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webadm | 投稿日時: 2009-10-16 1:11 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3088 |
正実関数(Positive Real Function) 正実関数(Positive Real Function)の定義は
(1)Z(s)はsの実有理関数である (2)Re s≧0なる範囲でRe Z(s) ≧0である Z(s)が正実関数であるための必要条件は (1)Z(s)は右半平面で正則である (2)虚軸上でRe Z(s)≧0である (3)虚軸上の零点は1位で、その微係数は正である、もしくは (4)虚軸上の極は1位で、その留数は正の実数である と表される。 いったいなんのことを言っているのかさっぱりわからないので、複素解析のおさらいからやる必要がありそうだ。 とりあえず複素数と複素平面については知っているとして複素関数とは何かから 左の複素平面(z-plane)上の複素数zを変数とするf(z)があるとき、その値もまた複素平面(w-plane)上の複素数wをとるとき、f(z)は複素関数であると定義する。なんだ当たり前じゃないか。とりあえず複素数を与えると結果も複素数になるという関数だけを考えればよいというだけである。 これをインピーダンス関数を複素関数とした場合のケースに置き換えてみると sが変化するとそれに応じてインピーダンスの実数部(実効抵抗値:R)と虚数部(実効リアクタンス値:X)が決まり、Z平面上の一点に写像される。 現実に構成可能な回路はR(σ,ω)は常に正の実数となるZ平面上の右半分に限定される。 インピーダンス関数Z(s)が正則であるためには、以下のCauchy-Riemann方程式を満足する必要がある。 といっても偏微分方程式はテキストでは書きようがないのう。 こまった数式画像生成CGIを導入するしかないか。 できた。 しかしこれも何のことやらさっぱり。 そもそも正則ってなんだ? 調べてみると正則(regular)もしくは解析的(analytic)というのはCauchyの定義によると uをz=x+iyの関数とすると、zとz+δzはz平面の2つの点でuとu+δuをそれに対する関数値とする。z平面内の任意の点zに対してδu/δzがδxとδyをそれぞれ0に限りなく近づけた場合(δz=δx+iδy)に極限値を持つならば関数は正則(解析的)であるという。関数がある領域内の任意の点で正則ならばその関数はその領域内で正則であるという。 ううむ、これは微分が存在するという意味なのかな。なんとなくわかるけど。 それとCauchy-Riemann方程式がどういう関係があるのかというのもさっぱりわからない。ここでしばらく凍り付く(;´Д`) リーマン論文集の最初に後生がCauchy-Riemannの関係式(略してC-R関係式あるいは方程式とか偏微分方程式とかいろいろな名前で登場する)と呼ぶことになる記述が登場する学位論文がある。 それによるとこうである wがzの関数であるとき とすれば無限小の差があるz平面上の2点 とそれに対応するw平面上の2点を とするとその微分係数は ということになり、これがdx,dyの変位の仕方に関わりなく微係数が常に同一値に収束するためには分子の式で でなければならず、それには実数部と虚数部がそれぞれ等しくなる が唯一wがzの(正則)関数である必要十分条件であるとしている。 この前の式までの過程を理解していないと最後の式だけ示されても意味がさっぱりわからないのである。Riemannの論文ではdw/dzからいっきに飛んで核心的な部分だけを説明しているので、その導出方法は読み手に委ねられている。Riemannは天才で、度々こうした飛躍がみられ常人はそこで思考がついていけず止まってしまう傾向があり、以来飛躍的なアイデアは人前では控えめな表現に止めるようになったらしい。Riemannの論文では単にwがzの関数である必要十分条件であるとだけしか言っていないので当時まったく話題にもならなかったのだが、後生の時代になってこれが複素関数が正則である必定十分条件であることが再認識され今日に至る。 調べてみると結構多くの本で最後のC-R関係式だけ示して終わっているものが多い。これだけですべて理解できたらRiemannと同じ天才に違いない。IQの低い者にとっては地道に積み重ねてやっとたどり着けるありさま。解析学の丁寧な本ではそれぞれの著者の解釈によって関係式にたどり着く過程が示されている。まあ、それを見ずしてもRiemannの論文を見ればわかるのではあるが。現在はインターネット上でドイツ語原文から書き起こしたPDFドキュメントが公開されているので一読されると良いだろう。 