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webadm | 投稿日時: 2012-12-18 5:22 |
Webmaster ![]() ![]() 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3110 |
基礎方程式とその解 著者は定常解析のページと内容を重複しないようにしているが、ここではおさらいのために、再び線路モデルから考えることにしよう。
特性が均等な線路の単位区間(x)について近似モデルを考える 単位区間は単位長さ当りの線路の抵抗RとインダクタンスLが直列に、単位長さ当りのキャパシタンスCと漏洩コンダクタンスGが並列に接続された逆L字回路から成るものとみなす。 単位区間の左端の位置xと右端の位置x+xでの線路の電流と電圧には以下の関係が成り立つ。 これが分布定数回路の過渡現象時における基礎方程式である。 さてこっからが問題だ。 どうすんだこっから(´Д`;) 寺沢寛一の「自然科学者のための数学概論(増補版)」の偏微分方程式のところを読んでみる。 zがxおよびyの関数であるとき と置くと、次の隠関数表記 を一般に2つの変数に関する一階偏微分方程式という。 実は先の偏微分方程式はi(t,x)とv(t,x)の2つの未知関数からなる連立偏微分方程式なので、いきなり易しくないところから始まるわけである。 基礎数学では未知関数がひとつだけの偏微分方程式論しか扱っていない。 なのでこっから先は応用数学の範疇になるわけで数学書は役にたたなくなる。 先の連立偏微分方程式を解くには既に学んだLaplace変換でs領域に移してしまって考える方法がこれまで学んできた知識とシームレスにつながって判りやすいかもしれない。 しかしあえて、それとは違う脇道を目指してみることにする。 ストラテジーとしては、2つあるかもしれない (1) 未知関数i(t,x)とv(t,x)がそれぞれ独立した偏微分方程式になれば数学の本に書いてある解き方で解けるはず (2) 未知関数i(t,x)とv(t,x)は互いに一次独立なら、それを成分とする未知関数ベクトルをひとつ定義して、それに関する作用素方程式に書き直して解く さてできるかな。 もはや理論というよりもテクニックの世界になってしまったが、分布定数回路そのものもアイデアとしては理論というより近似のテクニックであるのでよいだろう。 (1)についてまず取り組んでみよう 基礎方程式を隠関数表記の形に整理すると 第一式を更にxで偏微分し、第二式をtで偏微分すると ここで未知関数は連続で以下が成り立つとすると 第一式から第二式にLを乗じたものを差し引くと ということになる。 これに元の基礎方程式の第二式にRを乗じたものを差し引くと ということになり、v(t,x)に関する偏微分方程式が得られた これを整理すると ということになる。 i(t,x)に関して同様にすると が得られる。 v(t,x)とi(t,x)それぞれの偏微分方程式は実はまったく同じ形をしている。初期条件が互いに異なるので解は自ずと異なることが予想される。 手元にあるWhittaker & Watson "A COURSE OF MODERN ANALYSIS"のCHAPTER XVIII "THE EQUATIONS OF MATHEMATICAL PHYSICS"には上の式でG=0とした式が以下の様に電信方程式"The equation of telegraphy"として紹介されている。 L,K,Rはそれぞれ単位長さ当りのインダクタンス、キャパシタンスそれに損失抵抗である。 上と同じ式が手元にある寺沢寛一「自然科学者のための数学概論 応用編」に電信方程式として紹介されている。これは素粒子論でスカラー中間子の運動を記述するKlein-Gordon方程式と同じ形であると書いてある。 残念ながら漏洩コンダクタンスを考慮した形についてはどれも記述が無い。難しいからだろうか。 これはHeavisideが1876年の論文で提示した式そのもので、その時はまだ漏洩コンダクタンスGが配慮されてなかったが、1887年の論文では以下の様に 現在知られるような漏洩コンダクタンスGを含めた形になり、今日知られる特性インピーダンスや無歪線路の条件が示されている。 あとはこれを数学の教科書通りに解けばよいことになる。 しかし偏微分方程式の解法理論を他書で一通り学んでからでは何年先になるかわからない(´Д`;) とりあえず自分で考えて、わかんないところが出たら調べることにしよう。 手元の電気学会編「コンパクト版 電気工学ポケットブック」には分布定数回路は定常解析のみで過渡応答解析は割愛されている。他にも掲載しなければならないことが多すぎて、今日的には重箱の隅的となった分布定数回路の過渡応答解析は学校でも教えていないところがあるのかもしれない。