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webadm
投稿日時: 2012-8-14 6:25
Webmaster
登録日: 2004-11-7
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投稿: 3080
Heavisideの演算子法メモ
過渡現象の演習問題の途中からHeavisideの演算子法を使った。独自の用法でもあるので、ここに注意点をメモの形でまとめておくことにしよう。

Heavisideの演算子法は元来分布定数回路の過渡解析に関する論文でHeaviside自身が多用していたものであるので、分布定数回路の過渡解析を学ぶ時に真価を発揮するものと思われるが、その利点は集中定数回路でも十分享受することが出来る。

最初に疑問に思われるのは、何故Heavisideの演算子法がかつて電気工学の分野で教えられ利用されていたのが、戦後に入ってLaplace変換に置き換わってしまったのかという点。

この疑問に関しては、以前紹介したPaul J. NahinによるHeavisideの伝記"OLIVER HEAVISIDE The Life, Work, and Times of an Electrical Genius of the Victorian Age" John Hopkins University Pressの序文で以下の様に述べられている。その内容を海鳴社の"オリヴァー。ヘヴィサイド ヴィクトリア朝における電気の天才---その時代と業績と生涯" ポール J. ナーイン 高野善永 訳から引用する。

引用:
私の知る限り学部生用の工学の教科書は、すべて線型常微分方程式を解くのにラプラス変換を用いている。標準的な電気工学のカリキュラムで、ラプラス変換を廃止してヘビィサイドの演算子法に戻す可能性はない。この決定には既に数十年の歴史がある。コーネル大学の数学の教授のラルフ・パーマー・アグニュー教授の名著「微分方程式」が1942年に発行されたとき、彼は古い方法とヘビィサイドの方法を併記していた。ラプラス変換はどこにも見られなかった。アグニューは当時ヘヴィサイドの方法に対して偏見をもっていなかった。しかし1960年の第2版ではラプラス変換とヘヴィサイドの方法を両方共便利だと紹介した上で、「ラプラス変換の方法の完勝である、この方がより面白く、基本的な例題を解くのが容易で、.......しかも応用が広い」と述べている。アグニューが40年前にそう書いてから異論を唱える人は一人もいない。


この点については認めざるを得ない。しかしLaplace変換はHeavisideの演算子法に比べるとストレートな解法ではないので、それが生まれた歴史的な経緯を知らない場合にはむしろ難解でさえある。

電気回路理論では他にも似たような事例がある、それは交流回路の定常解析に定番として用いられるベクトル記号法である。

交流回路の解析に複素数を用いる方法を定式化したのはSteinmetzの論文である。SteinmetzはHeavisideと同時代に生きたので、その論文をHeavisideは絶賛している。

二人が共鳴したのは何故なのだろう?

Steinmetzのベクトル記号法は、正弦波交流を実数領域の三角関数ではなく、複素領域の指数関数で表す方が簡単であるという発見に基づいている。

RLC直列回路にv(t)の正弦波交流電圧を加えた時に流れる電流の実効値をi(t)とすると以下の関係が成り立つ



ここでv(t)の実効値をVe、i(t)の実効値をIeとすると以下の関係が成り立つ



これを元の微分方程式に代入すると



ということになる。つまり最終的には正弦波の複素表現である指数関数は表に出てこなくなる。

あとは知っての通り、これを解くと



ということになる。過渡現象の演習問題でHeavisideの演算子法を使って解を求めた際にも似たような式の操作をしていたことを思い出す。なんらかの共通性がある。なんだろう?

Steinmetzは同時代のHeavisideの演算子法を知っていたのだろうか? 英国と米国の距離の隔たりはあるが、Heavisideの論文は一般紙の記事として出版されていたので入手できたかもしれない。あるいはまったく独自のものかもしれない。

ではHeavisideの演算子法で、同じ回路を解析してみよう。この場合には、Heavisideが省略していた暗黙の前提をSteinmetzの正弦波の指数関数表記と同様に明記していくことにしよう。

Heavisideの演算子法を使う場合には、微分方程式に現れる関数の定義区間をt≧0の象限に限定するために、微分方程式の式の両辺に単位ステップ関数を乗じるのである。



これはSteinmetzが指数関数を両辺に乗じた形になるようにしたのと似てないだろうか?

