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webadm
投稿日時: 2012-9-16 9:59
Webmaster
登録日: 2004-11-7
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投稿: 3068
分布定数回路の定常現象
さて下巻も残すところあと2章である。

どちらも分布定数回路に関する理論である。

歴史的には最も最後の章に登場する分布定数回路の過渡現象解析が先で、その後手中定数回路の解析が一般化していった。分布定数回路の過渡現象の解析には、当時初めて登場した海底電信ケーブルの問題が発端であるが、それ以前から地上の電信網でも似たような問題は電信技士の間では周知のものだった。

電信ケーブルの過渡現象の問題にメスを入れたのがWillam Thomson(後にその功績でKelvin卿となる)であり、その論文にインスパイアされ今日電信技士の方程式と呼ばれる定式化を行ったのが若き日のHeavisideであった。Thomsonは彼の生涯の友人である数学者のStokesと手紙を交わして海底ケーブルの問題のモデルを確立した。

しかしThomsonの海底ケーブルモデルには重要な要素が欠如していた。それはインダクタンス成分である。

HeavisideはMaxwellの電磁気学をいち早く研究していたので、インダクタンス成分をThomsonのモデルに加えることで地上の電信網や海底ケーブルで電信信号を加えた際に何が起こるか予測することができた。

Thomsonは後にHeavisideのこの業績を評価してHeavisideを王立アカデミー会員へ推薦する推薦状にサインした一人である。

今日Heavisideのモデルは戦後更に改良されて電信方程式(Telegraph Equation)と呼ばれているが、海外ではTelegrapher's Equationという名前を今でも見かける。これは大分意味が違う。前者は電信時代に考案された式であることだけを示しているが、後者は明らかにかつて電信技士(Telegrapher)だったHeavisideのことを暗に示している。それが尊敬の意味なのか軽蔑の意味なのかはわからないが、19世紀では電信技士は何でも屋で、電信ケーブルの工事もやれば、電信業務(打電や受信)もやっていた。どちらかというと技術者や研究者というイメージからはほど遠い。そんな卑しい電信技士が考えた式だという意外性を伝える呼称なのかもしれない。

下巻の初期に一端子対回路の演習問題で実は分布定数回路が登場したのを今も憶えている。それはまだ自分的には解けていないので、宿敵としてリストに載っている状態である。

一端子対回路は集中定数回路を前提としているが、特定の周波数で駆動点定常解析を行った場合、集中定数回路と分布定数回路は区別がつかないことがその問題で示されている教訓である。

高周波回路では分布定数回路が集中定数回路と同じようにふんだんに使われている。それは運用周波数が定まれば、その周波数では集中定数回路と見かけ上変わらないからである。もちろん過渡現象は違うが、運用時に問題になるのは定常特性である。

さて、前置きが長くなったが、数学的な観点から見ると、集中定数回路と分布定数回路は歴然とした違いがある。

それは距離の概念が加わるということである。

集中定数回路の場合には、距離の概念が無かった。あるのは時間と物理量(電流や電圧、電荷量)の関係である。

分布定数回路ではそれに距離の概念が加わる。伝送路でいえば、信号を加えたところから、信号の出口までに距離があるということになる。その間を微少なインダクタンスやキャパシタンス、抵抗や漏洩コンダクタンスが連続的に連結されているので、入力からの距離によって観測可能な物理量が変わってくるし、またある距離の物理量は時間によっても変化する。

つまり分布定数回路が集中定数回路に比べて扱う空間の次元がひとつ多いということになる。もしくは物理量を表す関数が集中定数回路の場合、時間という単一変数であったものが、分布定椅子回路では時間と距離の二変数になることである。Heavisideは電信技士なら毎日お目にかかっている電信網の奇妙な挙動を数理的に解析しようと挑んだのだから敬服にあたいする。

実のところ個人的には電気回路理論を勉強しようという最初のきっかけは分布定数回路の理論でHeavisideの名前を初めて目にしたことからだった。大分長いことかかってしまったが、ようやく足下に近づきつつある。

しかし伝統的にまず定常解析から入るのが普通らしい。

最初に二変数の関数に関して数学的なおさらいをしておくのも良いかもしれない。今までは一変数だけだったので、二変数の概念がしっくりくるまで時間がかかるかもしれない。いや実際19世紀にはまだやっと1変数の関数論が出尽くしたところで、多変数関数については現在でもまだ未踏の領域がある。

P.S

数学的に十分な前提知識なしにいきなり最初から分布定数回路の過渡現象の解析に挑もうとすることはHeavisideの追体験をする修行としては意味があるかもしれない。

Heavisideも電信技士時代には集中定数回路(ブリッジ回路)とかの解析で論文を出していた。それは電信技士の日常的な業務である、電線の抵抗値を計測したり、受け入れ検査をしたりとかいう仕事に密接に関係するテーマだった。その後、実際に様々な電信網で奇妙な未解決の現象があることを知り、それを解析するためには電磁気学の知識が有用であると見抜いたのはさすがである。これはThomsonですら思い当たらなかった点である。

おそらくHeavisideはそのために19世紀の時点で使える数学はざっとおさらいしたと思われるが、当時の数学界が直面していた厳密性とか構造とかには無縁だったと思われる。それは純粋数学者が頭を悩ませていた問題である。100年前だったらそんなことはなかったかもしれないが、100年前は電気すら無かった。

19世紀の電磁気理論と20世紀の相対性理論でほぼ古典物理学の成果は出そろったことになる。古典物理学は現象と理論の辻褄合わせの世界なので、理論と実際の誤差が十分小さい範囲内に収まれば正しいとされた。どうしてそうなるかまでは解き明かしていない。それは20世紀以降の研究者のテーマである。
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題名 投稿者 日時
 » 分布定数回路の定常現象 webadm 2012-9-16 9:59
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