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投稿者 スレッド
webadm
投稿日時: 2011-7-25 5:11
Webmaster
登録日: 2004-11-7
居住地:
投稿: 3089
定K型低域フィルタの設計
次の問題は定K型低域フィルタの設計問題。

公称インピーダンスR=600[Ω]、遮断周波数f1=10[kHz]の定K形低域フィルタを作り、その減衰特性、位相特性を図示せよ。

というもの。著者はフィルタの章の内容および演習問題の出典を明記していないが、たままた手元にある1970年代の古い「電気回路論演習」松元 崇著 学献社の記述内容を更にコンサイスにまとめ、誘導m形の記述を同様に加筆したたものであることが伺われる。その証拠に例題として本問題とほぼ同じ題意と解答内容の例題が載っている。いずれにせよ定K形フィルタを本来の半回路である逆L字回路しか扱わないという制約が以降の日本のフィルタ設計者の知識体系に大きな構造的な歪みをもたらしているのは否めない。定K形フィルタ=逆L字回路という図式が学生の頃に刷り込まれてしまっているのである。学生は図書館で古い原典に触れない限り先人の優れた遺産を知らずに社会へ出てしまうことになる。

いずれにせよすべての大学で教えるということは不可能なので、何を優先すべきかということで、定K形フィルタの背後にある考えはさておき形骸的な知識(教養)のみを優先したというのが本当だろう。それが自分では何一つ考えない自称技術者を大量生産する結果をもたらしたのは想像に難くない。

なんの話だったっけ。ああ、定K形低域フィルタの設計問題ね。

このような理由から、逆L字回路しか教えられていない学生にそれ以上を知識や研究を必要とする問題を出すことは許されないので、当然ながら定K形フィルタ=逆L字形という制約の中で問題を考えることを余技なくされる。それがアマチュア技術者にとってフィルタ=定K形もしくは誘導m型=逆L字形回路という狭い見識しか与えない結果になっていることも否めない。本当は違うのだよと、注釈欄に対称T字形回路や対称π形回路をちょっと載せているのは著者の良心の現れであると勝手に解釈しよう。

こちらは著者の日本の伝統的なテキストは一切見ずにValkenburgの著書から学ぶというやり方をとったので定K形や誘導m形フィルタは基本は対称T字形や対称π形がプロトタイプで、外部(定抵抗終端)とインピーダンス整合を良くする目的で誘導m形の半回路を両端に使用するということを学んできた。確かにそこまで学ぶのに大変な期間を要したので、それを今の大学の制限された講義時間で教えるのは不可能であるのも理解している。計算機が無かった時代の数式をベースにした解析的アプローチもコンピューターと高度なソフトが使える時代では教えるのは大変だ。教わるほうも大変な抵抗がある。それが基礎力(minimum)だと言ってもなかなか若い時にはわからない。講師だって安い給料でそれ以上の努力は無駄であるとわかっているから何もできない。それだから講師への報酬は生かさず殺さず雀の涙ほどに低く押さえざるを得ないのが現状である。

なんの話だっけ。ああ、問題を解かないとね。


著者は定K形フィルタの理論で導出した公式を使って素子定数を割り出すアプローチをとっている。それは伝統的ではあるが、そもそも古典フィルタ理論以降では公式というのは意味をもたなくなるばかりか存在すらしなくなる。そこで、古典フィルタ理論以降も有効は方法でアプローチしてみることにしよう。

まずは最終的なフィルタが定K形低域通過フィルタの半回路で構成するとすれば、以下の様な回路になる



定K形低域通過フィルタの条件は

\begin{eqnarray}<br />\frac{Z_1}{2}2 Z_2&=&Z_1 Z_2=\frac{L}{C}=R^2\\<br />Z_1&=&L s\\<br />Z_2&=&\frac{1}{C s}<br />\end{eqnarray}

だったことだけは思い出そう。

この制約によって公称インピーダンスRとZ1,Z2の関係が定まる。しかしこれだけでは特定のRを持つLとCの組み合わせは無限に存在するので、もうひとつの遮断周波数によってLとCの条件を絞り込む必要がある。