つまり試験には出ないと。 しかしやはりここは最後まで貫き通すべきだろう。 寺寛本によれば導出された電信方程式は以下の形の二階偏微分方程式の一種となる。 とすると 寺寛本ではsの項を含む二階偏微分方程式の解法例が2つもあるが、電信方程式にはsの項が存在しない。だめじゃん(´Д`;) 以下の電信方程式を寺寛本の記号を使って隠関数表記してみると ということになる。 実は寺寛本を読み進めると、その後に定係数の二階線型微分方程式というのが出てくる。 a,b,cを定数とし、 で表されるのがそうである。 電信方程式を上の形式に書き直すと... だめじゃん一階の偏微分項がないじゃん(´Д`;) だめぽ。 更に読み進めて、第14章の境界値問題のところに電信方程式がやっと登場する。 それは弦の減衰振動の式 として最初に出てきて、電信方程式とも称せられると書いてある。 この点は分布定数回路の定常解析の時にちらっと触れたのを思い出した。 でもこれは漏洩コンダクタンスG=0の式である。 寺寛本では上の式の一般解が導かれている。それは非常に複雑な長い式となっている。 ましてや漏洩コンダクタンスGを考慮した解はもっと複雑になることは予想に難くない(´Д`;) 寺寛本ではそれ以外に電信方程式の別形式を例に別の解法が示されているが、その過程をなぞるだけでも大変である。 どうすんだこれ(´Д`;) いろいろ参考書を読んでみると表記方法がまちまちでおなじことを書いてあっても気が付かないことがある。 一つは偏微分記号∂(round d)を使う表記方法と、偏導関数で表す方法がある。どちらも同じことを書いているのだが見た目は違ってくる。 例えば、線路の電圧V(x,t)に関する漏洩コンダクタンスも考慮した電信方程式は という感じ。これを偏導関数表記にすると 偏導関数の添え字はどの変数で偏微分したものかを示している。従って関数名は大文字表記にせざるを得ない。 集中定数回路の過渡現象の場合には、解の未知関数は時間tの関数なので、一次元であるが、分布定数回路の場合には、更に端点からの距離xが変数に加わるので二次元の関数となる。 難しくなったように思えるが、集中定数回路と同様に分布定数回路でも与えられた条件に対してその過渡応答挙動は常に一対一の関係がある。同じ入力を与えてるたびに結果がころころ変わるということはないと考えてよい。 先の偏微分方程式の解として、V(x,t)=0というのを考えてみると、これは解のひとつとしてあり得るだろうか? x,tの値によらず常に線路のどこでもいつでも電圧Vが0であるとすると、v(x,t)=0を先の偏微分方程式に代入しても結果は矛盾しないのでそれもひとつの解であることがわかる。 つまり最初から電圧が一切加わっていないか、両端を短絡した状態なら線路のどこで測定しても電圧、電流とも0なのは当たり前である。この場合、外界からの線路への電磁誘導は当然無いという前提である、そうでないと回路モデルが我々が描いたものと異なってしまう。 V(x,t)=0が解であるとしたら、もっと一般的にV(x,t)=Const.は解だろうか? これを代入してみると、R≠0,G≠0の場合には矛盾するので解ではないことになる。しかしR=0もしくはG=0の場合にはRG=0となり解として成り立つことは明らか。 これはR=0,G=0の場合も同じで、無損失線路では受電端から送電端まで電圧もしくは電流が距離時間にかかわらず一定(Const)という解があり得ることになる。 またそれとは別にf(x,t)とg(x,t)がそれぞれ偏微分方程式を満たす解である場合、V(x,t)=f(x,t)+g(x,t)も偏微分方程式を満たすことになる。これは電信方程式が線型偏微分方程式であるからである。 これは代入してみれば明らかのように重ね合わせの理と同じである。 これは線路上を送電端から受電端方向へ進む進行波の電圧と受電端から送電端方向へ進む反射波の電圧がそれぞれf(x,t)とg(x,t)と考えることもできるし、常微分方程式のように過渡解と定常解と考えることも出来る。 過渡解は、時間tが無限大に移行すると0に収束しなければならないので、何らかのtの関数を指数とする指数関数E(t)とxの関数X(x)の積で表されると考えられる。 それでは2つの関数の積E(t)X(x)は電信方程式の解と成り得るだろうか? この場合、微分の時と同様に関数の積E(t)X(x)の偏微分に関してちゃんと定義する必要がある。 手元の共立数学公式の微分学の多変数の関数の章の偏導関数の定義を見ると...明らかな誤植がある(´Д`;) 引用: 定義 1, 多変数の関数F(x1,x,2,...,xn)をxkの関数と考えるとき 0へ極限移行するのはnではなくhの間違いである。 第一次偏導関数と第二次偏導関数、および一般的な第m次偏導関数については省略。これはもう知っている範囲である。 次に偏導関数の基本的性質についておさらいすると 引用:
これも既に知っていることだが、関数U(x,y)の偏導関数Uxy,Uyxがそれぞれ連続だあれば、Uxy=Uyxであるというのと一緒である。 次にいよいよ関数の積の偏微分の性質が出てくる 引用: 公式集なので証明は付記されていないが、証明されているとすると、関数の積の偏微分は1変数の関数の積の微分と同様であることがわかる。(1)のδはKroneckerのδでi=jの時1でそれ以外は0となる関数である。偏微分する変数以外は定数と見なすので偏微分すると0になるしそうでない場合は微分して1になるという意味である。 さてそうすると関数の積の第一次偏微分は、それぞれの関数の第一次偏導関数ともう片方の関数の積の合成となる。つまり偏導関数を含む二次式の総和ということになる。 これを利用し、先のE(t)X(x)関数を電信方程式に代入すると ということになる。 E(t)=0,X(x)=0の自明な解を除くと がE(t),X(x)に関して成り立つか、それが成り立たないとしてももうひとつの条件 を満足すればE(t)X(x)は解であると言える。 上の式の両辺を解の関数E(t)X(x)で割って整理すると というような変数分離形の偏微分方程式が得られる。 R=G=0の無損失線路のケースに限定すると最初の条件は となり、X(x)が定数もしくはxに関する一次式でかつE(t)が負の実数値をとるtの一次式を指数とする指数関数ということになる。 X(x)とE(t)がそれ以外の場合にはもうひとつの条件式から をX(x),E(t)が満たす場合にE(t)X(x)が解となる。この条件が成立するのは両辺が定数でなければならない。この定数を仮にLCμ^2とすると という偏微分方程式が得られる。これを解くと ということになる。従ってE(t)X(x)の関数の積で表される無損失線路の第二条件を満たす解は ということになる。あとは初期条件を与えることで未定係数μ,K1,K2,K3,K4を決定すればよいことになる。 これは解の一部の形を明らかにすぎない。まだ第一の条件の解も存在するだろうし、それらを組み合わせれば無数に解が存在することになる。1変数関数の常微分方程式と違って、一般解をひとつの式で表すというのは2変数以上の関数の偏微分方程式については果てしなく遠い道という気がする。 例えそれが得られたとしても、そこから特定の初期条件の特殊解を得るのは大変面倒なことになりそうである(上の例で5つの未定係数を決定するには少なくとも5つの連立方程式が必要)。そしてその方法が良いとは限らない。 しかし果たして解析的に特殊解をストレートに導く万能な方法があるのだろうかという疑問もある。 学生の頃の卒業研究で3次元で高階の流体(偏微分)方程式を解く必要がある設計問題で解析的に解くのは早々に諦めて得意の計算機プログラミングで数値計算した憶えがある。 もちろん今考えれば解析的に解いても同じ結果が得られたかもしれないし、計算機を使用しなくてもよかったかもしれない(それでも電卓は最低限必要である、出来ればプログラム電卓)。 時間と費用を考えると数値計算の方がよいかもしれないが、誤差解析は必須である。そうするとやっぱり厳密解が必要になり、解析的に解を求める必要が出てくる。 こうした偏微分方程式の定性的な考察は時間がかかるが頭の体操としては丁度良い。19世紀後半には解けない微分方程式の存在が知られるに至って、解くためのテクニックを離れて根本的な理解から始めようとする動きが数学界で繰り広げられた結果現在の抽象的な数学に変貌した歴史的経緯がある。 いろいろ厳密に重箱の隅を掘り進めると、19世紀以前の数学はかなり危うい土台の上に立っていることが露見して構造的な学問へと変貌することを余儀なくされた。 なんの話しだったっけ、ああ偏微分方程式の解ね。 また次の定義も偏微分方程式の参考書には当たり前のように登場する。 引用:
ここまでは2変数以上の関数をそれぞれの変数について、その他の変数を定数として偏微分可能である場合を考えてきたが、それだと特定の座標軸上に沿った微分でしかないが、全方向からの微分も当然のことながら考えられるわけで、いわば空間の全方位からの微分を考える必要が出てくる。 空間の全方向から微分可能なことを全微分可能という。 前出の公式集より引用すると 引用:
多少曖昧な点があるが、これを更に突き詰めるとTopologyの世界に入っていくことになる。 全微分可能な関数であれば、偏微分する変数の順序によらず偏導関数は一致する性質は同じ。 意外にも共立公式集は偏微分方程式論に関してまとまっているので、微分方程式の章の二階偏微分方程式についても少し読み進めてみよう。 最初に二階偏微分方程式の解の存在に関して以下のように書かれている。 引用:
