてある。もしかしてドイツの大学から持ち帰ったものかもしれない。しかし簡単な直流抵抗回路とキルヒホッフの法則の後にいきなり微分方程式がわんさか登場するあたりから書き込みがぱったり無くなって綺麗なページばかり続いている。持ち主はドイツ語には堪能だったらしいが、微積分の知識は皆無だったと見える。そのページで挫折したのは想像に難くない。

学生の分際であればそれに従うしかないのであるが、もはや学生ではないので、そうした流儀に従う必要はないと考える。自分の納得のゆくやり方で理解するのが一番である。

ということでまたしても卓袱台をひっくり返す形で始まるのであるが、過渡現象をどこから考え始めたらよいか自分が納得のゆくスタートポイントを見いだすことからはじまる。

率直に現状を告白すると、上巻でインダクタンスやキャパシタンスが登場したときのことをすっかり忘れてしまっている。当時は天下りに近いかたちで書き写すのが精一杯だったようだ。自分ではあんちょこを見ながらでないと誰かに説明できないのである。本当は何も見ず、何も手にもたずに、黒板にすらすらとことの始まりから説明できるのが理想だ。

一方で伝統的なスタイルに関しても目を通す必要がある。なにか抜け落ちていたりしないかどうかはチェックしたい。

下巻では著者は、Valkenburgのスタイルとよく似た章立てをしている。具体的には最初は一次の導関数を伴う線型微分方程式で扱える回路の過渡現象を解析する。次にちょっと面倒な二階以上の微分方程式を解くためにLaplace変換を導入する(昔はここで演算子法が導入されていたが、徐々にLaplace変換に置き換えられている)。

その後に、日本独特の分布定数回路の定常状態(周波数領域解析)と過渡現象(時間領域解析)が登場する。ものの本によっては、二端子対回路(伝送回路)をやったあとに分布定数回路が登場するものがある。その方がつながりとしてスムーズであるとも言える。ただし分布定数回路の過渡解析は難しいので一般の回路の過渡解析の後に成らざるを得ない。

数学の微分方程式がツールとして用いられるのだが、伝統的なスタイルでは数学が主で工学が後追いみたいな形に読めるのは否めない。そもそも数学での微分方程式の扱いも応用数学という意味合いが強く、解法も最終的な解が既知の初等関数のどれになるか推定する方法が堂々と使われていたりする。ちょっとがっかりする。これも結論が先にあって、辻褄合わせで埋めている感じが否めない。なぜそうするかと聞いても、「自然界には初等関数で表されるものが数多く存在するから」ということらしい。これは歴史的な過程はすっとばして結論だけを利用しているに過ぎない。

とは言え、微分方程式のことの始まりを歴史的にたどると大変時間を要するので考え物だ。多数の数学者が長い年月を経て関わっているからだ。それでもその追体験をする意味はあると確信している。

歴史をひもとけば、電気回路の解析に微分方程式が登場したのは電信と海底ケーブルの時代に、Thomsonが最初であろう。電信技師だったHeavisideはデンマークでの電信業務で長距離電信伝送の誰も説明できない信号現象を目の当たりにしてその謎に迫ろうとしていた。その後統一されていなかった電磁気理論を統一することに成功したMaxwellが「A Treatise on Electricity and Magnetism」を出版されている。Heavisideは16歳で学校を中退しただけの数学的な知識(代数と三角関数程度)でその難解な理論を独力で理解しようと決意した時代である。

Thomsonは世界で最初の海底ケーブルが使い物にならない理由として初めて後に学ぶことになる分布定数回路からインダクタンス成分を除いた伝送路モデルを以下の微分方程式として表した。

d^2v/d^2x=KCdv/dt

いきなり説明もなく∂とかが登場するのは伝統に従っている(´∀` )

xはケーブル端からの距離でtは時間である。この方程式を解くとケーブル端からの距離xの時間tにおける電圧vの式が得られる。Kはケーブルの単位長当たりの抵抗値。Cは単位長当たりの静電容量である。つまり海底ケーブルを微少なRとCの逆L字回路が無数にラダー接続されたフィルターとして回路モデル化したことを意味する。



これは数学上では二階偏微分方程式である。歴史的にはいきなり一番こんな難題が先だったわけである。

Thomsonはこの式が良く知られているものであるとだけ述べている。それはFourierの一次元の熱伝導方程式を海底ケーブル線路に適用したものであることは明らかである。