で話はまだ終わっていない。 (3)虚軸上の零点は1位で、その微係数は正である、もしくは (4)虚軸上の極は1位で、その留数は正の実数である これの意味するところが何なのかさっぱりわからない。微係数はわかっているが、留数ってなんだっけ? 零点と極の位数が1なのは有理関数の分子と分母の次数の差が1以内ということから明らかではあるが。 学生時代に確か留数定理の講義を受けた記憶は確かにあるが、何に使うのかは知らずに複素平面になんか○だか×だかのある図以外はすっかり忘れてしまった。 まず虚軸上ということは、等価抵抗は0ということになりかつs=±jωでリアクタンスからのみなる回路ということになる。 Z(jω)=jX(jω) これが0になるωが零点だが、キャパシタンスの場合ω=±∞、インダクタンスの場合ω=0が該当する。 いずれにせ常にωが正に増加するとリアクタンスも正に増加するので dX/dω > 0 ということになる。従って虚軸上に零点を持つ場合、その微係数は正の値を持つと言える。 一方、虚軸上で極を持つとはどういうことか? Z(jω)=±j∞ となるωを意味し。これはキャパシタンスが直列に接続された回路でω=0の時、インダクタンスが直列に接続された回路でω=±∞の時それぞれインピーダンスが無限大をとるのに該当する。当然それらの極においてはインピーダンス関数Zの微係数は定まらないので正則ではない(irregular)。 では虚軸上に極を持つ場合留数が正の実数であるとはどういう意味か? 留数(Residues)の定義は手元の"A COURSE OF MODERN ANALYSIS" E.T WHITTAKER, G.N WATSON著の"6.1 Residues"で解説されている 関数f(z)がz=aに次数mの極をもつ場合、以下の式で表される。 ここではz=aとその近傍で正則である。 係数が極aに関する関数f(z)の留数と呼ぶというもの。 これも天下り的でなんのことやら。 この分だと二三日は十分寝込みそう(;´Д`) この辺の理屈は数学の複素解析では円環状にいくつもの定理がつながっていて、ひとつの定理は別の定理を前提にしていて、ちょうど一匹の蛇が別の蛇の尻尾を噛んでいて、それを調べようとするとまた別の定理では他の定理の尻尾を噛んでいるのに気づいて、ぐるっと調べていくと最初に調べた定理の尻尾を噛んでいたのが最後に行き着いた定理だったという堂々巡りに行き着く。それでやっと全体の辻褄があっているということに気づくことになる。これは珍しく数学では多くの定理が皆どっかでつながっていて調和を成しているという点で複素解析は美しいとされているらしい。まあ数学は蟻の巣穴みたいなもので、好き勝手に掘り進んでいったら反対側からも掘り進んでいたのとはち合わせして互いがつながりあったというのはよくある話。円環状につながってしまった後で見てもどこが発端かなんかはもう誰にもわからない。 これとはまったく別途に電気工学の世界では、ちょうど第二次世界大戦前に真空管が発明され、抵抗とコンデンサとコイルを組み合わせて目的の用途と特性を備えた増幅器やフィルターをどうやって設計するかという問題に数多くの先端技術者や研究者が挑んでいた。 中でも信号伝送やアナログ信号処理(アナログコンピューター)の研究の最先端を行っていた米国には世界中から優秀な技術者や研究者が集まっていた。それまで伝送回路やフィルターを数式でモデル化し解析する理論はあったが、意図した特性の回路を合成する理論は無く、試行錯誤と経験が頼りだったが、この頃回路網合成理論がめざましい発展をとげた。ほとんどの基本概念は戦前に米国に招かれていたドイツ人のWilhelm Cauerによって米国人の先駆者Fosterのリアクタンス関数理論に触発されて独自に発展させたものだった、後にMITで彼の下で博士号を得た米国系ドイツ人Otto Bruneによって正実関数の必要十分条件や回路網合成理論が現在教えられている形に整理された。Cauer自身は第二次世界大戦が始まるとドイツに帰国し、その家族はベルリンを離れ疎開したものの、彼自身は助言に逆らってソ連軍によって陥落する直前のベルリンに戻り、終戦後に隣家の庭で無惨にも処刑された遺体として発見された。当時出版を予定していた本の第二巻の原稿は戦火で失われたが、遺族らがその後遺稿を整理して出版しその偉業が世に知られるに至った。こうした戦争で翻弄された偉大な研究者の生涯を知ると涙無くしては語れない。詳しいことはPrinceton大学が公開している以下の資料を参照されたい。 Life and Work of Wilhelm Cauer (1900 – 1945) 話を正実関数に戻すと 先の留数の定義の式はLaurent定理のz=aの近傍に関するf(z)のLaurent級数展開 で最後の項はz=aを含めその近傍で正則なので と置き換えたものである ということだった。 