なんのことかさっぱり意味わかりませんが(´Д`;) これも常微分方程式の解の存在定理と同様に、二階偏微分方程式が解けるための十分条件ということだろうか。 手元のdtv-Atlas Mathematik(邦題 カラー図解数学事典 共立出版)で偏微分方程式を引くと、以下の文面に行き着く。 引用:
やはり基礎数学では偏微分方程式は扱わない(扱えない)という既知の事実が確認される。 仕方がないので、無損失線路についてだけちょっと解を求めたやり方で、損失を考慮した分布定数回路での解を求めてみよう。 解がE(t)X(x)で表されると仮定すると、最初の条件式 をMaximaで解くと ということになり、解は と表されることになる。 別の条件を満たすE(t),X(x)はちょっと複雑だが両辺をE(t)X(x)で除して整理すると これが成立する両辺が定数(分離定数)となる場合を考えると、その値を-μ^2と仮定すると を満たすE(t),X(x)を解く問題に帰着する。 これをMaximaで解くとそれぞれ3つのケースに分類され ということになる。 実際には上のそれぞれの組み合わせになるわけでE(t)X(x)のバリエーションは9通りあるということになる。それだけではなく、任意の分離定数による解が存在しそれらの解の任意の総和もまた解ということになる。 上記はμ^2が正の値を取る場合である条件で振動的な解が現れるが(これは1887年の論文でHeavisideが既に示している)、負の場合を取る場合、すなわちμが純虚数の場合には正の値をとるR,G,L,Cに限定すれば双曲線的な解のみとなる。 ここでは具体的に初期条件を与えて特殊解を求めることまでは踏み込まないようにしよう。それは演習問題やることに。 これ以外に解を求める伝統的な方法は沢山ありそうだが、参考書に載っているものは一般解でよく判らないので、ここでは言及しない。 telegraph equationで検索すると最も簡潔な一般解がEncyclopedia of Mathmaticsに示されている。最初に導出した二階偏微分方程式の両辺をLCで除して、 ここで と置くと という形式になる。 R=G=0の無損失線路の条件だと、上の式は波動方程式となる。 損失がある線路では、波動方程式と熱伝導方程式(拡散方程式)の両方の性質を併せ持つことになる。歴史的には熱伝導方程式が最初でそこからWillam Thomsonの海底電信ケーブルのモデル(RC分布定数線路)が考え出され、それにHeavisideがインダクタンスを加えて熱伝導方程式と波動方程式の両方の性質を持つモデルに拡張した。 偏微分方程式の薄い参考書では波動方程式と熱伝導方程式しか扱っていない。Whittaker & WatsonのA COURSE OF MODERN ANALYSISも同様であるが、電信方程式は紹介するにとどまっている。 Encyclopedia of Mathmaticsで紹介されている解法は、第二次世界大戦前後に初版が出版された2巻併せて1000ページ近くになるCourantとHilbertによる"Methoden der mathematischen Physik:Vol 2"のPartial differential equationsが初出らしい。戦前と戦中および戦後でVol2の内容が改訂の度に最先端の概念を取り入れてブラッシュアップされており、初版とは別ものらしい。これもいずれ最新版を手に入れて見てみることにしよう。ちょっと高額であるが。Vol2だけでも十分か。 おそらく今日多くの偏微分方程式論のネタ本になっているのが、上のCourantとHilbertの本であろうと思われる。 解法の続きに戻ろう。 既に分布定数回路の定常解析で学んだ通り、線路上の電圧と電流は送電端から受電端方向へ移動する進行波と受電端から送電端方向へ移動する反射波の合成で表される。 そこに着目して、互いに進む方向が異なるがそれぞれ同じ線路によって波形が同じような変化を受けるはずなので。 互いに正反対方向に移動している進行波と反射波を同一の座標系に線型写像する。 時間とともに現在の座標から波の移動速度に比例して進行方向に原点が移動する座標ξと、もうひとつはそれとまったく逆方向に原点が移動する座標ηをそれぞれ以下のように定義する。 したがってこの新しい座標を使って未知関数v(x,t)を表すことができる。 v(x,t)がxとtに関して定義区間内で全微分可能であればその偏導関数も新しい座標に変換することができるので 従って元の偏微分方程式はξとηを使って と書き直すことができる。 これは以下の一般的な線型二階偏微分方程式 の分類でA=0,C=0でB^2-AC>0の双曲型偏微分方程式(hyperbolic partial differential equation)に入るらしい。 そういえば最初から双曲型をしているじゃん、早く気づくべきだった、大失敗(´Д`;) 適切な変換によって以下のようになるらしいが、もうそうなってるじゃん(´Д`;) こっからどうすんだ(´Д`;) どうやら順番を間違えたくさい。