定K形フィルタは影像インピーダンスが通過域では実数を減衰域では純虚数をとる性質を利用している。従ってその変化点を影像インピーダンスから見つけ出す必要がある。

影像インピーダンスは非対称回路の場合、回路の伝送行列から以下のように求められる

\begin{eqnarray}<br />F&=&\begin{bmatrix}1 & \frac{Z_1}{2}\cr 0 & 1\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1 & 0\cr \frac{1}{2 Z_2} & 1\end{bmatrix}\\<br />&=&\begin{bmatrix}\frac{Z_1}{4\,Z_2}+1 & \frac{Z_1}{2}\cr \frac{1}{2\,Z_2} & 1\end{bmatrix}\\<br />Z_{i1}&=&\sqrt{\frac{A B}{C D}}=\sqrt{\frac{\left(\frac{Z_1}{4\,Z_2}+1\right)\left(\frac{Z_1}{2}\right)}{\left(\frac{1}{2\,Z_2}\right)}}=\sqrt{Z_1\,\left( \frac{Z_1}{4\,Z_2}+1\right) \,Z_2}=\sqrt{\frac{Z_1^2}{4}+Z_1 Z_2}\\<br />&=&R\sqrt{\frac{Z_1}{4 Z_2}+1}\\<br />Z_{i2}&=&\sqrt{\frac{D B}{C A}}=\sqrt{\frac{\frac{Z_1}{2}}{\left(\frac{1}{2\,Z_2}\right)\left(\frac{Z_1}{4\,Z_2}+1\right)}}=\sqrt{\frac{\frac{Z_1}{2}}{\frac{Z_1}{8\,Z_2^2}+\frac{1}{2\,Z_2}}}=\sqrt{\frac{Z_1 Z_2}{\frac{Z_1}{4\,Z_2}+1}}\\<br />&=&\frac{R}{\sqrt{\frac{Z_1}{4\,Z_2}+1}}<br />\end{eqnarray}

Z1=L*s,Z2=1/(C*s)をそれぞれ代入すると影像インピーダンスは

\begin{eqnarray}<br />Z_{i1}&=&R\sqrt{\frac{L s}{4 \frac{1}{C s}}+1}=R\sqrt{\frac{L C s^2}{4}+1}\\<br />Z_{i2}&=&\frac{R}{\sqrt{\frac{L s}{4\,\frac{1}{C s}}+1}}=\frac{R}{\sqrt{\frac{L C s^2}{4}+1}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。従って定常状態ではs=jωと置くことによって

\begin{eqnarray}<br />Z_{i1}&=&R\sqrt{1-\frac{L C \omega^2}{4}}=R\sqrt{\frac{L C}{4}\left(\frac{4}{L C}-\omega^2\right)}\\<br />Z_{i2}&=&\frac{R}{\sqrt{1-\frac{L C \omega^2}{4}}}=\frac{R}{\sqrt{\frac{L C}{4}\left(\frac{4}{L C}-\omega^2\right)}}<br />\end{eqnarray}

従って影像インピーダンスが実数と純虚数の境界点となるωが遮断周波数ω0であるので

\begin{eqnarray}<br />\frac{4}{L C}-{\omega}^2&=&0\\<br />\omega&=&\pm\frac{2}{\sqrt{L C}}=\omega_0<br />\end{eqnarary}

ということになる。題意では角周波数(rad)ではなくkHzであるので遮断周波数f0は

\begin{eqnarray}<br />f_0&=&\frac{\omega_0}{2\pi}=\frac{1}{\pi\sqrt{L C}}<br />\end{eqnarray}

ということになる。

従って、題意の仕様から

\begin{eqnarray}<br />\frac{L}{C}&=&R^2=600^2\\<br />10000&=&\frac{1}{\pi\sqrt{L C}}<br />\end{eqnarray}

