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webadm | 投稿日時: 2019-8-12 7:52 |
Webmaster 登録日: 2004-11-7 居住地: 投稿: 3107 |
BWV anh. 113 F-dur Menuet 1725年のアンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖には大バッハ自ら写譜した自身のパルティータから2曲の後に最初にアンナ自身によって写譜された作者不明の Menuet があり、それが BWV anh. 113 と整理番号が付けられている。
さすがに大バッファに12歳の頃にクラヴィーア演奏を習いに師事していたアンナであっても、パルティータは難し過ぎたのかも。その後は初心者向けの曲が写譜されていくことに。 有名なのはその次に写譜されたのが大バッハと親交のあった Christian Petzold のクラブサン組曲からの2曲(BWV Anh. 114, 115)で、これは子供たちにも人気で、その後に記されている曲は作者不詳でも明らかにChristian Petzold の Menuet にあるモティーフが使われており、バッハ家の息子達の誰かの習作と思われる。 さてうんちくが長くなったので、譜読みをしてみた結果をば。 この曲は以前に紹介したアンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖本の中でも取り上げられていないものもあり、また難易度順にしている本では、Christian Petzold の曲よりも後になって順番が逆になっているものもある。 易しい順でいくと、Christian Petzold が先で、この曲は少しそれよりも難しいということになる。 実のところ譜面を見た限りでは、2声だし、装飾音が比較的多いという点を除いては、バイエルの途中から併用してもよさそうな気もする曲。 しかし丹念に譜読みをするとバイエルにはなかった以下の4つの難所が見えてくる。 (1) 前打音の演奏解釈 バイエルの生きた時代はロマン派後期で、前打音と言えば短前打音(小音符に斜線が入った記号でそれ以前の時代の前打音と区別される)acciaccaturaで、アクセントはもっぱら主要音につけて、前打音は限りなく短くもしくは、その前の音の音価を食う形で演奏するのが常。 それに対してバロック期の前打音は長前打音で、前打音である非和声音にアクセントがあり、音価も主要音の半分程度の長さで演奏する(場合によっては主要音より長い音価を食う)、appoggiatura で小音符に斜線が入っていないことで区別できる。 まずもってここを間違えると曲が台無しになってしまい、名が伏せられているとは言え作曲者に申し訳ないことになる。 Youtube とかで模範演奏動画を探すと、自前で演奏しているのはまだちゃんとしているけど、酷いのは譜面作成ソフトで自動演奏しているものがあり、問題の前打音が長前打音ではなく短前打音に入力ミスされたままのものがあるという点。まったく噴飯ものである。もしかしたら譜面作成ソフトが短前打音しか入力できないクソだとか? 少なくとも原典版でなくても正統な楽譜出版社から出ているアンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帖本であれば前打音記号は間違っても近代の短前打音に誤植しているということは無いはず。あってはならいのだ。 バロック期の曲は前打音に要注意ということでひとつ。 (2) 装飾音の演奏解釈 バロック期の曲には頻繁に装飾音が付けられていて、それがバロック(いびつな真珠の意味)という名の由来でもあるけれども、それ故にそれ無くしてはバロックとは言えない。 問題は演奏方法が細かく記譜されていないため、どう演奏するかは解釈によって分かれるところ。 長年の研究成果によって、装飾音の最初の音は主要音の2度上の非和声音となるのがデフォルトで、臨時的にその前の音が既に経過音として同じ音を使っている場合には、主要音から始めるか、2度下の非和声音から始めるというルールがあったぽい。 トリルのような何度も音価が許す限り繰り返しできる場合には、回数は決まっていない。