先のEncycropediaでは詳しい導出仮定を一切省いているので自分でやってみるしかない。 前半に独自に局所的な解を求めたが、それはE(t)に共通してtに関する一次式を指数とする指数関数があったのを思い出す必要がある。そうであれば、未知関数を先にその形に仮定して代入してみればよいことになる。 これを代入すると ということになる。一次の偏導関数の項が消失した。 この後で座標変換すればよかったのである。 両辺を4c^2で割って整理すると という極めて単純な形式になる。 これは線型代数的にみれば-λを固有値とする固有方程式である。 この方程式はSturm-Liouville型方程式の特別な場合らしいが隅々まで見て学ぶ時間が今はないので、おきまりコースだけ辿ることにしよう。Strum-Liouville型方程式および固有値と固有関数の理論については、寺沢寛一「自然科学者のための数学概論 応用編」に詳しいのでそちらを参照のこと。 ここで更に特殊なケースでα=R/L=β=G/CもしくはR=G=0の場合、固有値λは0となり ということになる。 未知関数Uはξとηによらず一定であることになる。これはR/L=G/Cの無歪み線路やR=G=0の無損失線路では波が歪まずに最初の姿のまま線路上を伝わることを意味する。 無歪み線路や無損失線路では、ξとηで上の方程式を二重積分することによって未知関数Uが得られる という具合に2つの関数の和で表されることになる。それぞれが進行波と反射波のξ、ηの座標系に線型写像したものである。 これはd'Alembertの解として知られるものである。d'Alembertはフランスの数学者で、フランスの砲兵隊士官を父に社交界で有名な元修道女を母として生まれたが非嫡出子であるため修道院に捨てられ修道院名であるd'Alembertを名乗った。ガラス職人の夫婦に預けられ。その後独学で学んだ数学で才能を現し春分・秋分の歳差問題の解決やd'Alembertの原理を始めとする百科全書の力学や数学の執筆などで功績があり、一方で論争を巻き起こすことにもなった。 当時砲兵隊というと砲弾の軌跡などを予測計算するために最先端の解析学をマスターしていた秀才揃いであったから、持って生まれた数学の才能を子孫が受け継ぐのは当然かもしれない。Cauchyが解析教本を執筆したのも優秀な砲兵隊を一人でも多く養成するための時代の要請でもあった。大砲もただ数撃てば当たるというのではだめなのである。砲兵隊員が優秀だと大砲がボロでも良く当たるということになる。日本軍の将校は兵隊をただの大砲の弾のように考えていたようだが、そのあたりが勝敗につながったかどうか議論するつもりはまったくない。 そういえば北朝鮮の新しい指導者は当初から砲兵に詳しいと紹介されていたが、その意味することは数学や科学知識に長けてたインテリであるということを博付けするためのものだろう。少なくとも欧州ではその意味に取られることを意図したものであろう。 なんの話しだったっけ、ああ、d'Alembertの解を話したところだった。 話しを元にもどそう。 無歪み線路や無損失線路のような特別な場合についてだけ触れるだけで終わっている参考書も多い。なにか大事なことを忘れていないか? 大学だと半年でこの辺りを他のテーマも含めて講義しないといけないので、一番みたいものをものを見せない観光コースみたいな詐欺みたいなことになるのは致し方ないが。 先ほどの続きに移ろう 先のEncycropediaでは、解としてRiemann関数を示すだけにとどまっている。ところでRiemann関数ってなんだ? って同じページのリンクを辿ると以下の様な三角関数 が収束し以下の二重積分が成り立つ関数fが存在する場合それをRiemann関数と呼ぶらしい。 ページ下部の参考資料のところに知らない別のキーワードRiemann methodというのがあるのを発見。なんですかこりは? 更にリンクを辿ると Riemann methodとはRiemann-Volterra methodとも呼ばれるらしい。Volterraは積分方程式理論で登場するRiemann methodと同じ解法を積分方程式で独立に発見した数学者だ。 それは何かというと、電信方程式を含む二変数の双曲型偏微分方程式に関するGoursat問題およびCauchy問題を解く方法である。Cauchy問題は常微分方程式にもあった初期値問題である。Goursat問題というのは初耳である。Goursatというフランス人数学者は戦前に解析教程に関する大書を出版して当時の数学者なら知らないひとは居ないらしい(純粋数学者からは不評だったが)。かの高木貞治が解析概論を執筆開始したのもGoursatの解析教程を全訳した人物が出版社に持ち込んだ話しが伝わったのが契機らしい。 