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webadm | 投稿日時: 2012-9-16 18:59 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3088 |
概要 分布定数回路を何故学ぶ必要があるのか、今まで学んできた集中定数回路では何故駄目なのかについては、ほとんどのテキストでは説明されていない。
歴史的には海底ケーブルのように長大な長さの伝送路の片方に電信信号を入力するともう片方にそれが届くのに時間を要するということが問題となった。 誰もまだその理由を答えられない中、問題解明のために有名な科学者が招集された。その中でWillam Thomsonが海底ケーブルの数理モデルを考案し驚愕の事実を明らかにした。 それは信号の遅れが距離の二乗に比例して大きくなるという結論だった。 Thomsonのモデルは実際の海底ケーブルと等価ではなかったが、分布定数という概念を電気理論の世界に持ち込んだアイデアとしては先駆的なものである。 今となってはこれは集中定数という考えかたからいかにして分布定数へ拡張するかという良い演習問題である。 海底ケーブルの場合、地上の電信網と伝送路の形に大きな違いがある。地上の電信網は今でも見られる送電線のように、有る程度行きと帰りの線路の間の距離が十分離れている。それに対して海底ケーブルでは、敷設の費用を半減するために、行きと帰りの線路が一体となった今で言う同軸ケーブル一本の形をしていた。 中心の芯線の束を天然ゴムでできた絶縁体が円筒上に囲み外周を内部にある構造を守るように鋼線の被服でがっしり覆われいた。丁度今の同軸ケーブルと同様である。 Thomsonは海底ケーブルを断面から見ると、芯線と被服鋼線の円周との間に高い静電容量が存在することに着目した。 この断面の静電容量を計算する問題は電磁気学の初歩の代表的な円周問題である。ケーブルの芯線と被服線の間に直流電圧を印可すると、芯線と被服線の間にあるゴムの絶縁体(誘電体)が分極することによって電荷が蓄えられる。 さて海底ケーブルの断面の静電容量はどうしてもとめたらよいものか。ここに平板の間の静電容量を定義した式がある。 ここでCは静電容量[F]、εは誘電率[F/m]、Aは平板の面積[m^2]、それにdは平板の間隔[m]である。 これからどうやって円周状の静電容量を導いたらいいのだろう。 詳しくはいずれ取り組む電磁気学理論おもちゃ箱に譲るとして、ここではHolbrookの「エレクトロニクスエンジニアのためのラプラス変換」宮脇一男訳 朝倉書店に提示されている目の覚めるような導出方法を紹介しよう。 電磁気学は座標系によらず成り立つので先の同軸ケーブルの断面を複素平面上に描きなおすと ということになる。 さてこれだけでは問題は何も変わらない。外周と内周とで円周の長さが違うからどうすんだこれということになる。 そこで、2つの円周の式を対数変換すると、それぞれの円周は別の複素平面へ写ることになる θは[0,2π]の定義区間を持つことから、長さ2πで間隔がln(b)-ln(a)の二本の並行導体に写されたということになる。この並行導体と最初の同軸の断面は同相である。 従ってこれは平板の静電容量の公式が使えることになる。単位長さ1m当たりの海底ケーブルの静電容量は ということになる。 このようにして静電容量を計算したところ、地上に敷設してある電信網の信号線間の静電容量に比べて海底ケーブルのそれは著しく大きいことが明らかになった。 あとはどうしてそんなに信号が遅れるのかが謎である。静電容量が大きいことが鍵となっていることに着目し、ThomsonはFourierの熱伝導方程式モデルを海底ケーブルの信号伝達にそのまま応用するアイデアを思いついた。ここからがようやく分布定数回路理論のはじまりである。 熱伝導現象の記述には2変数の未知関数の微分方程式が必要になる。今まで学んできたのは全て一変数の未知関数に関する方程式なのでそれは使えない。ここが重要だ。 2変数の未知関数の微分方程式は未知関数の2つの変数の片方を定数とみなして1変数で微分(偏微分という)した2つの偏導関数を含むことになる。こうした偏微分方程式は19世紀にすでに研究されていたが、解が必ずしも存在するのかどうかが判っておらず、具体的に解けない問題もあって数学者を大いに悩ませていた。それによってこれらの問題は応用数学の分野として分離され、純粋数学では具体的に扱わなくなったかわりに、個別の問題に特化しないで大局的かつ普遍的な性質だけを明らかにする抽象的な学問へと急速に偏向していった。多変数の未知関数の問題は有る意味数学を現在の抽象的な学問へと導いたきっかけとも言える。 さて偏微分方程式が解けないものばかりかというとそうではなく、解けるものも存在する。熱伝導や波動問題はそれに含まれる。ある条件を満たす場合には、常微分方程式で学んだ手法を使って解析的に解けることが判っている。 学生時代に物理学の講義で波動方程式の解き方を教わったときに、まったく意味がわからなかったのは、波動が位置と時間の2変数の未知関数であるということを判っていなかったためだと今更気づく。