これも奏者の良識に委ねられている。 問題は、装飾音の実際の演奏は、主要音の4分の1か8分の1の音価の繰り返し音型となるため、場合によってはバイエルの時には出てこなかった32分音符や64分音符相当の音型になる点である。 それらを軽やかに自然に違和感なくかつシームレスに演奏するのには相当の熟度が必要であることは想像に難くない。 バロック期のような沢山の装飾音は時代とともに使われなくなっていき、例外的にショパンとかバロック期の作曲家を尊敬して止まない作曲家が近代の演奏法に逆らってまで使い続けたぐらい。 ならば用法が限られたそっちの時代の曲を先にさらえばいいじゃんという安直な考えもあるけど、やっぱり基本はバロック期なので、それをさらってからその後の変遷を追体験するのも悪くないと思う次第。 ただしロマン派時代の曲は初心者向けの曲が皆無だしね。 (3) 上声部とバスのリズムが異なる BWV Anh.113 を譜読みしていて驚愕の事実が発覚。 最初の部分はいいとして、後半の部分で右手と左手のリズムが異なる部分があるため、片手づつ弾くのは簡単でも両手合わせると弾けないという箇所があることが判明。 どうすんだこれ(´Д`;) 幸いにしてこの曲の場合、8分音符で数えれば8分音符2つが右手の四分音符に対応するので、ゆっくり合わせて練習すれば克服できる感じ。 こういうのはショパンの曲にも良くあるよね。 (4) ノート・イネガル演奏解釈 バロック期の記譜法では、同じ音価の音が続く場合に、記譜上は音価が等しくても、実際の演奏時には必ずしも均等ではなかったというのが近年の研究で明らかになっています。 なので、そうした研究成果に基づいて均等に同じ音価が並んでいる音型についても見直しされて、演奏時の音価を適切に変えるという解釈がされている校訂の版も少なくありません。 しかしそうした解釈にはルールが無いので、校訂者の解釈によってまちまちの結果になります。 とりあえずはわからないので、参考譜の通りに弾くことになりそう。 大抵は記譜されているよりも短い音価になるか、音と音の間をつなげないようにする感じにする校訂が多いぽ。 以前紹介した「正しいクラヴィーア奏法」でもテンポが速くなるにつれ、記譜されているよりもより短くするというのが昔からの暗黙のルールぽい。 レガート奏法というのはバロック時代にはデフォルトではなかったのよね。音が重なってもやんとした響きが好まれたのはロマン派時代になってからだし。それ以前ははっきり粒の良い響きが好まれたというのもあるよね。 ということで、難所が見えたところで、部分練習に入ることに。 難所の多い後半の部を先に取り組んだほうがいいね。特に最後のコーダ部分が聞かせどころでもあるので、念入りに練習する必要があるかも。 2部構成の曲だけど、これはバイエルの最後の106番と一緒だね。なんとなくつながりを感じる。 模範演奏としては、長前打音がちゃんと演奏されていて、難所もクリアしている以下の動画を。楽譜作成ソフトの自動演奏ぽいけど良くできているね。 投稿チャネルの動画一覧を見たら同じ曲でも上の原典版の他に Student edition(演奏譜版)もあって、そっちは指番号がすべての音符に振ってあるし、前打音や装飾音も詳細に記譜されているといもの。今まであちこちの版をとっかひっかえ見ながらああでもないこうでもないと思考錯誤して譜面に指番号を書いていた苦労はなんだったんだ(´Д`;)、いやバロック期だけじゃなく運指は最終的に自分で設計するもんだし、あくまでも参考ね。鵜呑みにしないように。 Bach とあるけど、正確には作曲者不明。 他にもデジタルピアノ生演奏のがあったけど、一部の前打音とか省略したりしていたので残念ながら却下(´Д`;) あとyoutubeにアップロードされた知られていないCDアルバムとかもあるけど、そっちはいろいろ曲が入っていたりして参考にはなるけど、演奏者の現代的な解釈による演奏なので、自由なテンポルバートはあるは、ため(こぶし)が効いているわで、模範演奏にはお勧めできないもの。 コンピュータの自動演奏音源だけでは申し訳ないので、ハープシコードのプロの演奏をば紹介します。 んじゃ最後の方から部分練習開始しま。 |
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