Goursat問題のリンクを辿るとようやくRiemann関数やRiemann method(寺寛本の応用偏にはRiemann積分法とあるもの)の全容が見えてきた。 以下の二変数の双曲型偏微分方程式を考える 上記の方程式を満たす未知関数u(x,y)が以下の定義領域Ω内と境界条件の下で正則で、Ωの境界を含む閉包内で連続であるとする ここでφ,ψは共に繰り返し微分可能な任意の関数。FがΩとその境界を含む閉包内の座標(x,y)において連続かつ、任意の座標系の実数変数u,p,qと偏導関数Fu,FpそれにFqの絶対値がある値よりも小さい場合に限り解が存在しかつ唯一であるというもの。 ここで以下の非同次双曲型偏微分方程式 の解を表すのに以下の方程式を満足するRiemann関数、R(x,y;ξ,η)が用いられる。 座標(ξ,η)をax,bx,cが連続な定義領域Ω内の任意の点とし、、x=ξ,y=ηにおいて を満足するRが存在する場合 φ=0,ψ=0の場合Goursat問題の解は以下のRiemann公式を用いて表される というもの。でもこれは非同次双曲型偏微分方程式の解だよね。今問題にしているのはf=0の同次双曲型偏微分方程式の解なんだけど(´Д`;) 良くみたらRiemann methodのページの後半にその解が書いてあった、複雑過ぎて読み飛ばしていた...orz 以下の双曲型偏微分方程式を考える ここでGoursat問題と同様に以下の偏微分方程式を満たすRiemann関数が唯一存在する それはa=b=0,c=constの場合、z=(x-ξ)(y-η)と置くと一変数の常微分方程式 と書き換えることができる。これを更に座標変換してBessel微分方程式 に変換することを意図して、r^2=4czと置くと であるからして という0次のBessel微分方程式に帰着する。この解は であることが知られている。J0は0次のBessel関数である。この理論で使われている補助変数ξ、ηそれにtは、座標変換で導入した新変数とは無関係であることに注意。混同しないように。 この解法は、寺寛本の第14章の14.20 Riemann積分法の応用例に書かれている内容を参考にしたが、寺寛本では最終的なBessel微分方程式に誤植があるのと詳しい導出過程は省略されているので注意しておく。 最終的に区間{(x0,y0);(x,y)}で偏微分方程式を二重積分することによってRiemann関数を用いて以下の形式が得られる この解法はRiemannによって提案されたのでそれにちなんでRiemann method(寺寛本ではRiemann積分法)と呼ばれている。 とにかく電信方程式の解は複雑だということが判ったのでよしとしよう( ´∀`) それで電信方程式が手元の最近刊行された偏微分方程式の参考書には出てこないのね。 解法を説明するための事前準備だけで大変なページ数を割かなければならないからね。そして一般解が得られたとしても特殊解をそこから求めるのは更に説明困難。 これだけ判っただけでも収穫である。 電信方程式の一般解の詳しい導出過程はここには書ききれないので、寺沢寛一「自然科学者のための数学概論 増補版」を参照して欲しい。第14章の境界値問題の14.20 Riemann積分法の応用例として例2で上の方程式が出てくる。初期条件を与えて境界値問題を解いてu(ξ,η)を導くところまで大筋が書かれている。その他に電信方程式に関する別解がいくつか解説されている。とても追うだけでも難解である。いずれにせよBessel関数と初期条件を用いた解が得られている。 そういえば以前どこかで書いた、前の会社の社長さんが学生の頃の物理実験で円盤上に粉を蒔いて振動を加えるとある周波数で規則的な模様を描くのを観測してそれを考察するレポートで、独自に微分方程式をたててそれを解いた結果を出したら褒められて、最新の数学ではBessel関数を使った解があるというのを教えてもらったという話しを聞いた。おそらく同じような双曲型偏微分方程式のGoursat問題だったのかもしれない。陽子の周りに存在する電子もある振動を与えると決まった分布に集まるというのもあり得るかもしれない。きっとそういった方向へ発展する実験だったのかも。 さて前半のアプローチで大分かかってしまったが、後半のアプローチであるベクトルと演算子法を使った解法に臨むことにしよう。 19世紀にHeavisideはどうやって電信方程式の解を得たか大変興味があるが、おそらく詳しい導出過程までは示していないことが容易に想像が付く。 つまりHeavisdeは当時既に電信方程式の一般解をある時点から知っていて当たり前の様に用いていたということになる。今の大学では教えもしないし教科書でも華麗にスルーしているというのに。 で最初にどうやって求めたのかが謎。詳しい導出過程は書かれていないが、以下の部分を見ると、どうやら1/2べきの演算子が現れる微分方程式を解いた解の無限べき級数の形から見当をつけたとしか思えない。 