これをLとCに関する連立方程式として解くと

\begin{eqnarray}<br />L&=&\frac{3}{50\,\pi }=0.0191=19.1[mH]\\<br />C&=&\frac{1}{6000000\,\pi }=5.31\cdot 10^{-8}=0.0531[\mu F]<br />\end{eqnarray}

ということになる。

さて難しいのはここからだ、周波数特性をプロットしなければならない。

回路の伝送行列から伝達定数θは

\begin{eqnarray}<br />e^{\theta}&=&\sqrt{A D}+\sqrt{B C}=\sqrt{\frac{Z_1}{4\,Z_2}+1}+\sqrt{\frac{Z_1}{2}\left(\frac{1}{2\,Z_2}\right)}=\sqrt{\frac{L s}{4\frac{1}{C s}}+1}+\sqrt{\frac{L s}{4\frac{1}{C s}}}\\<br />&=&\sqrt{\frac{L C s^2}{4}+1}+\sqrt{\frac{L C s^2}{4}}\\<br />&=&\sqrt{1-\frac{\omega^2}{\omega_0^2}}+j\frac{\omega}{\omega_0}\\<br />e^{-\theta}&=&\frac{1}{\sqrt{1-\frac{\omega^2}{\omega_0^2}}+j\frac{\omega}{\omega_0}}=\sqrt{1-\frac{\omega^2}{\omega_0^2}}-j\frac{\omega}{\omega_0}\\<br />cosh\theta&=&\frac{e^{\theta}+e^{-\theta}}{2}=\sqrt{1-\frac{\omega^2}{\omega_0^2}}\,\,\left(\omega\le\omega_0\right)\\<br />&=&j\sqrt{\frac{\omega^2}{\omega_0^2}-1}\,\,\left(\omega\ge\omega_0\right)\\<br />\sinh\theta&=&\frac{e^{\theta}-e^{-\theta}}{2}=j\frac{\omega}{\omega_0}\\<br />\theta&=&ln\left(\sqrt{A D}+\sqrt{B C}\right)=ln\left(\sqrt{1-\frac{\omega^2}{\omega_0^2}}+j\frac{\omega}{\omega_0}\right)\\<br />&=&\frac{ln\left(1\right)}{2}+j\,tan^{-1}\frac{\frac{\omega}{\omega_0}}{\sqrt{1-\frac{\omega^2}{\omega_0^2}}}\,\,\left(\omega\le\omega_0\right)\\<br />&=&ln\left(\sqrt{\frac{\omega^2}{\omega_0^2}-1}+\frac{\omega}{\omega_0}\right)+j\,tan^{-1}\infty\,\,\left(\omega\ge\omega_0\right)<br />\end{eqnarray}

従って周波数特性は2つの解の集合からなり

\begin{eqnarray}<br />\alpha&=&0,\,\,\beta=tan^{-1}\frac{\frac{\omega}{\omega_0}}{\sqrt{1-\frac{\omega^2}{\omega_0^2}}}\,\,\left(\omega\le\omega_0\right)\\<br />\alpha&=&ln\left(\sqrt{\frac{\omega^2}{\omega_0^2}-1}+\frac{\omega}{\omega_0}\right),\,\,\beta=tan^{-1}\infty=\frac{\pi}{2}\,\,\left(\omega\ge\omega_0\right)<br />\end{eqnarray}

ということになる。

これをプロットすると



ということになる。

定K形フィルタの条件と二端子対回路で学んだ影像パラメータ、それに複素双曲線関数及び逆関数、複素対数関数のことを忘れてなければスクラッチから解析はできることを確認できた。

本当は正規化回路(L=1,C=1,R=1を定数として持つプロトタイプ)の周波数特性から周波数変換やインピーダンススケーリングを行うことで要求される公称インピーダンスと遮断周波数を持つフィルタが設計できることを示したかったがそれは読者の課題としよう( ´∀`)

(2011/9/4)
2つの区間が解析接続されるように遮断周波数で区間がオーバーラップするように訂正。
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