この前提で、Heavisideは以下の大胆な記号置換を行う



一般には微分と積分は非可換な操作であるが、定義区間[0,t]に限定すれば可換になる。

この前提によって微分方程式を以下の作用素方程式に書き換えることができるようになる。



これはちょうど作用素Fが関数iを関数vに対応づける写像であると見なすことができる。



もし仮に写像Fが一対一の写像であるとすれば、その逆写像Gも存在するはずである。



つまり



が成り立つ写像Gが唯一存在するはずである。

この予想をまじめに数学的に証明しようとすると、19世紀の数学では全然足らないので演算子研究の他書に譲ることにする。

現実に上記の写像は確かに存在するのだから存在すると見なして進めよう。この点が数学者からの批判を浴びた点ではある。19世紀既に微分方程式の中には解析的に解けないものが知られており、大問題になっていた(天文力学での三体問題とかは1例)。数学はこの障壁にぶつかって、それを回避すべく急速に抽象的な学問へと変貌していった。

Heavisideは作用素FをOhmの法則の抵抗になぞらえて抵抗演算子と呼んだ。それはあたかも抵抗値のように、両辺をそれで割ると逆作用素の方程式に成るのである。



これを先の微分方程式に適用すると



ということになる。しかしpを元の微分記号に戻しても解の姿も形も見えない。ここで普通は誰しも諦める。

しかしHeavisideは強引に



と言う具合におなじみの変換公式を導出してしまったのである。

おそらく結果は初等的な微分方程式の解法によって予め正しい解がわかっていたので、それと逆演算子のpに関する有理関数をどうやって対応づけるか苦労して見つけたに違いない。しかしそれは19世紀の数学者から見てナンセンスであったことは確かだ。

しかしこの結果を使って解を求めて見ると,v=Eと定数でステップ電圧入力を与えた場合には(定数以外の関数を与えた場合にはもっと面倒になるので)



という解を得ることになる。これは初等的微分方程式の解法で求めた結果と一致する。

つまり正しい結果が得られるのである。

そうするとHeavisideの演算子法は誤りであるとする予想と矛盾する。

この矛盾を当時の数学者は誰も答えを出すことが無かった。答えを出せば、Heavisideの方法を肯定したことになって喧嘩を売られた手前都合が悪い。

Heavisideの演算子法の研究は20世紀の研究者に委ねられたことになる。

同時代にBromwichがHeavisideと手紙を交わして、独自の複素積分による微分方程式の簡易な解法(後にLaplace変換と呼ばれる基礎)を研究した。その論文はHeavisideが生きている間に完成していたが、没後に発表された。

今日ならinternetで検索すればHevisideの論文がほとんどすべて収録された"Electrical Papers Vol II bye Oliver Heaviside"の原書を閲覧することが出来る。しかし、演算子法が十分な解説もなく縦横無尽に使用されている多くの論文はそれ故にがっかりするほど難解であり、今日価値のある内容が含まれているかどうか知ることは困難である。

Heaviside自身終生、判りやすい解説や論文を書こうとしなかった。そう懇願されても拒絶したのだから仕方がない。Heaviside自身も思わぬ災難を招いた演算子法も、電磁気理論をベクトル解析の記法で表す定式化を行った頃には既に使わなくなってしまっていた。

Heavisideの演算子法は分布定数回路の過渡解析に真価を発揮するので、後に学ぶ分布定数回路の過渡解析の際にも使ってみることにしよう。それによってより一層彼の功績をなぞることができるかもしれない。

P.S

演習問題のところで、演算子法を用いる際には単位ステップ関数が乗じられている前提の上で表記上は省略することが多かった。Heavisideの論文でもほとんど省略されている。それに対してその後出版されている演算子法に関して述べている本では1という形で単位ステップ関数が必ず明記されている。しかしこれが式を難解にしているの自分で書く際には省略している。

元来演算子法では初期条件を与えることが出来るのはt=0の時でしかない。この時に作用素方程式が同次形となると演算子法では解けないので、積分するなり変数変換するなりして、何らかの不変量をt=0で与える非同次方程式に仕立てる必要がある。これらの具体例は演習問題の中で何度か出てきたので、興味がある読者はそちらを参照されたい。

逆演算子が部分分数に分解できる場合には展開定理が便利だが、展開定理は分母のpの多項式が重根を持つ場合にはそのままでは適用できない。更に部分分数に分解するか、諦めてたたみ込み積分に帰着して解を得るしかない。これもいくつか具体例が演習問題の解答として書いた。
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題名 投稿者 日時
 » Heavisideの演算子法メモ webadm 2012-8-14 6:25

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