これは当時も今も数学者が認めない方法で結果が正しくとも誤りだとされている。今では変数変換で2変数の偏微分方程式を1変数のBessel方程式に書き直して同じ結果を得るのが物理数学の常套手段である。 それ以上の謎解きは止めて、現代風に自分で考えてみよう。 ベクトルと演算子を使用するためには、これまで学んできたことをかなり反芻する必要がある。初歩の直流回路から分布定数回路の定常解析まで。学校ではそんな時間はないのでさっさと定式化されたものを詰め込むことになるが、本当は反芻して自分で考えた方がよいに決まっている。しかしそれだと進み具合に個人差が大きくでてしまってほんの一握りの人以外は落第となってしまう。 学校も商売だから落第されて止めてしまっては収益が落ちるので、なんとか落第しないように工夫すると今日のような観光バスガイド付き団体旅行みたいな形になってしまう。 最初に書いたように偏微分方程式に関して系統的に学ぶだけで数年はかかってしまう。そしてその大部分はこちらの主題とはかけ離れたものだ。 最初に何故電信方程式の一般解が難しいのか理解するところから始めたほうがよいかもしれない。それが集中定数回路の過渡現象とどう違うのかも。 伝統的には問題の発端から考えていくのが普通だが、逆に解の方から問題へ向かって考えるというアプローチがあるはずが、どうも見かけない。 例えば、無限長の無損失線路の送電端にステップ入力電圧を加えた場合の解を考えてみると、無損失なのだから線路上の進行波の波形は入力波のままということになる。しかも受電端が無限遠点にあるので反射波は永遠にやってこないので線路上は進行波のみとなる。 解は単純に時間と共に線路上を受電端方向に移動する電圧1のステップ関数ということになる。これを時間と送電端からの距離を座標軸とする平面上に垂直に電圧をプロットすると、 というはんぺんのような立体表面と波が伝わることのない領域の三角形の平面をつなぎ併せたような矩形面ということになる。 v(x,t)は2変数の一価関数なので厳密には二次元平面上の座標から1次元の座標への写像になる。さてこの解を解析関数で表すことができるのだろうか? かなり面倒そうなことが容易にわかる。 例えば時間tをt0に限定してxに関するv(x,t0)をプロットすると という矩形波になる。これはFourier級数で近似出来そうである。 同様にxをx0に固定してtを変化させた場合も こちらも矩形波なのでFourier級数で表せそうである。 しかし解の平面を全て表すにはどうすればいいのだろう? やはり級数になりそうな予想はつくがそれ以上は見当がつかない。 またx,tいずれか一方を固定とした場合の関数の導関数はどうなるのだろう? 一応区分的には連続であるから、級数の項別微分が可能かもしれない。しかしそれ以上のことはわからない。 どうも平面上の点(x,t)からv(x,t)への写像だと面倒であるから、いっそのこと(v(x,t),i(x,t))という平面への写像を考えたほうがよいのではないかという考えも浮かぶ。 と置くと基礎方程式は演算子を用いて Uが零以外の関数である場合、演算子Fは非可逆でなければならないから という関係が成り立つことになる。 いかにもそれらしい式が得られるが、これらが何を意味するのかすら見通せていない。 考え直そう。 良く見ると上の結果は電信方程式の微分演算子そのものである。つまり電信方程式は基礎方程式の特性方程式だったのだ。電信方程式のエレガントな導出方法を偶然見つけてしまった感じだ。 電流と電圧の関数ベクトルで考えると、先の無限長無損失線路の解は極めて単純に表すことができる。 時空平面上の(x,t)はその座標によって電流と電圧のベクトル空間の平面上の2点のどちらに写像されるか決まることになる。なるほどこれだから非可逆なわけである。(x,t)を与えれば電圧と電流が一意的に求まるが、その逆は出来ない。写像が単射でも全射ではないからである。 そうすると基礎方程式ではなくその特性方程式である電信方程式そのものを解く必要が出てくる。係数を置き換えて整理すると ということになる。 ここでUを前半に独自に導いた局所的な解の形式を代入する形で以下の様に置き換えると 一階の項が消えて ということになる。 ここからα=β=0(無損失線路)もしくはα=β(無歪み線路)の場合 となり、波動方程式となることがわかる。 このことは無歪み線路の条件を利用した信号ケーブルの特許を出願していたHeavisideが既に承知済みである。 この部分の議論は先に紹介したCourant&Hilbertの著書の192ページに登場する。先に紹介した寺寛本に書いてあるRiemann積分法による解法はGoursatの著書の153ページに見いだすことができた。