ここで閉路Cとそれを含む領域D内にある孤立特異点z=a1,...,anを除いて正則な関数f(z)の積分は各孤立特異点を中心としてそれを取り囲む円をα、β、γ,...とすると で決まるという留数定理というのがつながってくる。ここでΣResは孤立特異点に関する留数の総和である。 ここで先のLaurent展開式の積分を考える。積分経路を中心点をaとしφ(z)がその内部で正則である半径ρの円とすると CAUTHYの積分定理により正則な関数φ(z)の積分項は となる。 またn=1以外ではと置き換えることにより ということになる。 n=1の場合だけが となるので ということになり留数は ということに帰着する。 インピーダンス関数を部分分数に展開できれば留数が正の実数であるかどうかで正実関数(受動素子のみで合成可能)であるかどうかが判断できることになる。 たとえば が正実関数がどうかは、展開してみればわかるので と展開できるとするとヘビサイドの展開定理を使ってs(s-3)を両辺に乗じると s=0を代入すると k1=-1/3 s=3を代入すると k2=7/3 従ってk1<0なので極の次数は1次だが留数が正ではないものがあるためこれは正実関数ではないということになる。あと最初から極がS平面の右側にあるという点ですでに正実関数ではないのだが。正実関数は虚軸上にしか孤立特異点をもたない。 こやって実際のインピーダンス関数の式を展開していくと実際の素子に対応する項(抵抗、インダクタンス、キャパシタンス)に分解されるが、それぞれの係数が正の実数であればそれぞれ受動素子の定数となるため現実の回路が合成できることを確かめることができる。これらはいくつか演習を繰り返すことによって実感がつかめることになる。 P.S 戦後になって回路網理論は大阪大学名誉教授 尾崎 弘氏によって能動素子(負性抵抗素子)や理想変成器(負のインピーダンスやキャパシタンスを持つジャイレーター)、集中定数回路や分布定数回路を混在したものを扱えるように多変数複素関数に拡張されたが唯でさえ複素周波数変数を使用した回路網理論は難しいのでほとんど学校では時間を割いてまで教えられていない。手元に尾崎氏の著者「大学課程 電気回路(2)第3版」がある。最新の改版で再び複素周波数変数を使用した回路網理論の章が多くの希望で復活したといういきさつが改版の前書きに書かれている。おそらく一端割愛した理由は昨今の計算機の能力の飛躍的な向上とアナログ回路素子メーカーがフィルター設計ソフトを無償提供しているため理論を知らなくても任意のフィルターが設計できてしまうという時代変化があるのではないだろうか。これは進歩なのか退化なのか。 といっても本書が扱う基礎的な複素周波数変数を使った回路網理論ではあくまで受動素子(抵抗、インダクタンス、キャパシタンス)のみで構成される回路のみを扱うため、負性抵抗や負性インダクタンスやキャパシタンスを構成する能動素子は含まれず、集中定数回路に範囲が制約されるのはいたし方がない。更に拡張された回路網理論を知るにはaffine換群や複素多様体、リーマン面、多変数複素関数論とかを知っている必要があるそうだ。 P.S 留数定理に関する内容をWikipediaのものから、手元の"A COURSE OF MODERN ANALYSIS"にあるものをベースに書き換えた。Wikipediaにある内容も式の表記を除いて基本的には同書をバイブルしたものであると思われる。 ヘビサイドと同時代の数学者でヘビサイドの奇妙な演算子法に興味を示し、その奥義を直接手紙で教えてもらい、後にラプラス変換と呼ばれる演算子法にとって代わって教えられるようになった複素積分の応用を研究していたケンブリッジ大学のBromwichは演算子法に関する疑問に応えてもらう代わりに留数定理をヘビサイドに教えようとしたが徒労に終わったらしい(´∀` ) Bromwichはラプラス逆変換も複素積分(Bromwich積分)で表したが、今日ですらそれを使う人なんていない。みんな演算子法と同じように部分分数に展開して変換対の表から逆変換結果を得ている。Bromwichには黒歴史があり、ヘビサイドから懇切に教えてもらった手紙は一切残されていないが、Bromwichからヘビサイドに送った手紙が残っており、ヘビサイドの返事は常に迅速かつ量的にも多かったらしいことがうかがわれるとか。当時演算子法は批判の矢面にたっていただけに、興味を示してくれる数学者には懇意にすべてを伝えようとしたのかもしれない。 |
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