HeavisideはMaxwellの電磁気理論を研究する中で自身が経験した電信線路の非対称な信号挙動の謎をThomsonのモデルに更に誘導成分(単位長さ当たりのインダクタンスs)を追加することで今日知られる電信方程式の元とその画期的な解法(演算子法)を編み出した。

d^2v/d^2x=kcdv/dt+scd^2v/dt^2

これは更に面倒な偏微分方程式で、これを解くためにHeavisideは有名な演算子法も編み出した。かくしてこの時点で電気回路の過渡現象を解析するための手法がすでに確立したかに見えた。数学者が厳密性に関して批判するのとは裏腹に技術者は自らが抱えていた問題を解くのに演算子法を利用しない手はなかった。

Heavisideの演算子法がどんなものだったかは共立出版の「数学公式 改訂増補」にそのHeavisideオペレーターの応用例が多数載っている。それ以外は戦後すぐに出版された電気回路理論の本を見つけて読むしかない。ほとんど現在教えられているLaplace変換と一対一で対応するのに驚くかもしれない。

引用:

技術メモ:Heavisideの抵抗オペレーター

1887年の論文の書き出しで、Heavisideは抵抗オペレーターの定義を次のように与えている:"瞬時的なOhmの法則を単に数学的な観点から見ると、式V=RC [Cは19世紀における電流の記号であった]において抵抗を表す量Rは、電流が定常である時、電流Cを電圧Vに変換するオペレーターであると見ることができる。それ故、電流が変化する際には、Rの代わりに抵抗オペレーターで置き換えるのが相応しい。"
そこでHeavisideの行ったことを示す。3つの基本的な、個別の受動電気素子(抵抗、キャパシタ、インダクタ)に関して、電流を近代的な記号i(それにキャパシタにC)を使った場合を示す。



もしくは、Heavisideのp=d/dtオペレーターを用いて、



または、v/i=Zとして定義すると



Paul J. Nahin "Oliver Heaviside" より拙訳


共立の数学公式には近代的なLaplace変換と対比して紹介されている

引用:

3.ベクトルの複素数表示の利用とインピーダンス
3.1 外からの作業がQ=E0sinωtの場合
1. E0e^iωtとおいて二次元ベクトルの複素数表示を用いて、複素数の解を求めるとその虚数部分が求める解となる。
又はとおいて

2. 自由振動の部分を取り除いた特別解はe^iωtに比例する。e^iωtに比例する解に対してはd/dtはpを掛けること。∫dtは1/pを掛けることと同等で、解は


実数解は





4・2 Heavisideオペレーター

1.Laplace変換とHeavisideオペレーター

インピーダンスZ(p)の系について1(t)に対するA(t)は

(1)(pの実数部分が正の場合)なる積分方程式で与えられる。従って1/Z(p)がA(τ)のLaplace変換になっている。

(2)Bromwichの積分公式



以上の関係を1/Z(p)なる量が1(t)をA(t)に変換するオペレーターになっていると考え、次のように表しΩ(p)をHeavisideオペレーターという。

(3)


共立 数学公式改訂増販より


この本は戦後すぐ編纂されたものなので表記が今風になっておらずなんのことを言っているのか、当時の執筆者も専門外だから良く判っていないのかもしれない。電気では虚数単位としてjが使われるのが普通だがここでは数学でのiがそのまま使われている。1(t)はheavisideのstep関数で、t<0で0をt≧0で1をとる特殊な関数である。Ω(p)は今で言う伝達関数をLaplace変換したものに相当する。pをsに置き換えれば、今までよく登場した複素周波数を使用した交流回路の方程式、すなわちLaplace変換そのものである。ちなみにZ(p)のインピーダンスという用語を初めて用いたのもHeavisideである。

Laplace変換では入力関数1(t)もLaplace変換して出力関数のLaplace変換を得る点が異なるが、その他は同じである。

とどのつまり、過渡現象解析はHeavisideによって突破口が見いだされた微分方程式の解法に帰着することになる。

これ以上歴史を辿ると、Heavisideが独学で到達した長い道のりを追体験することになるので、それはちょっと酷すぎる。現時点で最初のThomsonの方程式を解く知識も有していない以上無理である。当時それが解けたのは一握りの応用数学者、それにThomsonやその終生の友人Storkes、そしてHeavisideぐらいである。

分定数回路理論でその解法を学ぶことになる。

当面はもっと単純な回路でその準備をすることにしよう。

P.S

若き日のHeavisideを魅了してやまなかったMaxwellの「A Treatise on Electricity and Magnetism」についても、別の機会に詳解電磁気学演習に取り組む際に研究することにしよう。今日電磁気学の本でMaxwellの方程式として紹介されているものは、すべからくMaxwellのオリジナルのものではなく、Heavisideがベクトルポテンシャル項を取り除いて簡潔で扱い易くしたものであることは良く知られている。Heaviside自身は晩年、自宅に籠もって再び難解なMaxwellのオリジナル方程式(ポテンシャル項を含む4元数表記)の解釈に取り組んでいたらしい。

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