そこには出典が1894年のフランスの数学者Picard(ピカール)の論文であると脚注に記されている。Goursatはそれ以前に知られている最新の解析学の成果を百科全書的にまとめ上げただけであるが、当時の最先端の数学者から見るとどれも古典的内容だったというわけである。それが日本では寺寛本の中に受け継がれているわけで、複雑な心境である。高木貞治はGoursatの著書に一騎打ちすべく解析概論を執筆したものの、同じ穴の狢になった感が強い。高木貞治が現代に蘇れば、「我々(日本人数学者)で新しい本を出版すべき時が来ているのでは」と仰るに違いない。Topologyに基づいた解析学は既に海外ではいくつか出版されているが、日本では古典的なものしか見あたらない。やはり学校で教えるにはTopologyが躓きの石となってしまって、古典的な教え方のほうがてっとり早いからかもしれない。そういう自分も定評のあるL.V.AhlforsのCOMPLEX ANALYSIS 3/eを手にとって読んでみたが、Topologyが出てきたところで挫折した。そういえばH.Legesugueの論文を読んだときも初っぱなからTopologyが判っていないとついていけないので挫折したんだっけ。 なんの話しだっけ。 さていよいよ上の作用素方程式の一般解を演算子法で解くことにしよう。 と書いたところで思い出したのだが、演算子法の欠点は作用素方程式の中に初期条件を与える不変量が含まれていないといけない点である。つまり演算子法は他の解法と違って一般解を導いてから初期条件を与えて未定積分定数を決定するということができないので、最初から積分定数を含んでいる必要があるのだった。 演算子法をつかわずにオーソドックスな線型同次微分方程式の解法を用いれば距離xに関する局所的な一般解が得られるが、それは読者の課題として、ここでは演算子法に徹する。 古い演算子法による分布定数回路の過渡解析について書いてある本を見ると、やはり演算子p=∂/∂xに関して先に常微分方程式の方法で解いて(q=∂/∂tは定数して扱う)それに関して初期条件を適用してqを確定するということをしているが、どうもよく判らない。 行き詰まったので、Heavisideの論文集Electrical Papers Vol Iを最初から眺めていたら、繰り返し以下のような記述が異なる論文(というよりもPhi Mag誌の連載)に繰り返し出てくる。 後で自分で手を動かしてなぞってみることにするが以下の結果が得られるとある。これはFourierが最初に用いた方法だと書かれている。 なんだ演算子法で求めたわけじゃないのか( ´∀`) ちょっと肩の荷が下りた気分。 Electrical Papers Vol IIを読み進めると、192ページの"Section XL. Preliminary to Investigations concerning Long Distance Telephony and Connected Matters"にHeavisideがW. Thomsonの海底ケーブルに関するRC線路理論に触発されて欠落していた導体の自己誘導成分と漏洩コンダクタンスを加えた現在知られる電信方程式のアイデアを生み出した経緯が書かれている。同時にW.Thomsonの結果を無批判にそのまま地上の電信線路に流用した論文を書いたMr. Preeceを何度となくこき下ろしている。それ以外の論文(雑誌の連載)でも1ページ中に何度となくMr. Preeceの名前が登場し批判の火花を散らしている。 まだElectrical Papers Vol IIの半分まで眺めただけだが、通勤バスの行き帰りの際に考え続けた結果、演算子法で解けそうな気がしてきた。 まず、集中定数回路の時と同じように、元の作用素方程式を積分して初期条件によって決まるシステムの不変量としての未定積分定数(ベクトルポテンシャル)を出現させる。電信方程式の場合、時間と距離に関してそれぞれ二階の微分項があるので、最初に距離に関して二度積分する。 演算子法の場合、積分は微分演算子pの逆演算子1/pを乗じるだけで済む。これをベクトルVについて解くと と思ったら記事の分量上限に達してしまったので、フォロー記事で続きを書くことにしよう。 |
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webadm | 2012-12-18 5:18 |
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webadm | 2012-12-18 5:22 |
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webadm | 2013-2-15 8:37 |

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