されを最初に言っておかないと、以降の議論はまったくちんぷんかんぷんになってしまう恐れがある。 最近の微分方程式のテキストでは応用数学として分離された偏微分方程式は扱っていない。まだ偏微分方程式が純粋数学の問題だった頃の古い時代にかかれた解析学のテキストには最後の方に載っていることがある。 手元のWhittaker & Watson「A COURSE OF MODERN ANALYSIS 4th edition」Cambridge university pressにも後半に"The Equations of Mathematical Physics"という節があり、そこで偏微分方程式が出てくる。この部分の執筆時点ですでに偏微分方程式は解析学の範疇ではなくなっているが、良く知られている特殊な関数がすべからく物理学の問題と密接に関係して発見されたものなので、使うためには偏微分方程式についても触れておかないといけないという意味づけのようだ。その中にはHeavisideがインダクタンス成分を加えて拡張した電信方程式(The equation of telegraphy)もしっかり入っている。このためこの本は古いがかなり使えるテキストであると言える。 寺沢寛一「自然科学者のための数学概論[増補版]」岩波書店にも偏微分方程式が入っている。最初は一般論が長々とあるが、その後で様々な有名な偏微分方程式の解法が出てくる。その中にFourierの熱伝導方程式もある。 上に上げたどちらのテキストも、その方程式がどのように導出されたかについては触れておらず、その解法だけに的を絞っている。数学的にはそれで十分かもしれないが、工学的には方程式をたてることができないと使い物にならない。 そこでFourierの熱伝導方程式、それをそっくりまねたThomsonの海底ケーブルのモデルがどのように導出されたかを考えてみる必要がある。 均質な熱伝導体の棒に初期状態で位置による関数f(x)によって決まる温度分布が与えられた場合を考える。 初期条件で与えられた温度分布によって、熱は温度の低い方へ移動し、その熱流量Qは温度勾配に比例する(Fourierの法則) 一方で、熱の移動による時間的な温度変化は、cを比熱、ρを熱伝導率とすると ということになる。Qは先のFourierの定理によって与えられた関係を代入すると となり。Cは熱拡散率、温度拡散率もしくは温度伝導率と呼ばれる定数である。 これは一次元の熱伝導方程式である。 Thomsonは蓄積されつつも次第に移動していく熱量と海底ケーブルの絶縁体に蓄積され次第に放出されていく電荷量が同じだといくことに気づき、それを海底ケーブルの解析モデルに使えないかどうか試してみた。Stokesにも相談してそれぞれ独自に解が得られることを確認して論文が完成した。 それではThomosnの海底ケーブルの伝送モデルを考えてみよう。Thomsonは学生の時にFourierの書籍に出会い、後に熱力学の重鎮になったぐらなので、Fourierの業績は研究しつくしていた。そこで海底ケーブルの問題と出会ったわけである。 海底ケーブル内で電荷が移動する場合、その微少区間が導体の単位長さ当たりの抵抗値Rと単位長さ当たりの静電容量Cで構成される微少なRC回路であると考えることにする Rを単位長さ当たりの抵抗値[Ω/m],Cを単位長さ当たりの静電容量[F/m]とすると位置x近傍を流れる電流は ということになる。 一方、位置xの時間による電圧の変化はx近傍の静電容量に充電される電荷量から すなわち ということになる。 この偏微分方程式を初期条件を与えて解くと、信号が距離の二乗に比例して遅れるという驚愕の結論が導かれる。これが海底ケーブルの実用化が時期尚早だという大方の見解を支持し、Kelvin卿に海底ケーブル研究が一手に委ねられることになる。導体の抵抗値を下げるために、少しでも高精度に抵抗値を計るためのKelvinブリッジ(4点測定用Kelvinプローブもこの時に発明された)を考案し、海底ケーブルの性能改善に努めた。 この偏微分方程式に関しては、最後の章の分布定数回路の過渡現象に譲るとして。ここでは定常解析を主眼とする。 歴史的には分布定数回路の過渡解析が最初だが、20世紀に入ると電力網や無線通信では分布定数回路として扱うことが避けられなくなってきた。そこで必要なのが分布定数回路の定常解析である。とりあえず過渡解析は必要ない。 |
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題名 | 投稿者 | 日時 |
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分布定数回路の定常現象 | webadm | 2012-9-16 9:59 |
» 概要 | webadm | 2012-9-16 18:59 |
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スミス図表 | webadm | 2012-9-26 6:15 |
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